三毛猫ミーのクリスマス 19話目 新しい飼い主が見つかって里親のところで暮らしているニャ

https://note.com/tanaka4040/n/nd3a9c76ca64bから続く


筆 者 注
16話から23話は、猫同士の戦闘シーンが苦手でしたら、読まないほうが無難です。

24話までお進み下さい。
24話から御覧になっても(7話分とばしても)繋がるストーリーになっています。

では、どうぞ、お進みください


 しばらくすると、出港時間を調べに行った猫が戻ってきて、
「午後三時に出港」
と伝えてくれた。会戦《かいせん》時間を考慮すれば、正午までに敵を見つける必要がある。
「できれば、夜戦《やせん》に持ち込みたい」
と、あたしが独り言《ご》ちると、黒猫クーが、
「どうして?」
と訊ねた。あたしは指折り、
「猫の強みは、七つある。柔軟な体。すばしっこい動き。走るスピード。ジャンプ力。するどい爪。よく聞こえる耳。夜でも見える目」
「そうだね」
「これらの強みのうち、夜目《よめ》が利《き》くのは、夜だけ」
「やつらだって、暗視ゴーグルを付けているよ?」

 すると、もの知り猫のリューが、人差し指を立てながら、
「暗視ゴーグルは、静止した目標を探すのに適していますが、動き回る標的《ひょうてき》を捕捉《ほそく》するのに向きません」
「どうして?」
「被写体《ひしゃたい》が動くと、映像がブレるからです。機械の目を通して見る限界です」
「裸眼《らがん》で見るのとは違うんだね」
「はい。それに、映像がフルカラーではなく、緑の単色で見えますから、物体を、濃淡《のうたん》で見分けなければなりません」
「僕たち猫も、暗闇では、白黒テレビのように見えているけど?」
「慣れの違いです。人間には、フルカラーが当たり前。一方、夜の猫は、モノクロで当たり前」
「それなら、確かに、見づらいだろうね」
「さらに、約一キログラムのゴーグルを頭部に装着しますと、頭が重くて、バランスを取りにくくなります」

「だいたい、千ミリリットルのペットボトルを、頭に付けて、動くようなものね」
「また、人間の目は、遠くを見通すのに適していますが、光量の少ない夜ですと、遠くまで見えませんから、不利です」
「その点、猫は、遠くは見えないけど、近くは、少ない光量でも、よく見えるもんね」
「そうです。猫の目は、夜間の狩りに適しています」
「かなりハンデがあるね」
「最大の難点は、視野です。人間の視野は、左右あわせて二百度ですが、暗視ゴーグルを付けると、四十度まで狭《せば》まります」
「五分の一?」
 あたしはニヤリと笑って、
「横や後ろから攻撃されたら、見えないってことさ」
と付け加えた。それなら、楽勝。
「接近戦になれば、重い暗視ゴーグルが、かえって邪魔になるはず」
 そこへ、伝令が戻ってきた。

「敵、発見!」
 伝令の話によると、敵の三人組は、島の中心部に位置する火山付近にいるらしい。
「他に、情報は?」
 ボス猫のハローが、身を乗り出して訊ねた。
「被害者は、出ていない模様」
「なんで分かるんじゃ?」
「猫の子一匹見つからねえ、と文句タラタラの様子」
「おうおう、探しても見つかんけぇ、カバチもんくたれるしかありゃせんのじゃろが」

 あたしも身を乗り出して、
「他に何か言ってなかった?船が、どうとか」
 伝令は、首を捻《ひね》り、一生懸命、思い出そうとしていたが、やがて、
「そういえば、夕飯どうするとか」
「それよ!よく思い出して」
「えっーと。夕メシ、どうする?屋台のジャンクフードは飽きた。それじゃあ、旅館でメシ食う?旅館のメシは高いだろ。じゃあ、湯治場《とうじば》に帰って自炊する?仕方がない、そうしよう」
「湯治場に泊まっているんだね?」

 決まった。やつらは、今日の船で帰らない。次の定期便が来るまで、最短でも一週間は滞在する。
「決戦は、今夜。猫ヶ原《ねこがもり》にて。そう、みんなに伝えて」
と伝令に頼んだ。
「やつらが移動したら、常に、居場所を捉《とら》えておいてね」
 伝令のハンゾーは一言、
「承知」
と短く答え、消えるように去っていった。
「それじゃ、作戦開始まで、寝て、体力を蓄《たくわ》えておいて」
と、あたしは、見晴らしの良い大木を登り、太い枝の上に座った。黒猫クーも、あとをついてくる。
「ミー姉ちゃん、一つ聞いてもいい?」
「なに?」
「どうして、人間を嫌うの?」

 あたしは不意を突かれ、うろたえた。
「そんなつもりじゃ……」
「そうかな。思い過ごしかな」
「そうよ」
「僕は、人間のところで生まれて、途中まで人間に育てられて、母親と一緒に捨てられたけど、人間に拾われて、ここで人間と一緒に暮らしているから、人間を嫌う気持ちが、分からないんだ」
「そう」
「だから、どうして、人間を嫌うのか、教えてくれない?」
 あたしは、話題を変えたくて、答えずに、
「お母さんは、どうしたの?」
と問い返した。
「新しい飼い主が見つかって、里親のところで暮らしているよ」
「あんたは一緒じゃなかったの?」
「まだ、僕が小さい頃だったから、大きくなるまで、この島で育てるって約束になっているみたい」

「じゃあ、いつか、お母さんと一緒に暮らせるのね」
「うん」
「良かったじゃない」
「うん。そんな人間を、僕は好き」
 黒猫クーの体験談を聞いたあたしは、つい、
「あたしは、嫌い」
と、本音を漏らしてしまった。
「やっぱり!そうだと思っていたよ。どうして?」
と問われて、答えるのに躊躇《ためら》っていたが、意を決して、
「あたしの夫が、人間に、殺されたからさ」

「え?」
「ショーに生き写しなアメリカンショートヘアの優しい猫だった」
「……」
「名前も同じショーだった」
「うん」
「通い婚だから、あたしが夫の家へ行ったり、夫が来たり、結婚してから、十一歳になるまでの十年間、仲むつまじく暮らしていた」
「うん」
「ところが、ある日、夫の飼い主が、夫のショーを、車で、動物愛護センターへ連れて行ってしまった」

「え?」
「新しい引越し先では、猫を飼えないという理由で」
「な……」
「たった、それだけの理由で、あたしの夫は、ガス室に入れられ、もがき苦しみながら死んでいった」
「……」
「それでも夫は、飼い主を恨んでいないと思う」
「うん」
「楽しかった飼い主との十年間を思い出しながら、笑って死のうと思ったはず」
「……」
「安らかな死に顔だったと信じたい」
「……」
「そう思うと、やりきれない気持ちで、胸がつまるのさ」
「そうだったの」

「そんなあたしが、どうして、人間を好きになれる?」
と、一気に打ち明けた。それを聞いた黒猫クーは、
「ごめんね。つらい過去を、思い出させちゃったね」
と謝り、しばらく、沈思黙考《ちんしもっこう》していたが、やがて表情を明るくして、
「強みで戦うって言ったよね?」
「そうだよ」
「僕も、僕なりの、強みで、戦う」
「え?」
「ローコーの所へ行く。それじゃ」
と走って行った。
 ボーッ
と船の汽笛が鳴る。出港が近いようだ。

 雲が低く垂れ込めた埠頭に、乗船客が続々と集まって来ては、順序よく、船へ乗り込んでいる。
 やがて、船は埠頭を離れ、港を出、暗雲《あんうん》が迫り来る海の遥《はる》か彼方《かなた》へ消えていった。

https://note.com/tanaka4040/n/ne46906e26906へ続く



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