三毛猫ミーのクリスマス 第21話 このままでは全滅する!何とか間合いに入らねばニャ


https://note.com/tanaka4040/n/ne46906e26906から続く


筆 者 注
16話から23話は、猫同士の戦闘シーンが苦手でしたら、読まないほうが無難です。

24話までお進み下さい。
24話から御覧になっても(7話分とばしても)繋がるストーリーになっています。

では、どうぞ、お進みください


 突如として森の中から現れた千匹の猫に我が目を疑い、立ちすくむ三人組だったが、やがて、気を取り直し、
「ここで会ったが百年目」
「みな殺しにしてやる」
「これだけの猫がいれば、楽しめそうだ」
と、スリングショットを持った男が、ウエスト・ポーチからパチンコ玉を取り出した。
「スリングショット!」
と、もの知り猫のリューが慄《おのの》いた。
「何?それ」
 パチンコと呼ばれる玩具の威力を高めた狩猟具《しゅりょうぐ》で、V字型のフレームの両端にゴムバンドを結び付け、ゴムバンドの中央にパチンコ玉をあてがい、引っ張って(コッキングして)狙いを定め、パチンコ玉を飛ばす。

 構造は原始的だが、たかがパチンコと侮《あなど》るなかれ。スリングショットから弾《はじ》き出される直径一センチに満たないパンチコ玉は、ガラス瓶《びん》を粉砕《ふんさい》し、飲料缶を貫通《かんつう》し、飛ぶ鳥を射落《いお》とす。
 銃《ガン》の名を持つガスガンや、電動ガンより破壊力があるゴム銃《じゅう》で、所持も使用も合法だが、動物を標的にするのは違法。
 そのスリングショットを構えた男は、標的を求めるように、ゆっくり、左右を見ましている。
 不用意に出て行けば、鋼製《こうせい》のパチンコ玉の餌食《えじき》になるだろう。
「あたしが先陣《せんじん》を切るか」
と立ち上がった横を、一匹の白い猫が、
「オレが一番槍《いちばんやり》だぜ」
と走り抜けていった。白猫のジョーだった。

 真っ暗《まっくら》な猫ヶ原《ねこがはら》の中央へ向かい、ただ一匹、ひた走る白猫へ、スリングショットの照準が合った。
 ビシッ
と、むちを打つような音とともに、パチンコ玉が、時速三百キロで飛んだ。
 速すぎて、弾道《だんどう》は見えない。しかし、空気を切り裂く弾《たま》の音を、猫の耳は捉《とら》えていた。
 猪突《ちょとつ》する白猫ジョーの身体が沈《しず》んだ。ひざをまげて重心を落とし、頭を下げて攻撃をかわすボクシングの防御(ダッキング)で、弾《たま》をよけた。

 ところが、ダッキングすべく速度を落としたのが災いした。別の角度から連射された電動マシンガンのBB弾びーびーだんが、初速三百キロの猛スピードで飛来する。
 白猫ジョーは立ち止まり、上半身のみ左右へ動かし攻撃をかわすボクシングのウィービングで、次々とBB弾をよけた。
 そこへ、不幸が襲った。立ち止まり、ウィービングで弾を躱《かわ》すのに気をとられていたジョーへ、的確に照準を合わたピストルクロスボウから放たれた矢が突き刺さった。
「うっ」
と白猫ジョーは、突き飛ばされたように倒れた。

「ジョー!」
 あたしは思わず飛び出した。
 スリングショットも、ピストルクロスボウも、第二弾を発射準備(コッキング)するまで、数秒かかる。
 その隙を逃さず、カシラのジロチョーが、
「かかれ!」
と号令をかけたが、威令《いれい》の行き届いた組織であっても、生来《せいらい》、猫科の動物は争いを好まず、微動だにしない。

「しまった」
と、あたしは、後ろを振り返って、ほぞを噛《か》んだ。猫たちに団体戦を求めるのが無理だった。しかも、軍神の血祭りになるために戦いの火蓋《ひぶた》を切る猫など一匹もいなかろう。
 背後で、ボス猫ハローの怒号《どごう》が聞こえた。
「われ、ここらで男にならにゃあ、もう、舞台は回って来《こ》んど」
と、手下たちへ喝《かつ》を入れている。奮《ふる》った千匹は一斉に飛び出した。
 迫る千匹。
 迎え撃つ三人。
 その時、棒状のスタンガンを持った男が、戦闘服のカーゴ・ポケットから、フラッシュライトを取り出した。
「あれは!強力な懐中《かいちゅう》電灯!」
 目くらましの効果を知っていたあたしは、咄嗟《とっさ》に地面へ顔を伏せた。その強烈な閃光《せんこう》を知っている猫だけが、あちらこちらで顔を伏せている。

 男は、千匹の猫へ向けて、フラッシュライトを照射した。
「まぶしい!」
「見えない!」
 まばゆい光が視界を奪う。
 目がチカチカして、歩くことさえ侭《まま》ならない。
 闇《やみ》を払って光る千ルーメンの明るさに明順応《めいじゅんのう》できず、立ちすくんでいる猫たちへ、フラッシュライトを持った男が、口笛を吹きながら楽しげに近づき、長さ四十センチの棒状スタンガンの先を、一匹ずつ、丁寧に押し当てていく。

 スタンガンが一閃《いっせん》するたび、感電した猫が一匹、また一匹と倒れた。かすかに焦《こ》げ臭《くさ》い匂《にお》いが漂《ただよ》う。
 動いている猫には、スリングショットの弾や、クロスボウの矢が飛んでくる。暗視ゴーグルをつけているだけあって、狙いは正確。
 猫たちは、置き物のように、たやすく感電させられ、あるいは、撃たれ、次々と倒れていった。
 このままでは全滅する。
「なんとかして、射程《しゃてい》の間合いに入らねば」
 間合いに入って、接近戦になれば、飛び道具など役に立たない。  
 しかし、間合いに入ろうと動けば、矢か、弾が飛んでくる。
 戦況は不利で、八方ふさがり。

明日へ続く


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