三毛猫ミーのクリスマス 第23話 戦い終わって日が暮れて、あたしの視界は闇に溶けたニャ


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筆 者 注
16話から23話は、猫同士の戦闘シーンが苦手でしたら、読まないほうが無難です。

24話までお進み下さい。
24話から御覧になっても(7話分とばしても)繋がるストーリーになっています。

では、どうぞ、お進みください


 降《ふ》りしきる雷雨《らいう》の中で、戦闘は、激しさを増していた。
 クロスボウの男を斃《たお》したことで、猫たちは、闘い方を学んだ。
 猫は、親から狩りを学ぶ。生まれもったハンターの才能が、学習を応用して戦うようになる。
「次は、スリングショットの男だ」
と、あたしたちは、飛び道具を封殺《ふうさつ》すべく、スリングショットの男へ走り寄った。男は、
「この猫どもが!」
と猛《たけ》り狂《くる》いつつ、パチンコ玉をつがえては発射しているが、なかなか、猫に当たらない。

「一発も?」
 不思議に思って、しばし、男を観察すると、致命的、かつ、重大な欠陥を発見した。
 スリングショットの強靭《きょうじん》なゴムを、何十回と引けば、腕の筋肉が疲弊し、射出される弾《たま》の速度も、威力も、落ちる。
 開戦時に比べると、弾を避けやすくなったのが、疲労困憊の証拠。反撃のチャンスが近い証拠だった。
 もう一つ、気づいたことある。
 もし仮に、一千匹の猫に対し、一匹あたり一個のパチンコ玉を費やすとすると、一千個のパチンコ玉が要る。
 パチンコ玉の重さは、約五グラム。一千個で五キログラムになる。五キログラムといえば、ボウリングのボールの重さに等しい。
 小さなウエスト・ポーチの中に、補給用のパチンコ玉が、千個も入るはずがない。せいぜい二百個か、三百個が、関の山だろう。
「もうすぐ、弾が、尽《つ》きる」
と確信したあたしは、弾よけに専念するよう呼びかけた。

 やがて、男は、ウェストポーチの中を覗《のぞ》き込み、不覚《ふかく》を取ったように眉根を寄せ、スリングショットの本体を、猫の群れの中へ、渾身《こんしん》の力を込めて、ブン投げた。それが、最後の一撃だった。
「弾《たま》が切れた!」
「チャンス到来!」
 男が、腰のホルダーへ手を伸ばし、サバイバルナイフを引き抜くより早く、暗視ゴーグルの死角から、猫が一匹、また一匹と飛びついた。学習の応用が早い。
 ナイフを奪うべく指先に噛み付き、自立を奪うべく脚《あし》へ爪を立て、押しつぶすように、肩や背中へ飛び乗った。
 ついに男は、バランスを崩して、横倒しに倒れた。
 すぐさま、数十匹の猫が殺到し、全身へ乗りかかり、百キロ近い重量で、布団蒸しならぬ、猫蒸しにして、失神させてしまった。
「最後の一人は?」
と、あたりを見回すと、数百匹の猫たちが、スタンガンの男を、遠巻きに取り巻いて、進退の自由を奪っていた。

 男は、片手に棒状スタンガンを持ち、もう片手にサバイバルナイフを持ち、腰を引き、腕いっぱいにスタンガンを伸ばし、ゆっくり、弧を描くように廻りながら、ナイフを振り回し、猫らが近づかないように威嚇していた。
「近寄るんじゃねえ!」
 言われなくても、近づけない。飛び道具と違って、サバイバルナイフも、棒状スタンガンも、間合いの中が攻撃範囲になる。安易に近づくのは危険。
 この雨の中、もう一つの武器であるスタンガンは使えない。放電すると、雨水に反応し、自分自身も感電してしまうリスクを背負う。
 同心円の中心に位置する男から三メートルほど離れた猫たちは、まるでミステリーサークルのように、円形に取り囲んだまま、しばらく、膠着《こうちゃく》状態が続く。
 刹那《せつな》、雷《いかづち》の閃光《せんこう》が、夜の闇《やみ》を、昼のように照らし、ほぼ同時に、落雷が轟《とどろ》いた。

一匹の猫が、
「わっ」
と耳を塞いだ。低くて大きな音が嫌いな猫たちは、
「まずい」
「危険だ」
「来るぞ」
と、口々に騒ぎ出した。雷のことである。
 雲の中で、放電が起きている。その雷放電《らいほうでん》が、頭上を覆い始めた。見上げると、あたかも、雲の中で、竜が火を吹き、遊弋《ゆうよく》しているようだった。
「逃げよう」
「逃げるんだ」
 恐怖が伝播《でんぱ》し、数百の猫たちは、蜘蛛《くも》の子を散らすように逃げ散った。
 その時、あたしの脳裏に、ボス猫ハローの言葉が蘇《よみがえ》った。
「逃げようとすれば、敵に後ろを見せる。敵に後ろを見せれば、スキができて、殺られる。そんなもんじゃ」
「そうか。挑《いど》まず、逃げて敗れるんじゃ、負け犬ならぬ、負け猫だ。挑んでこそ、活路は開ける」

 ハッと名案が浮かんだ。うろちょろ作戦である。
 あたしは、わざと男へ近寄り、棒状スタンガンの先が届く位置まで進み、ヒラリヒラリと左右へ飛び跳ね、逃げるように後退し、また近寄っては、涼しげに座り、寝転び、縦横無尽《じゅうおうむじん》に翻弄《ほんろう》した。
 苛立《いらだ》った男は、
「チョロチョロと、目障りな!」
と、サバイバルナイフを振り回していたが、動きが俊敏な猫に、かすり傷一つ負わせられない。
「くそッ」
 つい、頭に血が上ったのか、
「くたばれッ!」
と、手裏剣よろしく、あたしに向かってサバイバルナイフを投げつけたが、躱《かわ》されたと見るや、
「たかが猫の分際で」
と、棒状のスタンガンを突き出し、
「これでも喰らえ」
と、放電スイッチを押した。
 その瞬間、かみなりが猫ヶ森《ねこがもり》へ落ち、直撃した大木を、真っ二つに引き裂いた。

 スタンガンの放電が影響したのか。
 地面に突き刺さったクロスボウの矢が導雷針《どうらいしん》になったのか。
 男たちが落としたナイフに反応したのか。
 金属製のスリングショットやクロスボウが雷を呼び寄せたのか。
 それとも、ただの気象現象か。
 続いて、第二波の雷が、猫ヶ原に落ちた。
 電流は、地を這う大蛇のような誘導雷《ゆうどうらい》となって、スタンガンを持った男の足元へと走った。
 一瞬の出来事だった。感電した男は、激しく体を震わせ、
「ぎゃあっ」
と悲鳴を上げて倒れた。

 数メートル離れていたにもかかわらず、あたしも、感電して、倒れた。痛みや、熱さは感じなかったが、串刺しにされたように、硬直して、動けない。
「死ぬかも」
と思った。

「でも、いいや。勝ったんだから」
 三人すべて斃《たお》した安堵感からか、急に、気が遠のく。
 瞼の裏に、ボス猫ハローの気難しそうな顔が浮かんだ。あたしは意識の中で、
「必ず勝つって約束したよね?」
と話しかけた。そして、
「約束通り、勝ったよ」
と報告した。気難しそうな顔が、微笑んだように見えた。
 血だらけになって倒れているカシラのジロチョーの姿も見えた。
「勝ったから、もう安心して、ゆっくり眠りな」
と声をかけた。
 やがて、霞がかった視線の遥か先に、車のヘッドライトの大きさの光が、四つ、六つ、灯《とも》った。やがて光は、徐々に数を増し、あたしの視界を真っ白に染めた。
 夢かうつつか、黒猫クーの声が聞こえる。
「そんなところで寝てたら、風邪ひくよ?」

 もうろうとした意識の中で、
「この光景、どこかで見たことがあるような……」
と思ったとたん、あたしの視界は暗転して、闇に溶けた。

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