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高田純次「人生教典」読書感想文

著者の格言と、過去を語るコラムと、悩み相談で本書は構成されている。

6章が配されている。
「肉・からだ」「マネー」「仕事」「家族」「青春」「哲学・社会」というテーマに沿って相談が寄せられている。

数えてみると、ざっと89の相談がある。
これらの相談に著者は答えていく。
短くて2行、長くて3ページほど。

ほとんどが適当である。
ぜんぜん解決されてない。

相談者は、4歳から75歳までと年齢は幅広い。
繰り返しになるが、ぜんぜん解決されてない。

でも不思議だ。
悩みなど、どうでもよくなる。
悩むことが、バカバカしくなる。

高田純次にというよりも、人に悩みを相談することが無意味にすら思えてくる。


回答力を考えさせられた本

“ 回答力 ” なんて言葉があるのかは知らない。
が、この “ 回答力 ” は、この受刑中に身に付けたいスキルとなっている。

というのは、今までの自分の反省ができたからだった。
まがりなりに、ほんのティッシュ1枚分の重さくらいだけど。

で、娑婆に出たら、もし人から悩み相談されたら、胸に響くようなことをビシーと真摯に回答したい。
そう思うようにもなってきた。

だから回覧新聞の “ 人生相談コーナー ” には必ず目を通して、悩みのあれこれの把握もしてみている。

心に残るフレーズはノートに抜書きして、つぶやいてみて、回答力を身につける努力はしている。

そんな心境が変化したときの、この「人生教典」である。

どうせタレント本なのだから、気分転換に読んで笑えればいいと思って借りたのに、悩み相談があるのだ。

3時間もあれば読めてしまう本で、笑ってしまうばかりで、とくに深くはないのだけど、得るところは確かにあった。

単行本|2002年発刊|195ページ|河出書房新社

みのもんた方式の回答術だった

考えてみるに今までの自分は、人の悩みの相談には、まともに回答したことがなかった。

すべてがみのもんた方式だった。
みの氏いわく、悩みの相談には、3つの回答で済むという。

一つ目は、すでに自身で答えを出している場合。
例えば「離婚をしたい」という相談があったとする。

しかし相談者の中で、すでに答えの方向が出ている様子だったら「うん、そうだね」とか「そうしたほうがいい!」とか回答してあげる。
解決ではなくて、背中を押してもらいたいだけなのだ。

二つ目は、強く否定を求めている場合。
相談者は、それに気がついてないだけ。

そこが探れたら「それはちがう!」とか「そうじゃない!」という否定の言葉をぶつける。
形をかえて背中を押すことになる。

三つ目は、答えがない場合。
「宇宙の果てはどうなっているのでしょうか?」という類。

これは、忘れてしまった。
もっと話をきく、だったか?
適当に応える、だったか?

とにかくも、以上は、みの氏本人が明かしていた。
テレビでは、あんなに親身になって相談に乗っていたのに、やっていることは、3つにカテゴライズして答えていただけだったのだ。

もう10年以上も前に耳にして「いいこと聞いた!」とばかりに実践していたのだった。

この、みのもんた方式に、高田純次方式も加えたい、と思いながらの読書となっている。

ショックを与える回答もアリだ

そもそもの話、悩みというのは複雑なものだから、他人が少し聞いただけで、いい回答が得れるわけでもない。

高田純次の回答は、やんわりとそれを気がつかせる。
本文はもっと長いけど、抜粋すると以下である。


【Q】今、銀行もあぶないみたいだし、貯金を “ 金 ” に換えようと思ってます。“ 金 ” っていいですか?〔35歳 サラリーマン〕

【A】今、換えなければ、もう換えるときがないと思うね。じゃあ、オレが “ 金 ” に換えるかというと、それは話が別だけど。他人の貯金だから勝負しろって言えるんであって、自分の貯金では勝負したくないんだよね。


【Q】転職を繰り返しています。どうしたら自分が本当にやりたい仕事に出会えるのでしょうか?〔30歳 OL〕

【A】しばらく働かないほうがいいね。こういうこというヤツに限って、ぬるま湯の中で毎日生きているんだよ。まあ、オレも毎日ぬるま湯の中で生活しているから、50歳を過ぎても本当にやりたい仕事に出会えてないよ。


【Q】僕はいつも、上司にみんなの前でケチョンケチョンに怒られます。もう耐えられません。〔32歳 会社員〕

【A】何をそんなことで落ち込んでいるの?君みたいなできないヤツが会社に必要なんだって。君が怒られれば怒られるほどデキるヤツがどんどんと伸びていくんだから。


一種のショック療法ともいえる回答ではないのか?

なんでも相談すればいい、というものではない。
自分で考えろ。

それをわからせるのも、ひとつの手かもしれない。

突き放す回答もアリなのか?

この回答は、なによりも相手との距離感だろう。
ヘタにやったら恨まれそうだ。
抜粋すると以下である。


【Q】今の彼とつき合って1年になりますが、ささいなことが気になってイライラするようになりました。この気持ちは何なのでしょうか?〔19歳 専門学校生〕

【A】こういう人たちのために『別れ』という言葉はあるんだよね。このまま、つき合っていたら犯罪だね。


【Q】ちょっと太って、今、70キロなんだけど、やせる必要ないよね。〔45歳 主婦〕

【A】当然だよ。だいたい、70キロってのが中途半端だよね。キリのいいところで100キロとかにならないと!


【Q】このまえ、1年半付き合っていた彼氏と別れました。でも5万円を返してもらってないことに気がつきました。うまく返してもらう方法ありませんんか?〔28歳 OL〕

【A】とりあえず、新しく付き合った彼氏から5万円をふんだくったほうが早いんじゃない?


恋愛相談は、こんな感じでもいいのかもしれない。
もっとも、相談されるかどうかは疑問だけど。

当たり前の回答もアリだ

ごくごく当たり前の回答も必要のようだ。
それを真面目にやることで、もっともらしく聞こえる。
抜粋すると以下である。


【Q】給食で嫌いな物が出たときは、どうすればいいですか?〔小学5年生 男〕

【A】君のような子のために、ビニール袋って発明されたんじゃない。友達に気がつかれないように中に入れるしかないね。


【Q】ゴルフをやろうって友達に誘われているけど、ゴルフってお金がかかるんですよね?〔45歳 サラリーマン〕

【A】ていうか、お金がかからないもので楽しめるものがあったらオレに教えてほしいね。今の世の中、金をかけないで楽しもうって気持ち自体、人の道に外れてるね。


【Q】人間は、よきライバルがいてこそ大きくなれると思うのですが、どうしたらライバルを見つけることができるのでしょうか?〔17歳 男子高生〕

【A】それは間違いだね。人間の成長には食って寝る。それしかないじゃない。君も変なことで悩んじゃだめ。ライバルなんて、いらない、いらない。


やはり回答というものは、キャラクターにもよる。
状況もあるし、立場にもよっても異なるし。

悩み相談の難しさが、改めてわかった読書でもあった。

まとめ

まともに読書感想文を書き終えてから気がついたのだけど、紹介されている感謝の手紙からすると、悩み相談は創作のようだ。

そんな回答に大いに共感した自分は、いかに他人の悩みなど気にしてない人間なのかが露呈したようでもある。
今までの自分の反省ができたなんて、言い過ぎだったかも。

あとは、各章のはじめには、ブリーフ1枚の高田純次が、おどけたポーズをとる写真がある。

これほど、ブリーフ1枚が似合う中年男がいるだろうか。

こういう中年男になりたいなと普通に思えた自分に、うな垂れもした読書だった。


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