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第四回:ふわふわ・ふかふか・もふもふ 【かわいい栞(しおり)】

「かわいい栞(しおり)」は、作家・田中青紗が暮らしの中で見つけた「かわいい」を紹介する連載です。全五回。<第三回はこちらから

私は時折「顔をうずめたい」衝動に駆られる。

例えば、ふわふわの毛布、ふかふかのクッション、動物のもふもふとした毛並み、柔らかそうな布、ちょうどいい誰かの胸の中……。

忙しい現代を生きていると、ふとしたときに猛烈に「ふわふわ・ふかふか・もふもふ」したものに癒されたくなる。私を全面に受け止めて優しく接してくれる場所はないかと考え出す。ぐるりと周りを見渡し“良さそう”なものを見つけた瞬間、そっと近づき静かに顔をうずめたくなるのだ。

うずめている時間は終始穏やかで誰かに急かされることはない。ふわり、ゆるりと私は包まれる。満足するまでその場所を貸してくれる仕組み。十分に満たされたら私は顔を上げ、元の世界へと戻っていくーーー。

なんて妄想をよくしている。


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うずめたい願望のきっかけはトトロだ。

子どもの頃から今に至るまで、私の一番好きなキャラクターは『となりのトトロ』のトトロである。大人になった今でもトトロはずっと好き。どんぐり共和国は天国である。

さて、トトロの魅力は数多くあるのだけれど、中でも惹かれるのは丸いフォルム。特に大トトロのまるっとしたお腹周りはいつ見ても「かわいいなあ」と癒される。トトロのお腹にサツキちゃんとメイちゃんがバフっとしがみつくシーンなんて最高。なんて気持ち良さそうなのだろうと、憧れが止まらない。

実際のトトロのお腹周り事情については不明なものの、あのもふもふとした毛並みを見ているうちに、私の“うずめたい願望”が芽生えたのだと思う。

「あのもふもふに顔をうずめたら、嫌なことなんて全部忘れられそう」

「ネコバスもふかふかだし、小トトロも中トトロももふもふしてそう」

次第に、ふわふわ・ふかふか・もふもふへの興味関心が強くなっていく。


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トトロのお腹周りをきっかけに、いつしか私は「顔をうずめたら気持ち良さそう」と思うふわふわたちを暇さえあれば考えるようになった。

せっかくなのでこれまで考えてきたアイデアの中から、いくつかご紹介したい。

一つ目が「両手いっぱいのガーゼタオル」である。

姪・甥が生まれてから、私は改めてガーゼの魅力に取り憑かれている。子どもの頃にもガーゼ素材のハンカチは使っていたものの、当時はガーゼに対して何も感情が湧いていなかった。

しかし姪っ子と甥っ子が生まれてから、私はガーゼをよく目にするようになり、洗うたびに柔らかくなっていく触り心地、ふんわり感に癒されている自分を知る。「ガーゼはこんなにも優しいのか…」と、そっと甥っ子の体にかけてあげながら思った。

ひょっとすると、柔らかくなったたくさんのガーゼタオルに顔をうずめると猛烈に癒されるのではないだろうか、なんて心のノートにメモをしている。使い込んだ中川政七商店の「花ふきん」も良さそうだ。

二つ目が『呪術廻戦』に出てくる「パンダ」。

パンダは東京都立呪術高等専門学校の2年生で、学長により突然変異呪骸として生まれ、日々呪いと戦っている先輩である。

呪術高等専門学校とは何か、突然変異呪骸とは何か、そもそもパンダとは……といった内容は今回割愛させてもらうけれど、とにかく私はパンダ先輩のお腹周りは非常に「顔をうずめるのにぴったり」だと思っている。もふっとしていて、バフっと飛び込んでも大丈夫そう。何より許してくれそうなパンダ先輩の懐の深さも相まってランクインした。

三つ目が「アヒルの“首から胸にかけてのライン”」である。

私は鴨やアヒルを見るのが好きだ。以前とある番組を見ていたときに、アヒルが映る機会があった。そのときにアヒルの首から胸にかけてのまあるくなったラインが、うずめたい族にとっては非常に良い「ふわふわ・ふかふか・もふもふ」加減だと思った。アヒルのまあるい感じ、とてもかわいい。

この他にも「ポメラニアンの側面」「眠るひつじ」というのがあるのだけれど……妄想が止まらなくなりそうなのでこのあたりで自制しよう。


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「ふわふわ・ふかふか・もふもふ」したものは、なぜこんなにも癒されるのだろう。かわいく思えるのだろう。

口に出してみると弱々しいオノマトペたちだ。言葉界では弱いカードで、それぞれ白くて丸い姿を想像しているのに、なぜか圧倒的な強みがあると思っている。

それはおそらく“安心感”ではないだろうか。

「ふわふわ・ふかふか・もふもふ」したものは、柔らかくて明るくて幸せなイメージがある。皆がにっこりして出迎えてくれている感じ。全てを受け入れてくれそうな柔らかさに包まれると、私はものすごく安心する。

「ふわふわ・ふかふか・もふもふ」が「ここは安全だよ」と言ってくれているような気持ちになるのだ。「安心して肩の力を抜いてね」と、カチコチになった心を柔らかくしてくれる。ゆっくりと時間が流れ、お茶を出してくれているような優しい世界。

そんな力をふわふわたちは持っていると思うのだ。

肌触りの良いものは、私たちに圧倒的な安心感を与えてくれる。人間の本能的に気持ちの良いものは安心し、癒されるのだ。だから何か不安なことや寂しいこと、悲しいことがあったときは「ふわふわ・ふかふか・もふもふ」に頼るのも一つの手段であると覚えておきたい。

本能的に安心を感じられるから、私は「ふわふわ・ふかふか・もふもふ」に惹かれているのかもしれないな。


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「ふわふわ・ふかふか・もふもふ」

口に出すとなんともゆるい。でもかわいい言葉であり、かわいい触り心地である。

次はどのようなものが顔をうずめるのにぴったりか。今日も私のふわふわ探しは続く。

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illustration by:あきこば

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いよいよ次回は連載最終回です。お楽しみに。

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かわいい栞ラジオ#1 「日常生活の“かわいい”の見つけ方」

◆かわいい栞ラジオ#2 「言われてうれしかった言葉」

◆かわいい栞ラジオ#3 「好きな冷たいドリンク教えて!」


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