埃と悲しみは雪のように降り積もる

「缶詰めは、裏から開けるんだ。なんでかわかる?スーパーなり小売店に出荷される前、缶詰めは倉庫とかに保管されてるだろ。膨大な数の缶詰めが倉庫の棚にズラーっと積み上げられているわけよ。倉庫なんて埃とか砂とかそんなんが舞い上がりまくってるわけ。埃とか砂とかが缶詰めの上に舞い落ちるの。肉眼では認識できないレベルでいろんなものが降り積もってる。しばらく動きのない商品だったりしたら、目で見てわかるくらいうっすらと埃が積もってたりするのよ。それらがそのまんま出荷されて、そのまんまスーパーの棚に並ぶわけ。で、俺たちはそれを買って帰って使う。な?もうわかるだろ?埃が積もった上部を缶切りでキコキコやったら埃が中にポロポロ入っちゃうってわけ のよ。だーかーらー。缶詰めは、裏から開けるんだ。」

みたいなムカつく言い方だったかどうかは忘れたが、二十歳くらいの時にバイトしていたお店で店長に教わったこと。
これは割と本気でなるほどー!!と思ったので、缶詰めを裏から開けるということを実生活においても実践していた。

しかし、いつの頃からか缶切りを使わずに開けられるタイプの缶詰めが主流になってきて、裏から開けるスタイルもやらなくなっていたのだった。
缶切りを使わないタイプが主流になったからって、あの店長が力説していた倉庫の事情は変わってないわけで、埃はどんな缶詰にも平等に降り積もる(悲しみは雪のように降り積もる)。
店長の話にあんなに納得したのに、缶切りを使わずに開けられる手軽さにかまけてしまっていた僕がいた。

そんな時、僕はスーパーで見つけてしまった。
缶切りを使わずに開けられるタイプで、ジャケが天地さかさまになっている缶詰めを!
これはどういうことかと言えば、つまりこうだ。
倉庫の棚とか納品されたスーパーの棚にはジャケが逆さになっていない状態で並ぶわけだが、蓋を開けるのは裏からなので、例の埃問題を気にしなくていいということなのだ。
その手があったかと膝を叩いた。

と、感動したんだが、よくよく見てみたらそのタイプは割と前から出回っているようであった。
単に僕が普段、注意力散漫で過ごしているだけなのだった。
今さらそれに気づいて膝を叩いてるようじゃ話にならんのであった。
そしてうっすら思っていたけど知らないふりをしていたことがあったんであった。
それは、埃舞い散りまくってる倉庫なんだったら、缶詰めは埃を全身にバッチリまとっているから、上から開けようが裏から開けようが関係ないんではないか?ということなんであった。
それならもう、缶詰めを開ける時には開け口をきちんと拭くようにすれば問題ないのではないかと思ったんであった。

埃と悲しみは雪のように降り積もるんであった。

おしまい

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?