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台湾ひとり研究室:取材メモ「伝説のパフォーマンスに触れた夜」

日本のゴールデンウィークほどではないけれど、メーデーで3連休だったこの週末、舞台を見て「3回泣いた」という大学院の同学に連れられて、夜の中正紀念堂に行ってきました。

その舞台とは、創設50周年の舞踏集団「雲門舞集」による記念公演「薪傳」。20年ぶりの上演となった「薪傳」を、夜の中正紀念堂でナイトシアターとして無料鑑賞!という贅沢な時間でした。昼間に来たことはあったけれども、夜の中正紀念堂というのは初めてでした。

(なんだか映画《女朋友男朋友》 の1シーンみたいだな)

会場となった中正紀念堂の自由広場は、昔は学生運動の舞台となって人々が集結し、抗議の声をあげる場所でした。のちにいろんな作品でその運動の様子が描かれるわけですが、私が最初に見たのは《女朋友男朋友》。その時の衝撃たるや! 見たおかげで台湾に来たと言っても過言ではないものだったので、在台10周年記念になるなあ、と個人的な感慨にふけりました。ちなみに広場の両脇には戲劇院と音樂廳があるのですが、残念ながらそこではまだ鑑賞したことがありません。

舞台装置は布だけ。1枚の布が波になり船になる(撮影筆者)

さて本作「薪傳」は、1978年、台湾で初めて台湾史を舞台化した作品。台湾民謡「思想起」という曲をダンスパフォーマンスとして舞台化したもので、物語は、中国が明だった時代、大陸から台湾に移民してきた漢民族の喜怒哀楽が描かれています。

もちろん飛行機などなく、船で大陸から渡る状況を演じる場面では、日本統治時代に花蓮港に渡った人たちの残した「港などなく、船の上から飛び降りた」といった記録が脳裏に浮かびました。時代はずっと遡るわけですから、さぞかし、です。

民謡「思想起」を複数のシーンに分け、曲→パフォーマンス→曲…と繰り返す中で、渡航、開墾、結婚、出産、収穫、というふうに物語が進んでいきました。作品自体は何度も上演されていて、今回は8代目の舞踏家が演じる最後の公演。90分の上演中、セリフはなく、静まり返った会場には、舞踏家たちの息遣いや掛け声だけが響きます。

上着を着ているのは女性。動きは男女同じ部分が多い(撮影筆者)

足を上に上げ、くるっと回ってピタリと止まる。体幹が鍛えられていないと絶対にムリ!と、ど素人目にもわかるパフォーマンスは、本当に素晴らしいものでした。いや、体幹だけでもないけれども。動画の撮影は禁止だったけども、写真は大丈夫だったので、雰囲気などが伝われば。

お祝いの様子。小道具が出てきたのはここくらい(撮影筆者)

パフォーマンスもよかったけれども、作品の根幹をなすのはやはり「思想起」だなと思いました。この曲を聴いたのも初めて。歌い手は1981年に亡くなられた陳達さんで、月琴を伴奏にして台湾語で歌う「思想起」は、台湾では広く知られた民謡なのだそう。著作権がどうなっているのかわからないのでシェアは断念しますが、YouTubeで聴けます。本当に素晴らしい曲でした。

「50年ありがとう」と中央で手を振るのが雲門舞集を創設した林懷民さん(撮影筆者)

夜風に吹かれながら、中正紀念堂で舞台を観る。贅沢で貴重な体験でした。いつか劇場の中も体験してみたいものです。

勝手口から見た台湾の姿を、さまざまにお届けすべく活動しています。2023〜24年にかけては日本で刊行予定の翻訳作業が中心ですが、24年には同書の関連イベントを開催したいと考えています。応援団、サポーターとしてご協力いただけたらうれしいです。2023.8.15