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台湾ひとり研究室:翻訳編「#01台湾の時代小説《大港的女兒》を翻訳することになりました。」

こんにちは。台湾ルポライターの田中美帆です…と表看板に「ルポライター」を掲げる身ですが、その実、フリーランスでいろいろな種類のお仕事をいただきます。そしてこのたび、台湾の時代小説《大港的女兒》の日本語訳を担当することになりました。文芸作品の出版翻訳を1冊丸ごと行うのは初めてです。お話をいただいた時には(えっ!?私?)と思いましたが、できるかどうかよりも、ぜひ!という答えが先に立っていました。

本書は、台湾の作家である陳柔縉(チェン・ロウジン)さんという方が、初めて手掛けられた時代小説です。柔縉さんの作品を台湾版アマゾンであるネット書店「博客來」で検索すると、ずらりと彼女の作品が並びます。

うち4冊は日本語に翻訳出版されています。以下にAmazonリンクを貼っておきますので、ぜひリンク先もご覧くださいね。

2008 国際広報官 張超英―台北・宮前町九十番地を出て
    坂井臣之助訳、まどか出版
2014 日本統治時代の台湾 写真とエピソードで綴る1895~1945
    天野健太郎訳、PHP研究所
2016 台湾と日本のはざまを生きて 世界人、羅福全の回想
    小金丸貴志訳、藤原書店
2020 台湾博覧会1935 スタンプコレクション
    中村加代子訳、東京堂出版

データを見る限り、残念ながら2冊は絶版になっているようです。台湾では翻訳書を出版の柱にしている版元が多い中、日本で翻訳書が継続的に刊行される、あるいは版を重ねて読み継がれていくのは難しい状況にあります。厳しい逆風の中で、台湾の書籍を出す版元がある、これは本当にありがたいことだなと思うのです。

なんとかして、この1冊を広く知っていただく場が作れないか。

ひとつの試みとして、ゆくゆく刊行される翻訳書をより楽しんでいただくために、翻訳書刊行の裏側をお伝えしていくことにしました。ありがたいことに、版元の春秋社さんにも許可をいただいています。

ご存じの方も多いと思いますが、著者の陳柔縉さんは2021年10月18日、交通事故で亡くなられました。57歳でした。それまでの作品はインタビューや史料ベースの形で、「小説」という形式で書かれた作品は本書が最初で最後となっています。そこで、本欄では柔縉さんのお人柄やご功績を、皆さんと一緒に振り返りつつ、1冊丸ごと訳すのは初めての私と一緒に翻訳書のできていくプロセスを楽しみながら(苦しみながら?)、彼女が小説とどんなふうに格闘したのか、原文から見え隠れする痕跡をひとつでもふたつでも、すくいとりたい、と考えています。

もうひとつは、翻訳の過程を公開することで、誰かが「あ、それ私もやってみたい」「自分にもできるかもしれない」と思う人が出てほしい、と思っています。日本では、英語に比べると中国語は圧倒的に学習者数が少ない言語です。ひところよりは増えましたが、それでも多いとは言えません。しかも、日本で言う中国語は、一般に中国大陸の北京方言を指し、台湾華語とは発音や使われる文字、使用語彙や言い回しも異なります。おまけに、台湾には台湾語と呼ばれる言語もあって、本書でもバッチリ出てきます。ただ、それを解する翻訳者はさらに分母が小さくなります。

そういった台湾の複雑な言語事情、そしてその翻訳プロセスや私なりの回答例についても、本欄を通じて皆さんと共有できればと考えています。

実を言うと、すでに翻訳作業を開始してしばらく経ちます。作業は予定よりもずいぶん(!)と遅れていて、これから大いに巻き返しを図らねばなりません。といっても、遅れるには遅れるだけの幾重もの壁の存在があり、そしてその壁は近づいて初めて見える大きさで、決して小さくはなく、時に途方に暮れ、時に寄り道しながらコツコツと作業を進めているところです。

そんな途方に暮れっぷり、四苦八苦ぶりも含めて、今後は毎週月曜日に、ここで進捗をレポートしていこうと思います。そして、前の週の作業で当たった壁や発見したこと、調べたこと、学んだことなどをシェアしていこうと考えています。

そして、大切なお願いをさせてください。それはこのマガジンでの一部記事の課金へのご協力です。というのも、今回、本書の舞台である高雄を訪ね、現地を歩いて位置関係を確認したり、ネイティブチェックを手配したり、関係者へのインタビューなども行い、本が出来上がったら販促として日本のアチコチにも行きたいと考えています。そういった活動は、私への翻訳料金や版元さんの経費ではできることに限りがあります。そこで、取材費や刊行後の宣伝費用を、皆さんに応援していただきたいのです。これはひいては、台湾作品の翻訳者が翻訳で食べていけるようにしたい。その試金石になればと考えています。

なお、制作の紆余曲折も含めて、ここでこれから書いていく内容は「翻訳者あとがき」に集約していくつもりです。初めての文芸翻訳、初めての制作過程公開、初めてばかりで、書いていても心がぐらつきます。それでも、試さないよりは挑戦したい。そんな気持ちでこの一文を書きました。

取材してその原稿を書くのは孤独な作業ですが、翻訳もまた、孤独な作業です。完成までヨロヨロになりそうですが、どうか応援をお願いします。気が向いたらコメントやフォローなどいただけると、さらなる励みになります。これから刊行後しばらくの活動も含めて、一緒にお付き合いください。長丁場、どうぞよろしくお願いします!




勝手口から見た台湾の姿を、さまざまにお届けすべく活動しています。2023〜24年にかけては日本で刊行予定の翻訳作業が中心ですが、24年には同書の関連イベントを開催したいと考えています。応援団、サポーターとしてご協力いただけたらうれしいです。2023.8.15