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PERFECT DAYS


概要


東京下町に住み公衆トイレの清掃業に勤務する主人公の日常と人との関わりの話。

必要最低限な道具と娯楽を身の回りに置いて生きる主人公。職場と生活圏内くらいの人間としか関わらない。言葉も少ない。
生活しやすいように配置された仕事道具をキビキビとスムーズな動きで身にまとい、仕事もきっちり丁寧にこなす。
それでも職場に向かう車内ではカセットから好きな音楽を流し、昼休みにはフィルムカメラで木々を映す。晩酌には少しの酒を舐め、週末はお気に入りのママの店に通う。
仕事人間でもなく、放蕩人でもない。
壮年のPOPEYEというか、彼なりの生活が確立されている。世界が、完結している。

壮年男性の生活ぶりのイメージがあまり湧かないので漫画の例えで恐縮だが、東方良平(仗助の祖父)を思い出した。神経質っぽくきちっと畳まれた洋服、手入れのされた革靴、晩酌にはコニャックを飲むのが楽しみ。
そして精神の傾向としては吉良吉影をなんとなく思い浮かべた。人と当たり障りなく会話し特定の友人は作らない、出世は望まず欲するものは植物の心のような生活。

考えたシーン

主人公が泣く場面がある。主人公の下に家出してきた姪を迎えに来た妹(姉?)と話し、二人が帰るのを見送るシーンだ。
「おじさん…!」と助けを求める姪を荷物を取りに行くように諭し、妹とは言葉少なに会話をしたあときつく抱きしめる。
運転手が車のドアを開け、二人が乗ったあと車を進ませる。車が横を通り過ぎた後、主人公は堪えきれなくなったかのように泣き出すのだ。
上映中は何故泣いたのか全く分からなかったが、こうやってつらつら考えるうちに、もう姪とも妹とも会えなくなるから泣いたのだという結論に辿り着いた。
劇中で主人公と妹は住む世界が違うという話があった。誰しもが異なる世界を生きているというありふれた意味でもあるし、
妹がお抱えの運転手の運転で高そうな車で来て主人公の父親から勘当された過去を匂わせたところから、一緒の世界で生きることはできないという意味もあったのだろう。

一つ世界から切り離された。それでも彼は仙人のような生活を続けるし、好きな音楽をかけて笑う。一人で生きると幸せを幸せだと感じやすいのだろうか。
彼の生活は充分で幸せだろうが、彼のように私たちが生きることは幸せなのだろうか。

感想


夢の描写が何を描いているのか分からない、夢ってそういうものなんだろうけど、少し怖く感じた。
幸田文、中学以来読めてない。読みたくなった。11の物語も。
役所広司の顔面の長回し、観てられるなあ。feeling goodのトランペットが良かった。
上映が終わって無音になった後から場内の照明がつくまでの間が好き。シアターが明るくなると静かな豊かさが心を満たしていて、映画館を出て電車に乗るまで、より良く生きようというケツイがみなぎった。

https://note.com/okemoto/n/n9ac2c5bfff53?sub_rt=share_b

オケモトさんは洗練されたルーティンや生活に注目していたが、
私は孤独や世界とのつながりが気になった。抱えている問題でここまで観点が異なるとはね。

ヘッダーの画像は本作のポスター。
コピーには「こんなふうに生きていけたなら」とある。
ここまで長々書いてきたけれど、この見方が正しかったのかもしれない。


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