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KIMONOプロジェクト参画事業@丹後ちりめん創業300年事業


▶はじめに

 「丹後ちりめん創業300年事業実行委員会」は、2020年に迎える「丹後ちりめん」創業300周年に向けて、さまざまな事業を行っています。
 その事業の一つとして、一般社団法人イマジンワンワールドが主催する、日本が世界から注目される2020年に向けて世界各国をテーマにきものを制作する「KIMONOプロジェクト」へ参画することとなりました。
 原資は、社会奉仕団体である「京都紫明ライオンズクラブ」が設立55周年記念事業の一環として京都府を通じてご寄附いただき、当プロジェクトのスポンサーになっていただきました。

 当プロジェクトの制作テーマは「丹後(タンゴ)」と「アルゼンチンタンゴ」をきっかけに、「アルゼンチン共和国」に決定しました。

 他の産地が作っているものではなく、丹後でしかできない織物の技法で、見た目の柄や染色の派手さではなく、丹後で織った生地の派手さで存在感を示せるものを作ることといたしました。


▶コンセプト

 アルゼンチンを象徴する和装を提案するに当たり、着物と帯で独立した表現にするのではなく、統一されたコンセプトのもとに、着物と帯がそれぞれ相互に補完し合うような対比的表現によって、一つのストーリーが浮かび上がってくるような物語性を重視しました。
 厳しくも豊かな実りを与えてくれる大自然の中で、タンゴやフォークロアによって人間の可能性を情熱的に追求してきたアルゼンチンの文化。
 自然への畏怖と感謝の念は、我々日本人にとっても非常に共感できる感覚であり、またその一方で、複雑な人間の情緒と正面から向き合い、綺麗事だけではないあらゆる生き方を肯定し、生きることそのものへの愛情を感じさせるその芸術文化は、日本人とは異なる感性によって人間の感情を豊かに表現してきました。

自然への畏敬と人間賛歌。

 この対照的な2つのキーワードを、アルゼンチンのための和装のコンセプトに設定したいと思います。
 ヒトとヒトが真の意味でお互いを理解し、心を通い合わせるためには、それぞれの違いを肯定的に認めあい、共感に至ることが大切であると我々は考えます。
 そのような意味において、自然との向き合い方・人間の捉え方といったアルゼンチン人の人生観が顕著に表れる部分を、日本の伝統技術をもって和装に表現するという取り組みは、本プロジェクトの趣旨にかなう興味深い提案になるのではないかと思います。


▶きもの

 きものを担当した柴田織物では、色糸で柄を織り上げる”縫取りちりめん”という贅沢な織りを手掛けており、本プロジェクトで制作したきものにも縫取りの技法を使用している。縫取りちりめんでは手刺繍のように見える縫取り技法ではなく、主として様々に着色した箔やそれらを巻き付けた金銀糸等をちりめん地の上に織り込み、後で裏面の余分な浮糸を切り取っている。技術的に難しく手間がかかる非常に高価な織物である。

 きもののデザインにあたり、全体を纏う色については、アルゼンチン国旗のカラーである水色に決定。今回はアルゼンチン共和国駐日大使の達ての希望で、アルゼンチンブルーで進めることとなった。
 本来ブルーの染めは、染色堅牢度が低いため基本的に着物に使われることは少ないが、今回は堅牢度の高い染料を用い、過去に無かった染めを行った。特に暈(ぼか)し染めを行う上では非常に困難な染料であり、且つ、刷毛染めが非常に困難な縫取りちりめんを丹後の染め職人が美しく染め上げた。
 大使のイメージする”アルゼンチンブルー”を忠実に再現すべく、大使館と綿密に打合せを行い、時間をかけてじっくりと調整を行った。当初サンプルとして提示したブルーに対して「この青色はアルゼンチンでは海の色として使われることが多い。空のような色にしてほしい」と注文があり、ブルーに関して非常に拘った染色が施されている。

 肩山にロス・グラシアレス氷河を冠し、水の流れる様子を経のストライプで表現。
 ストライプの間隔にもこだわり、アルゼンチンタンゴの名作「ラ・クンパルシータ(La Cumparsita)」のリズム間隔にあてており、イグアスの滝が段に当たり、飛沫を上げて飛び散る様を曲の音階に当てている。
 更に、振袖全体を上下左右の四面に分け、イグアスの滝の中に四種類の地紋パターンを配置。
 左上へ『クエバ・デ・ラス・マノス』*1、右上へ『国花のセイボ』、左下へ『オルテガ模様』右下へ『ケブラーダ・デ・ウマワーカ』*2を割り振っている。これらを、シルバーからゴールドの薄い色味の糸で織り上げ、背景を国旗に示される水色で染め上げた。アクセントとして太陽が昇る様を、前身頃部分に大胆に配置している。

 細かな部分について述べると、織物を織る上でのデータ量については、過去にない大きさのデータとなり、製織には力織機で20日を要した。(通常の縫取りちりめんは3日)
 使用している金銀糸やウルシ糸は、多くの種類を使っているため、織機の調整にはたくさんの時間を要し、1反のみの製織となるため、サンプル生地を何度も織りながらの調整を余儀なくされ、多くのトライ&エラーを行う事によって、何とか織り上げるに至った。
 また、ベースとなる組織には丹後独特の水撚りの糸を使用し、丹後ちりめんらしい素材感と、丹後でしか出来得ない後染めの縫取りちりめんとなっている。

*1 クエバ・デ・ラス・マノスとは「手の洞窟」を意味する、多くの手の跡が残された洞窟壁画
*2 ケブラーダ・デ・ウマワーカとはアルゼンチン北部にある、河川浸食によってできた渓谷(日本語名:ウマワーカ渓谷)。2003年に世界遺産(文化遺産)に登録された


▶帯

 帯担当の民谷螺鈿株式会社では、螺鈿織りの技術を得意としており、今回の作品にも螺鈿織りを採用。
 製法については、西陣の帯の伝統技法である引箔を応用し、厚さ0.1~0.2mmに削った板状の貝殻の真珠層を和紙などに貼り付け、糸状に細く切ったものを緯糸として織り込んでいる。割れやすい貝殻を薄く削ったうえで裁断する技術や、貝殻を硬質に仕上がった緯糸が柔らかい生糸の経糸を裁断せずに織り込む技術など、多くの工夫が施されている。
 螺鈿織りの技術は、当社の創業者である民谷勝一郎氏が考案し、現在、取締役を務める民谷共路氏(本プロジェクト参画者)は螺鈿織りの技術を応用し、類い稀なる創造力を備え海外市場を中心に評価を高めている。

 過酷で美しい自然を主として現すきもののイメージに対する表現。
 地には漆黒の漆糸と夜明け前の紺色の絹糸を使用し、過酷な自然と数々の歴史的紛争がもたらした絶望とそこから立ち上がる光を象徴させ、そのなかで燦然と輝く希望の太陽と、国花であるセイボとで、不屈の情熱と生命力を表現。セイボには赤と黒を併用し、花の生命力に加えアルゼンチンタンゴの躍動をイメージ。
 全体として究極の状況での人間肯定、人間賛歌に焦点をあてている。

淡い色使いと繊細な柄によって自然を抽象的に表現した着物のデザインに対し、帯のデザインにおいては、不要なものを削ぎ落とすことで構図を単純化し、具象的な絵柄を大胆に色彩とタッチで描き出す日本画的手法を取り入れた。
 地に漆黒の漆糸と夜明け前の紺色の絹糸を採用することによって、全体の印象を引き締め、その中で毅然と輝く「希望」の象徴である太陽と、「勇気」や「困難に立ち向かう強さ」のシンボルである国花のセイボを描くことで、苦しみや悲哀の中で、それでも燃え盛る人間の情熱と生命力、困難に立ち向かう誇り高い魂の美しさを表現。究極的な人間肯定・人間賛歌に、アルゼンチンタンゴのイメージを重ねた。

 製作にあたって、きものの意匠のボリューム感にふさわしいものが必要であり、独特の光を放つ貝殻部を主役に保ちながらも全体の柄を立体的に表現すことに腐心した。使用する緯糸の太さ、種類、合わせ本数、綴じなどの選定や、貝殻部の組織を若干風通状にすることなどを工夫。また、大使館側から地色にかなり拘ったリクエストを受けたので、それらを総合的にバランスをとって現すために柄部組織、地組織の改良を重ねた。

 例えば貝殻部を立体的にするために風通組織にすると、余計な凸凹が出来て太陽の顔の表情が崩れたり、それに伴う地組織の変更で地風が柔らかくなり過ぎたり、地色が出にくい状態になったりで、あちらを改良するとこちらに弊害が出るというようなことが多発した。トータルで30枚以上の織り見本を取り、改良に改良を重ねてやっと完成にたどりついた。


▶長襦袢

 長襦袢は、険しい土地を流れる河をモチーフに生地の柄をつくり、「下から上に太陽が昇っていく」という大使のイメージをもとに、アルゼンチンを象徴する太陽が昇っていく様と市松柄とをかけ合わせ表現した。

 今回はきもの特有の引染めではなく、インクジェットプリントのぼかし技法を活用し、柔らかい雰囲気を醸し出した。作品をやや幻想的に仕上げた。


▶小物

 当プロジェクト参画にあたり、丹後ではきもの・帯だけでなく、着物一式を制作することに決定し小物も用意することとした。帯揚は丹後ちりめんの特徴を活かし、シボが高く手触りの優しい風合いに仕上げた。
 髪飾りには帯揚げにあわせた丹後ちりめんと藤布*3、そして太くあわせた「藤の糸」に本金箔を巻き付けた特殊な金糸を使用し3種類のパーツを制作。モデルの髪型やイメージに合わせて数や配置を変えることが可能。

*3藤布とは、縄文の古から現代に伝わる最古の原始布。江戸時代中頃に木綿の普及に伴い衰退し、日本から消滅し、幻の布と言われていましたが、昭和37年の民俗資料調査により丹後の宮津市にある「世屋」で織られていることが分かり、今では京都府の無形文化財や伝統工芸品、国の重要有形文化財に指定されています。


▶展示・披露




東京キモノショーの映像はこちらから見ることができます!
(アルゼンチンきものは21:33~)


▶制作

丹後ちりめん創業300年事業実行委員会
「KIMONOプロジェクト」推進部会

きもの担当 柴田織物 柴田 祐史
帯担当   民谷螺鈿株式会社 民谷 共路
長襦袢担当 足照工場 足達 公一郎
小物担当  株式会社糸利 糸井 なおみ
小物担当  遊絲舎:小石原 将夫

寄附・支援 京都紫明ライオンズクラブ

(敬称略)

©丹後ちりめん創業300年事業実行委員会



▶WEB

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