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将棋のタイトル戦(南九州新聞2022.01.15掲載エッセイ)

将棋の4冠王、藤井聡太さんが王将戦第1局で持っていたバッグが話題だという。噴煙を上げる桜島をモチーフに、灰の内側には「Hi!」という文字が書かれている。鹿児島のご当地グッズを販売する「カゴマニア」の商品で、1月10日の王将戦でお披露目されるや、11日には注文が殺到し、夕方時点で在庫切れ。現在は次回入荷予定分の注文を受けているとのこと。将棋の世界だけにとどまらない「藤井フィーバー」を、鹿児島の企業が実感することになっている。

元々、将棋の竜王戦が鹿児島県の指宿市「白水館」で昨冬予定されており、しかしこの時は藤井現4冠の4連勝での奪取となったため、第6局で予定されていた指宿対決は実現しなかった。2021年の12月に、その指宿白水館で4冠祝賀会が行われることになり、このバッグはその時に、鹿児島県観光協会から贈られたものではないかと思う。

今回のことは出来過ぎの感があるにしても、将棋のタイトル戦が行われることには、様々なメリットがある。竜王戦のような2日制のタイトル戦では、関係者や取材陣を含め、多くの方が3泊4日以上の宿泊、滞在をすることになる。現地では、ご当地の名物やうまいものが紹介され、対局者も食べ、宿泊した宿だけでなくその周辺も含めて、全国に報道され、将棋ファンが見守り、また、いずれ訪れたいと思う将棋ファン、関係者も多くいるだろう。

指宿白水館での将棋のタイトル戦は、実はそんなに歴史のあるものではなく、2016年の竜王戦が初めての開催で、景観や食、砂蒸し温泉の魅力やもてなしも含め、関係者の多くが感嘆し、以来、竜王戦における指宿白水館の存在感は増すばかりである。2017年は、羽生善治九段の永世七冠誕生の地となり、現在でも、羽生さんが泊まった部屋が見たいという問い合わせ、訪問があるという。

指宿といえば、大隅半島から見るとあちら側のことであるが、実は将棋のタイトル戦は大隅半島(の近く)でも行われている。都城市の霧島酒造が冠スポンサーとなっている女流王将戦がそれで、2009年から毎年、霧島酒造のある都城市霧島創業記念館「吉助」で行われている。こちらは3番勝負となっているのだが、連勝により都城対局が無くなってしまったりすることが無いように、という配慮もあり、毎年第1局が都城で行われることになっている。藤井聡太フィーバーほどの盛り上がりはなくとも、女流棋士の最高峰が訪れ、対局をし、また関係者や解説などを行う男性棋士も訪れる機会であるので、将棋に興味のある方も、将棋の棋士に名産品を食べてもらうことで、商売につなげたいと考える方にも、ちょっと気にしていただきたいイベントである。例年通りであれば、今年も10月に開催される予定である。

なお、余談であるが筆者は、2016年の城山観光ホテルで行われた将棋名人戦第3局の解説会にお邪魔した時に、解説の棋士が「シロクマ食べたい」というのをお聞きして、「やっぱり、天文館「むじゃき」でしょうねえ」と申したところ、その後、解説に来られていた棋士の方々が「むじゃき」でシロクマを食べられたというお話をお聞きしたことがあり、もちろん、私が勧めるまでもなく「むじゃき」にされただろうなあと思うものの、とてもうれしかった思い出がある。

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