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2020年に読んでよかった本

去年読んでよかったな〜と思った本を書き残しておきたい。前回すなわち2019年版は大半がその年に出た本だったけど今回は逆にほとんど2020年の本がないという結果になってしまった。なぜかというと積読がたまっているからなんですね。50冊強の本を読んだけど多分倍近く買っているので……(もちろん2020年に出版された本も読んでいる)

UNIXという考え方

今回挙げてる本の中では一番古いものかも。2001年の本でUNIX系OSにおけるソフトづくりの哲学を述べてる本。いろんなエンジニアの人が「これは読んでる」的な話をされてたので読んでみたらとてもわかる。「スモールイズビューティフル」「1つのプログラムには1つのことをやらせる」「できるだけ早く試作を作る」といった定理が紹介されているが、これらの文言はそのまま今のマイクロサービスアーキテクチャの時代でも適用することができる。古典ってのはこういうものを言うんだろうなあ。

韓国 行き過ぎた資本主義

去年アカデミー賞作品賞を史上初の外国映画として受賞した「パラサイト」。僕も劇場で見たけどその時に印象に残ったのは劇中の貧富の差の描写。すごく気になったのでちょうどいいタイミングで出てたこちらの本を読んだ(出版は2019年11月)。そしたら冒頭で「パラサイト」にも触れてて我が意を得たりという気持ちに。過剰な競争社会、ドロップアウトしたら復活できない経済環境。その中で苦しむ人達…と見てると読んでてしんどくなってくる。映画を見て疑問というか「どういうこと…?」と思っていた部分がずいぶん解消して背景の理解に役立ったのでよかった。

保守主義とは何か

2020年はこれまでにないくらいに「政治」について考えさせられる年だった。そんな中でここ数年いや民主党時代を除くと(民主党時代も含んでという考えはなくもないが)ずっと日本は保守勢力の政党が政権を握っている。というかそもそも「保守」ってなんぞや…?というところから読み出した2016年出版の本。イギリスやフランスでの政治学的議論から新自由主義の勃興、丸山眞男などの日本の保守主義に関する議論などからでは今の日本は…と議論が展開されていく。日本には保守主義というものは存在せず状況適応し続けてきた「保守勢力」があるのみだ看破するのはお見事で、確かにその理屈で近年の色々なことが説明できる。しかしその本質を突いた姿勢が現政権からしたら癪に触って著者の宇野先生が学術会議の委員任命拒否に至る遠因になった、とは穿ち過ぎですかね。

分断社会と若者の今

政治の話と一緒によく考えたのが「分断」について。世代間とかのデモグラフィックなものではなくて若者の間での分断についてがより知りたいところであったのでこれまたちょうどいい本が…ということで2019年出版のこの本。様々な調査をもとに、定量的に今の若者(2015年時点での20〜39歳)についての様々なデータがそれよりも上の世代と比較可能な形で取られ、「若者の○○離れ」や「若者の保守化・自民党支持」などふんわりと言われているトピックスに対し、ある程度数値的な裏付けをすることに成功していると言える。結果についてはなるほどと思うことも多いのだけど、考察が若干ステレオタイプ満載なものになってるように感じられたのは残念なところ。

ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム

「イノベーションのジレンマ」で知られるクレイトン・クリステンセン教授の著作。日本では2017年出版。古来からマーケティングでは「ドリルを買いに来た人が欲しいのはドリルではなく穴である」というものがある(セオドア・レビット「マーケティング思考法」より)が、この本で書かれていることはそれに近い。「人間はしたいもしくはしなくてはならない=片付けるべきこと(Job)を遂行するために商品やサービスを雇用して(Hire)いる」というのがこの本で述べられる「ジョブ理論」(本書の文中では「片付けられるべきジョブ理論」とされている)だ。それでハレビットの議論の焼き直しでは…?とおもわされるが、その「片付けるべきジョブ」の内容を精緻に定義し、埋もれている中から発掘し、ジョブの解決を基準とした組織をいかに作るかを理論化したところ。ビジネスのヒントになりそうな表現が多数ある良書。なおクリステンセン教授は2020年に死去。最終著作「繁栄のパラドクス」は積読してあるので2021年に読みます。

シリアル・イノベーター

2014年出版。「イノベーション」というとどうしても社会をバーンと変えるような大発明みたいなイメージをつけられていることが多い気もする。しかし、既存の商品の中でパラダイムシフトを起こしている地味なイノベーションなんかも決して少なくはないだろう。そういったものを本書では「ブレイクスルー・イノベーション」と呼び、それらを主導・推進していく人を「シリアル(連続的な)イノベーター」と定義している。そういったシリアルイノベーターをどう見出しどう活躍させるかという点について複数の調査を元にして議論を進めていくわけだけど、「社内政治」「それ以外の人たち」「人間関係」といった生々しいトピックにも触れられているのが特徴。それもあってこの本の議論は日本企業でも充分適用可能だと思う。

良い戦略、悪い戦略

書籍で出たのは2011年。電子化されたのは2020年になってから。原題も同じなんだけど原題では「The Difference and Why It Matters」ということで良い戦略と悪い戦略は何が違い、その違いがどう効いているのかを説明している本。特に前半にて「悪い戦略」はどう悪くそれなのになぜはびこるのかをかなり字数をとって説明しているのが良いし慣性やエントロピーといった組織内の気をつけるべきポイントなどにも触れられていて、基本哲学として1冊おさえておきたい本。超良かった。

南朝研究の最前線

2020年は4月から大河ドラマ「太平記」が再放送されて毎週見ている。何せ自分的には大河ドラマ好き・歴史好きになるきっかけの作品だったので楽しく見ているが流石に30年近く前の作品なのでこの辺りの歴史感とかもずいぶん変わってるのでは…と思ったところにこの本。2016年に出版されていたものの絶版になっていたものを新書版として2020年に復刻したものだ。「建武の新政は本当に保守反動的な政策だったのか?」「楠木正成は本当に異端の武士だったのか?」といった「通説」を最新の研究から改めて解き明かす内容になっている。今までのイメージが覆されるところもあったりで読んでてワクワクする。タイミング的に2020年に読んでよかった本、といえる。

今年もたくさん読んで積読を少しでも減らします(買うのを減らすとは言わない)。

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