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【令和万葉集】令和都市詠シリーズ

令和短歌「都会の風景

令和の時代の和歌で令和歌。現代社会の風景を1000年続く短歌形式の短い詩で切り取って表現してきました。
今回は令和の都市風景を詠んだ都市詠シリーズのダイジェスト。
加工された写真では伝えられない、都会の「今」を31文字で伝えます。

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なんとなく 特別な俺で いたくって スタバの角の 席を譲らず


同じような経験、皆さんありませんか?だれもが欲しがるスターバックスの角の席。特にソファー席だったりすると空いていたら本当にラッキーですよね。一度座って、パソコンを開いたら特にクリエイティブなことをしていなくても、返し忘れたメールの返信をするだけでも、なんとなく特別な自分でいるような気がしてくるような魔法の席です。
一度座ってしまったら、そんな上等な気分をやすやすと譲りたくはない。特別な時間を独占している優越感に浸った感情を歌にしました。

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ラ・リ・ル・レの 着信音に 囲まれて ハ行ばかりの ため息がでる

忙しいときに限って掛かってくる電話、トイレの個室にいるタイミングで見計らったかのように着信音が鳴る仕事の電話。セットした目覚まし時計の音や、急いでいるときに目の前で閉まる踏み切りの警報音。日常生活を送る上で、何かと迷惑なこれらの音。
iphoneのデフォルト着信音が一緒だから、鳴っているのが他人の携帯か自分の携帯か、はたまたテレビCMのそれか、よく混乱することもあります。
ラ行中心の電子音で自然の中にはありそうもない音。そんな音に囲まれながらストレスフルな毎日を送ることもしばしば。そんなときは誰だって「はぁ」とか「ふー」とか「ひー」とか人知れずため息の音が口からもれてしまいます。
そんな「ラ行」と「ハ行」の音を行き来する現代人の姿を詠みました。

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思い切って 買い替えたから 定期入れ 向こう2年は 働けるはず

古くなってきた定期入れ。そろそろ買い替えようかと思っていたけど、このタイミングで会社を辞めるのもありかもしれない。
決断のタイミングって些細なことをきっかけとして、起きることも多いですよね。
だから、もし思い切って新しい定期入れを買ったら、なんだかあと2年頑張ってみようかな、と思うかもしれないと考えたのも事実。駅の百貨店に今日の帰りに寄って、良いものがないか自分を占うようにして確かめてみよう。
マラソンランナーはマラソン中しんどくなったときは、何十キロ先のゴールよりも次の電柱まで頑張って走ろうと思いながらそれを繰り返して走る気力に変えるそう。
遠い未来の目標よりも、まずはこの2年を新しい定期入れとともに頑張れる自分を想像しながら、最寄り駅の改札に勢いよくタッチした。

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話さえ したくない日も このアプリ ほかの誰かと 繋がりたがる

持ち主の気持ちを考えない携帯アプリが多すぎる。
話したくない日にも、「友達ですか?」の表示はでてくるし、
何もしたくない日にも、今日のタスクの表示が無機質に表示される。
ひと昔前の機械には“機嫌”があったと老人は言った。
今の機械にはそれがない。AIの時代の到来に、期待と不安が入り混じるのは、全員が似通った生徒ばかりのクラスに転校してきてしまったような、その気持ち悪さと似ているのではないだろうか。人間が機械に合わせて歩み始める時代がもうすぐそこまでやって来ている。

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見も知らぬ 人の不幸を 見も知らぬ 誰かのせいに しておきたくて

見知らぬ人のつらい話が、連日放送されている。誰かの不幸は誰かの責任にしておかないと落ち着けない時代になってきている。だれのせいにもできないような辛い出来事も、どこかの誰かが責任を取らされる形にさせられる。悲しいニュースの裏側には、たくさんの放送されない出来事が隠されていることが多いが、表面上誰かのせいになっているのならば、それを聞く側の人間としては少しばかり気が晴れてしまうところがある。人間は漠然とした不安や形のない恐怖を非常に恐れる。犯人捜しや悪者のアイデンティティを暴力的に晒すことで、少しでも落ち着きたい気持ちに包まれたいという人が増えてしまえば、悲しいニュースがまた今日も流れることになるだろう。

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背伸びして 空を占めたる 桜撮り 希望で満たす 家具足りぬ部屋

この季節に桜が咲いて、見上げる空の大部分を占めるようになると、人は必ず桜の花を携帯のカメラで収めようとします。その桜の意味は、ある人にとっては別れを意味し、ある人にとっては始まりを意味します。新しい環境で、シャッターに収めた桜は、まだ家具のそろわぬ不安だらけの部屋に、1輪挿しの花となって明るい未来の予感をもたらします。桜前線の北上とともに、昨今の暗いニュースをすべて吹き飛ばして、新しい新年度の始まりを笑顔で迎えられるよう背中を押してくれるような満開の桜が、全国でみられるようになってきました。

(令和歌:都市詠シリーズ)

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