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糸井重里さんに、聞きました(古賀)。
5日間にわたって開催された「第3回 生活のたのしみ展」も、ついに終了。語りたいことはたくさんある気がしますが、訊きたいことだってたくさんあります。なんとか毎日続けてこられたインタビュー、最後はこの方に訊こうと最初から決めていました。
糸井重里さん、よろしくお願いします!
糸井重里が打席に立たないイベント。
—— もう、最終日の夕方を過ぎました。まだぜんぜん終わっていませんが、ひとまずはお疲れさまでした。
糸井 どうもありがとうございます。
—— 去年の3月からはじまった「生活のたのしみ展」も、今回3回目まできました。過去2回との違いを、糸井さんはどんなふうに感じていらっしゃいますか?
糸井 前回までのたのしみ展では、お客さんが「ショッピングの好奇心」をもってあそびにきてくださっていたような気がします。なにかおもしろいものがありそうだぞ、という好奇心。でも今回は、もっと「場の好奇心」に変わっていますよね。極端な話をするなら、買いものができなくったっていいというか、最終的になにも買わなかったけどたのしめましたというか。ほんとうの意味での「生活のたのしみ」になってきた印象がありますね。
—— ぼくがとても印象的だったのは、糸井さんがあまり前に出ていないことでした。
糸井 ああー。
—— 前回までの糸井さんは、もっと現場に立って、なんならぜんぶおれが売ってやるぞ、くらいの勢いだった気がするんです。ところが今回は、かなり後ろに引いていましたよね?
糸井 はい。それはもう、企画の段階から決めていましたね。たとえば前回のたのしみ展ではぼく、「ほぼ日のアースボール」を売りまくっていたんです。ずっと打席に立って、バットを振って、たくさん汗をかいて。でも、今回きてくださったお客さんのなかには、ぼくの姿を一度も見なかった人も多かったんじゃないかな。
—— そう思います。
糸井 わかりやすい話をすると、今回古賀さんと一緒につくった本(古賀史健がまとめた糸井重里のこと。)がありますよね? あれだって前回までのぼくなら、いくらでもサインをするんですよ。それでも今回、サインはしないことにしたんです。
—— はい。断っていらっしゃいました。
糸井 しかも2日目からは一緒に写真を撮ることも、原則お断りするようにしたんです。
—— そうでした。
糸井 これ、サインや写真が面倒だからじゃないんですよね。むしろサインしたほうがラクですよ。手は疲れるかもしれないけれど、心はラクですよ、断ることに比べたら。
—— ああ、たしかに「断る」は、相当心苦しいと思います。
糸井 でも、そこでガッカリされたり、嫌われたりするようなぼくらだったら、それはダメだろう、って思ったんです。だからね、古賀さんはひとりでサインしたり、ワゴンでたくさん売り歩いたりして大変だったかもしれないけれど(笑)、「糸井重里」が打席に立たないと成立しないイベントをやってたんじゃ、なんの未来もありませんから。
—— そうですね、そのあたりの「任せる覚悟」のようなものは、近くで拝見していてひしひしと伝わってきました。
糸井 だからねえ、最終日のきょう、お昼過ぎくらいだったかな。ぼくは会場横の喫茶店に入って、ひとりでコーヒーを飲んでいたんですよ。あのコーヒーは、しみじみうれしかったねえ。雨の、最終日の、みんなが走りまわっている会場の隣で、そうやってひとりのコーヒーを飲んでいる自分が、しみじみうれしかった。忘れられないかもね、あのコーヒーは。
暑さよりも、台風よりも、怖かったもの。
—— では、今回の「生活のたのしみ展」を語る上では欠かせない、お天気について伺います。前日(搬入日)の小雨、初日から3日目までの晴天と30度を超える暑さ。そして4日目から最終日の雨風。ほんとうにいろんな天気がありました。
糸井 ぜんぶの予行演習ができましたよね。しかもお客さんへのご迷惑を、最小限にとどめながら。今回のことだけで考えたら、5日とも晴天だったほうがよかったのかもしれないけれど、この天気はぼくらをまたつよくしましたよね。
—— きっと事前に、いろんな天気のシミュレーションはされていたんですよね?
糸井 はい。天気はもう、いちばん考えていましたね。うちの乗組員たちが最初に心配していたのは、暑さだったんです。熱中症対策ひとつを考えても、いろんな準備が必要だし、心配事は増えるばかりですから。それはお客さんだけじゃなく、出店者さんやスタッフ側にも。でも、ぼくはみんなに「それは4番目だよ」と言っていたんですね。
—— 猛暑は4番目。
糸井 うん。猛暑の心配は4番目で、2番と3番は「雨」と「風」だよって。
—— じゃあ、1番は?
糸井 それはもう、「台風」ですよ。みんな雨や暑さの心配をしているかもしれないけれど、いちばんおそろしいのは台風で、たとえ6月の頭だって台風がくることはありえるんだそ、って。ぼくはいつも、そういう「考えられるなかの、最悪の事態」を想定して行動しますから。
—— ああ、糸井さんはよくその話をされていますよね。
糸井 それで、いろいろ心配している乗組員たちに、冗談やおまじないみたいに「台風にくらべたらマシなんだから」って言ってたんです。
—— ところが・・・・。
糸井 台風の野郎が、ほんとうにきちゃった(笑)。あのね、台風とか大雨がいやだってのは、売上が下がるとか、お客さんがきてくれないとか、それだけの理由じゃないんです。こういうイベントごとでいちばんこわいのは、スタッフに「徒労感」が蔓延することなんです。
—— 徒労感。
糸井 つまり、「なんでわたしはこんなことやってるんだろう」とか、「この働きが、いったい誰の役に立っているんだろう」という徒労感が広がっていったとき、チームはバタバタバターッと崩れていく。台風みたいな天候がこわいのは、そこでの働きが「徒労感」につながりやすくなるからなんです。
それは「ほぼ日」の、憲法以前のカルチャーなんです。
—— でも、今回ぼくはある程度「たのしみ展の裏側」も見させていただきましたが、初日から最後まで、乗組員やアルバイトの方々に徒労感はまったくありませんでした。
糸井 ああー、そうでしょうね。そうだったでしょうね。
—— 現場と控え室を何十往復もしながら本の販売をしたり、インタビュー原稿をまとめたりするなかで、「見たくなかったほぼ日の裏側」みたいなものは、一度も目にしませんでした。みなさん、ほんとうに前向きで、協力的で、建設的で、あかるくて。
糸井 そうですね。みんな「かっこいいほう」に進みますよね、ひとつひとつのちいさな決断を迫られたときに。それはぼくも、ほれぼれしますね。
—— なんなんでしょう、これは(笑)。
糸井 ひとつたしかに言えるのは、それぞれの仕事が「具体的に誰かの役に立っている」からですよね。とくにイベントごとになると、「いまこっちの人手が足りない!」とか「ここにこういう看板がいるぞ!」とかの、具体的な困りごとがあふれているわけで(笑)。
—— ああ。そういう緊急の場面、控え室にいて何度も目の当たりにしました。
糸井 あとはやっぱり「やさしく、つよく、おもしろく」なんですよ。これはお客さんに向かい合うときでも、乗組員同士が接するときでも、アルバイトさんたちとの関係においても。
—— ああ・・・・!
糸井 「やさしく」あることは、人間としての大前提。そして「つよく」なければ、誰の力にもなれない。さらには、それぞれの課題を「おもしろく」解決していく。いまは「ほぼ日」の憲法みたいな行動指針として掲げていることばだけれど、ほんとうはこれ、ぼくらのなかにずぅっと前から染みついている、憲法以前のカルチャーなんです。
—— ・・・・いま、はじめて「生活のたのしみ展」の秘密がわかった気がしました。なるほど、これは「やさしく、つよく、おもしろく」が具体化したイベントでもあるわけですね。
糸井 うん、だからね。よその人たちが「たのしみ展」を見て、勉強になったとか参考になったとか、この点を学びたいとかいっても、それはよしたほうがいい発想ですよ。真似のできるようなノウハウじゃなくって、長い時間をかけてつくられたカルチャーや「姿勢」の話ですから。
—— その「真似のできなさ」は連日の「テキスト中継」を見ても痛感します。
糸井 すごいよねえ、あれ。しかもあのテキスト中継が縦糸だとすると、乗組員だけで共有している LINE グループがあって、そこでの猛烈なやりとりが横糸なんですよ。そうか、古賀さんはあの LINE のやりとりを見ていないんだもんね。ほら、こんな感じで・・・・。
(スマホを取り出し、LINE グループのやりとりを見せてくれる糸井さん)
—— ・・・・うわぁ。
糸井 ね? すごいでしょ? 呼ぶ、駆けつける、助けを求める、決める、答えを返す、アイデアを足す、前に進む、感謝する、ほめる。・・・・もう、見ていて心底「かっこいいなあ!」と思いますよ。
—— この LINE グループ、糸井さんも積極的に発言されているんですか?
糸井 ううん。ぼくは今回、お客さんにとっても、乗組員やアルバイトさんにとっても、「シンボルみたいなもの」であろうと思っていたからね。発言したのは、たぶん1回だけですよ。
—— このツイートにある、1回。
糸井 うん。もう訊かれる前に答えますけど、泣きますよ、それは。泣いていますよ、これを書いたときのぼくはもちろん。
—— しかも最後の「おれは、いまからでも『ほぼ日』に入りたい!」って、経営者にとって最高のことばですよね。
糸井 ほんとうに入りたいもの。むかしの、初期の「ほぼ日」には・・・・入りたくないかもね(笑)。でも、だからいまの「ほぼ日」は人が増えているんだと思う。
—— 正直にいってぼくは、1回目の「生活のたのしみ展」でも十分に完成されたイベントに見えて、2回目のときに「ここまでおおきく、おもしろくなるのか!」と驚いたんですね。それで3回目が、前回とは比較にならないほどの規模と密度になっている。糸井さんにとっては、これでも「まだまだ先がある」なんですか?
糸井 もちろんですよ。だって、いまは息継ぎなしのクロールをやっているような状態ですから(笑)。たとえば百貨店さんのワンフロアを与えられて「常設展として『これ』をやってください」と言われたら、いまのぼくたちにはできませんよ。逆にいうと、ぼくら以外の人たちでも、こんだけ一所懸命に、こんだけ手を惜しまずに、こんだけ全力でやりきったら、ほとんど同じようなことはできるんじゃないですか? それは「生活のたのしみ展」にかぎらず、ぼくらのやっている仕事のほとんどはそうです。
—— ええーっ、そうですか?
糸井 そう思いますよ。ぼくらはただ「ここまで考え尽くして、ここまでやり尽くしたんだから、おもしろいに決まっている。よろこんでもらえるに決まっている」ということをやっているだけですから。問題は、そこまで考え尽くせるか。手を抜かず、惰性に流されず、そこまでやり尽くせるか。そこだけだと思いますよ。
「生活のたのしみ展」が、遠くに見ている景色。
—— じゃあ、息継ぎなしのクロールから脱したあと、糸井さんはどんな「生活のたのしみ展」を考えているんでしょう?
糸井 ぼくのイメージのおおもとにあるのは、リバプールって港町のお兄ちゃんだったビートルズが全世界に進出していった姿と、やっぱりウッドストック(※1)なんですよね。
※1 ウッドストック。1969年にニューヨーク州郊外で開催され、40万人以上の観客が集まったロックフェスティバル。
—— ウッドストック。
糸井 うん、ぼくらは映画でウッドストックを観るわけだけど、たとえばそのころはクロスビー・スティルス・アンド・ナッシュ(※2)なんて言われても知らないわけだよ。いわんやシャ・ナ・ナ(※3)なんて、知ってるはずがないんだよ。
※ 2 Crosby,Stills, & Nash デヴィッド・クロスビー、スティーブン・スティルス、グラハム・ナッシュによるフォークロック・バンド。のちにニール・ヤングが加わり Crosby, Stills, Nash & Young(CSN&Y)となる。
※3 Sha Na Na オールディーズのカヴァーなどを得意とする、50's スタイルのポップグループ。
—— わはははは、シャ・ナ・ナ!
糸井 でも、ウッドストックがすばらしいのは、ああいう「知らない人」や「よくわからない人」が絶妙に混ざっていることなんですよね。もしも、超大物ミュージシャンばかりを集めたイベントだったら、ぼくらの知ってるウッドストックにはなっていないはずなんです。
—— ああー。
糸井 それで、ぼくはよほど意識しておかないと「超大物」を集めたくなっちゃう人間なんですね。でも、それだとけっきょく資本のおおきさ勝負になるわけでしょう。だからウッドストックのありかたというのは、その規模や影響力も含めて、ずっとあこがれているし、遠くの景色として持っていますね。
—— そういえば、生活のたのしみ展を紹介するページのなかに「お買いものをするための『商店街』から、もっといろんなたのしみのあふれる『お祭り(街のフェス)』へ。そんなふうに『生活のたのしみ展』を成長させていきたいとわたしたちは思っています。」という文言がありました。あそこで語られている「フェス」のイメージは、ウッドストックなんですね。
糸井 そうですね、あんなふうになれたら最高ですよね。
—— はい。それではお疲れのところ、ロング・インタビューどうもありがとうございました!
糸井 よし、じゃあお弁当たべよう。おれ、さっき「おつな寿司」買ってきたんだ。ほら、古賀さんは東京台湾さんの「からあげ弁当」を。
—— いただきます!
(糸井さん、ほぼ日のみなさん、おつかれさまでした!)