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燃え殻さんに、聞きました(古賀)。

続いて、本日最後のインタビューとなるのはなんと『ボクたちはみんな大人になれなかった』の作者、さんです! いつものようにふらっと現れた燃え殻さん。もちろん捕まえて、この機会だからこそできるインタビューをさせていただきました。

あの桜、今年も咲いてくれたんです。

——— 初日からきてくださるとは思いませんでした。

燃え殻 きますよ、もちろん。ぼく、前回も前々回もきてますし。

——— そうでした、そうでした。たしか第1回(2017年3月)のときには、鉢植えの桜を買っていましたよね。

燃え殻 あの桜、今年も咲いてくれたんですよ。

——— えっ、そうなんですか!?

燃え殻 はい。買ったまま、とくに世話もせず窓際に置いていただけなんですけど、今年の春にもちゃんと咲いてくれて。しかも去年より、花のピンクが濃くなっている気がするんですよね。

——— それはうれしいだろうなあ。前回はなにを買ったんですか?

燃え殻 たしかチェコかどこかの雑貨店で、布のコースターを買いました。気に入って会社で使っていたら、社長から「なにまったりしてるんだよ!」と怒られましたけど(笑)。

——— 燃え殻さんと社長さんのやりとり、大好きです。ちなみに今回買ったものは?

燃え殻 今回はもう「ほぼ日のキャップレス万年筆」ですよ。糸井さんと古賀さんの対談も読んでいたし、試し書きしたときの感じもよかったし。古賀さんもそうかもしれないけど、万年筆へのあこがれみたいなものがあったんですよね。

——— わかります。ちょっとおとなの人からもらうお手紙なんか、さらっと万年筆で書かれていると「カッコイイなあ」と思いますよね。

燃え殻 しかも万年筆って、インクの青(ブルーブラック)がいいじゃないですか。だからぼく、ずっと万年筆っぽい色のペンを使って万年筆感を出していたんです。

——— 万年筆っぽい色のペン?

燃え殻 ほら、これ。

——— わははははは。あたかも万年筆で書いたように(笑)。

燃え殻 そう、バレなきゃいいな、みたいな(笑)。

——— なんでわざわざこんな小細工を(笑)。そこまでやるんなら買えばいいじゃないですか、万年筆。

燃え殻 敷居が高いじゃないですか。ぼく、父親の定年祝いに万年筆を贈ったんです。松屋銀座とかで買った、けっこう高い万年筆を。なのに父親がぜんぜん使ってくれなくて、ボトルシップ(洋酒などの瓶に帆船が入った工芸品)とかと一緒に並べてるんですよ。試し書きすらしてねえだろ、っていうくらいで。

——— ああー。まあ、万年筆ってそういうところあるかも。

燃え殻 それに仕事柄ぼくは移動が多いし、雑に扱えるボールペンのほうが気楽なんですよね。でも、この万年筆だったら移動に強そうというか、普通に仕事で使えそうな感じがして。

ほぼ日の20年、燃え殻の20年。

——— ちなみに移動って、どんなところに行くんですか?

燃え殻 昼間っから恵比寿で打ち合わせするのは多いですよ。あそこのスタバは人が多いから、こっちの喫茶店がいいとか、そういう情報もたくさん知ってます。

——— へぇー。小説の影響だろうけど、燃え殻さんは六本木とかゴールデン街のイメージが強いから、昼の恵比寿は意外だなあ。あの小説に出てくる「ボク」は、かなり「燃え殻」なんですよね?

燃え殻 それこそ、ほぼ日が創刊された20年前くらいのぼくですね、あの小説の「ボク」は。

——— 当時、どんな毎日を送ってました?

燃え殻 六本木のヴェルファーレ近くの雑居ビルで、ワンルームの部屋に4人がぎゅうぎゅうになって働いていました。しかもユニットバスで。

——— 燃え殻さんの主な仕事は?

燃え殻 配達ですよ。紙出力したテロップを原付でテレビ局まで運ぶ、自前のバイク便です(笑)。あとは料理番も掃除番も、ぼくでしたね。昼ごはんと晩ごはんは、毎回ぼくがつくっていました。回鍋肉とかつくりはじめると、社長がソファから起き上がって「う〜ん、いい匂いがしてきたぞ」とやる気を出して(笑)。

——— 燃え殻さんが料理!

燃え殻 でも、ろくにレシピも知らないし、いつも同じ料理ばかりだと飽きますよね。だからアマンド近くにあった、もう潰れちゃった本屋さんに行くんです。

——— レシピ本を買いに?

燃え殻 いや、買うお金はないから「ガン見」です。ひたすらガン見して、その日ぶんのレシピを暗記するんです(笑)。

——— ああー、スマホで写真撮る時代でもないし。

燃え殻 そうですよ、こっちは J-PHONE ですよ。それで暗記したレシピをもとに、コンビニでカット野菜とかを買って適当につくるんです。

——— でも、それはそれでうれしい記憶だよなあ。

燃え殻 そうなんですよ! みんなに当時の話をすると「大変でしたね」とか「つらかったでしょうね」とか同情されるんですけど、おもしろかったんですよ、ぼくは。夏になったら狭いベランダに安いデッキチェア4台ならべて、パンツ一枚でみんな日光浴して。社長が「おれたちも日焼けするぞ!」とか言って。部屋から一歩も出ないのに、みんな真っ黒で(笑)。

ノー・フューチャー、マイ・ライフ。

——— ちなみに当時、いまの自分は想像できました? その、小説を書くとか以外でも、会社がここまで続いているということなんかについて。

燃え殻 ぜんぜん、完全なノー・フューチャーですよ! だって、うちの社長、テロップとエンドロールしか仕事なかったのに「この2本で定年まで食える」って胸を張っていましたから。印画紙に出力したテロップとエンドロールの2本で。さすがにそれじゃ無理だろうってことで、なんとか新規開拓してここまできましたけど。

——— 未来の予測は当たらない。

燃え殻 ノストラダムスよりも当たりません。だからぼく、将来のこととかいっさい考えないようにしてるんです。考えても当たるはずないし、当たってほしいとも思わないし。

——— 燃え殻さんがいつも「会社は辞めない」と言ってるのは、そのへんの人生観も関係してるんでしょうね。

燃え殻 どうなんでしょうねえ。ぼく、テレビ局にテロップ運んでいた20年前、警備の人から「不審者」って呼ばれていたんですよ。「また不審者がきたぞ」みたいな。

——— どんなあだ名だよ、っていう(笑)。

燃え殻 それであのころの警備員さんに「ぼく、いつか小説書くんです」とか言っても、ますます不審者扱いされてたと思うんですよね。ぼく自身も考えてなかったし。だから、誰だってほんとうはノー・フューチャーじゃないのかなあ。それって、ぜんぜん悪いことじゃないもん。

——— なるほど。

燃え殻 うん。また土曜か日曜か、そのへんでくるから帰りに飲みましょうよ。いいお店あるんです。ロジェカフェって知ってます?

——— いや、知らないです。燃え殻さんのおすすめする店、だいたい外れないし、ぜひ行きましょう。きょうはどうもありがとうございました。

燃え殻 万年筆、つかいます!