見出し画像

【俳句】鶴亀杯2022夏をよむ

 前回の宇宙杯に続き、鶴亀杯に参加できまして、心より感謝申し上げます。拙句の成績はあまり振るわなかったのですが、審査員の皆さまや読者の方々に温かいお言葉をいただき、たいへん嬉しく、大いに励みになりました。

 また、投稿された380句以上すべてを拝読しまして、読者側の楽しさも味わうことができました。すべての句に作者の顔といいましょうか、お人柄がみえる思いでした。
 短歌を専門とする方々の句は、とても情熱的で、まるで小説の一場面のようでした。また、短詩型を専門外とする方々でも、笑いのツボをしっかりおさえているものがあったりと、読者を何より楽しませたいという文学本来の意義を強く感じました。発想は天才的で、いわゆる俳句の技巧に縛られない魅力にあふれていました。

 本稿では、私個人がいいなと思った句を載せました。また、作者を知らない状態でメモしておいた句ですから、親しい人だから載せた、というようなこともありません。

 他の方々の記事のように、~賞というほど立派な選ではないのですが、恐縮ながら「兄弟航路賞」とさせていただけましたら幸いです。順番は、投句順のままにしてあります。

 水水水水氷水水水水  かっちー

 字面そのものの魅力に特化した作品といえましょうか。よくみると、水のなかに氷が混ざっている。「水」の四連続に「氷」、また「水」の四連続で、五七五の調べではありませんが、お約束を破っているからこその魅力。消えそうな一粒の氷が浮かぶ、キンキンに冷えた氷水がみえてきます。

 さくらんぼ揺れて魔法にかけられて ムーンサイクル

 童話の一場面のようで何ともかわいらしい句です。その魔法はきっと破壊的ではない平和的な魔法なのでしょう。いわゆる振り子の催眠術を思い浮かべる方も多いでしょうか。本句の魔力に、童話の世界へ連れていかれそうです。

 氷原を 走れ!ペンギン一輪車 Foliage Poet

 こちらもかわいらしい句です。ペンギンを模した一輪車が氷原を駆けてゆきます。”走れ”の命令形や”!”で、元気な勢いある雰囲気があらわれています。擬人化されたペンギンが一輪車を全速力でこいでいくと解するのも面白い。

 炎昼や毘沙門天と嗤ふ邪鬼 うみのちえ

 有季定型の俳句らしい句です。季語+切れ字”や”と、仏像の組み合わせ。炎昼のもつ地獄のような暑さと響きあっています。邪気の笑う顔が、炎昼にゆらめいて不気味さを増しているようです。

 かの色に二度と会へぬと蝉時雨 rira

 ”あの”色に二度と会えないと思う作者。蝉時雨がその思いをより高めていくようです。”色”とはなんでしょうか。空の色など、自然界の現象も一期一会です。もしくは、かつての想い人と考えてもいいかもしれません。

 六本木ヒルズ真夏のアリスたち 月草

 名詞だけの句でなかなか迫力があります。景や句意はわかりにくいのですが、何より調べが良い。現代的な六本木ヒルズという題材に、真夏のアリスとは不思議な趣。真夏のアリスという歌もあるようですが、私は不思議の国のアリスを連想します。”アリスたち”ですから、皆アリスのように不思議な国”六本木ヒルズ”に迷い込んだのでしょうか。

 激流をひらがなのごと鮎のぼる 鮎太

 明快な句です。直喩はなかなか難しい技法ですが、見事に成功しています。遡上する鮎の様子はまさに”ひらがな”です。鮎の繊細で綺麗な体躯、”あゆ”の調べ・字面の柔らかさ。遡上する魚は他にもいろいろありますが、やはり”鮎”の一択のように思えます。

 手花火の手に手を添へて見つめをり すうぷ

 親子の愛情関係が伝わってきます。親子に限らず、兄弟姉妹の関係かもしれません。花火をもつ小さな手に、大きな手が重なります。見つめる先も重なります。品位ある美しい作品です。

 縁側に亀とならんでゐる時間 香田ちり

 人の時間と亀の時間は同じでしょうか。同じ時空にいますから、同じ時の流れのはずですが、どうも亀のほうがゆったりとした流れのなかにいるように感じます。感覚は物理現象に縛られないようで、とても不思議なものです。縁側に亀とならんでいる時間は、合理的な資本主義社会から解放されたとても心地よく美しい時間のようです。

 丸四角白黒混ぜて餡蜜よ チズ

 餡蜜を幾何学的にみる視点が面白い。本句のような誰でも思いつきそうで言語化されてこなかった発見は、俳句としての価値の高さを感じます。末の”よ”も魅力的です。餡蜜に問うてるようにもみえますし、それが餡蜜よ!と作者が宣言しているようにも思えます。

 愚痴ぐらい言えばいいさと夏柳 あぷりこっと

 皆が汗をかいている中、夏柳は涼しそうに枝葉を揺らしています。「愚痴くらい言えばいいさ」と語りかけてくるようです。柳は聞き上手にみえます。夏柳の情趣と台詞が合う軽妙な一句です。

 お中元ゼリーという名のゲル化剤 クロウサ

 原材料の発見が面白い。作者はきっと自然派な志向性なのでしょう。箱のなかにはみずみずしい果物の描かれたゼリーが綺麗にならんでいます。数あるゼリーのなかでも、とりわけ、ゲル化剤ばかりの印象でしょうか。お中元という贈り物には感謝ですが、なにせ化学物質の塊で・・そんな心の声が聞こえてきます。

 草の泡吸ひては育つ金魚の子 半夏汐

 水草についている小さな気泡を餌だと思うのか、その小さな口でつんつんつつきます。水槽内の生命活動は活発です。金魚の子もすこやかに成長していってほしいと願う作者の思いも伝わってきます。

 黙祷に大きくなりぬ蝉の声 路傍の花(O87)

 戦争で犠牲になられた方々への祈り。黙祷の静けさは、蝉の鳴き声をますます大きくするようです。蝉の鳴き声は悲しみの代弁、残された者たちの慟哭ではないでしょうか。死者の声にも思えてきます。作者の思いを蝉の声に託した名品です。

 キャベツ片何かに食わせてみたくなり 数理落語家 自然対数乃亭吟遊

 中七が字余りですが、まったく気にならないほどに面白い。大人になっても、童心を忘れないとはこういうことでしょうか。人間心理の片隅に転がる石ころのようなものを見事に掬い上げています。いたずら好きの私は、小学校のウサギ小屋にキャベツ片やら木の枝やら、いろいろなものを金網にねじ込んだものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?