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マスタリングってなんでしょう?

今宵の担当:noriです。

ワタシの記憶が正しければ、確か80年代末くらいまでかな「日本はマスタリングに対する意識が低い」と山下達郎さんが嘆いてらっしゃいました。

そんな時代の反動なのか、90年代以降の旧譜CDリイシュー全盛期以降は、○○○の最新リマスター登場!なんてキャッチコピーとともに同じ作品を何枚も買わせる商法が罷り通るほどに、日本でもマスタリングという意識が根付きました。

でも、マスタリングってみんな理解しているのでしょうか?

何となく「音が良くなったらしいので、もうイッチョ購入すっか」という感覚になってませんかね?音の良い悪いも個人の好みだったり時代の風潮だったりに左右されたりもするので、それはそれで良いのですが。
(余談ですが、CDが出始めの1982年頃、現在では最も評価の低い最初期のCDをLPより断然音がいい!ってみんな言っていたんですよ、ノイズがないとか解析度が高いという分かりやすいメリットに目眩しされたんです。)

マスタリングは大雑把に言えば音を整理整頓する作業なのですが、

ミキシングとは何が違うんでしょう?

ミキシングは別名トラックダウンとも言われるように、32とか48とか多くのマルチ・テープのトラックに録音された音を、左右=LとRの2チャンネルに振り分けたたり(48や32から2まで減らすのでトラック数をダウンさせると言うことですね)、各トラックの音量を調節してバランスをとるわけです。

マスタリングはミックスダウンされたマスターテープにさらに音質補正をします、お化粧させるなんて表現に例えられます。

左右LRのバランスや各トラックの音量の調整などは、固定された2トラックのマスターからの作業なので出来ません。

もっとベースを上げるとか、ピアノを前に出すとか等の作業は、トラックのフェーダーをあげられない代わりにイコライザーで特定の周波数域を上げたり下げたりした行います。またコンプレッサーを使って、元々の音量をアップしたり、大きすぎる部分の音を圧縮して均一化させたります。このEQ(イコライザー)とコンプがマスタリングの主な作業となります。

EQとコンプだけかい!

とお思いの方もいらっしゃるでしょうが、この2つだけで音楽の印象って大分変わるのですよね。特に昔の音楽だとマルチテープ(各トラックのバランスをいじれる状態のマスター)がないので、LRだけの2トラックのマスターにEQやコンプを施して現代のリスナーの耳に耐え得る音楽へと変えていくのです。

一般的に上記の作業が「マスタリング」と呼ばれていますが、正確には「プリ・マスタリング」と言うのです・・・いや、「言われていた、ことになりつつある」が正しいでしょうか?その辺りも含め、メディア別のマスタリングについてまとめました。

アナログ・レコードの時代

この時代のマスタリング・エンジニアはカッティング・エンジニアとも呼ばれ、むしろそちらの呼び方が一般的だったようですが、カッティングって何をカットしていたのでしょう?

この頃のマスタリング(=カッティング)エンジニアはプリ・マスタリングにあたる音質補正を施した後、スタンパーと呼ばれるラッカー版に溝を刻んでました、これがカッティングです。スタンパーというのは版画の木版みたいなもので、このスタンパーの凸凹を塩化ビニールに押し付けて溝を刻み、そこからレコードの音が出るわけですね。なので、音質補正をするセンスや技術だけでなく、ラッカー版を刻む技術も必要だったのです。このスタンパーを製作するまでがマスタリングであったので、より職人的技術を要したであろうカッティングの方をエンジニアの名称に冠したのでしょうね。

CDの時代

CDもアナログレコード同様、スタンパーと呼ばれる金型原盤を製作しハンコのように押しながら盤を作るのですが、こちらはCDのプレス工場が受け取ったマスターテープ(上記で言う「プリ・マスタリング」されたもの)から機械的にスタンパーを製作します。このスタンパーの質に関しては個々の職人の技というより、工場のスペック次第でした。

達郎さんは自分のCDのプレスはSONYの工場指定だったと記憶しております。

旧譜をリイシューする際に、マスターテープをそのまま工場に送ってスタンパーを機械的に製作しプレスすることを「行って来い」と(業界内だけですが)言い、改めてスタジオでEQとコンプで音質補正して、新たなマスターを工場に送ってプレスすることを「リマスター」と(こちらは業界内だけではなく)言いました。

音に対するクリエイティヴィティは、完全にそれまでの「プレ・マスタリング」が担いました。前述の通り、スタンパーの質の責任が個々の技術から工場のスペック次第に変わったことで、「プレ・マスタリング」=「マスタリング」と考えられ、マスタリング・エンジニアと呼ばれる職業は、音質補正の「プレ・マスタリング」作業のみを担当し、カッティングの技術は持ちあわせないことが多くなりました。

この時代にアナログをリリースする場合、カッティングの時代から活躍されているJVCの小鉄徹さんのようなカリスマに頼むか、唯一アナログレコードをプレスしていた東洋化成にお任せするしかなかったのです。

とは言え、「マスタリングは(正確には)スタンパーを製作するまで」という意識はあったかと思います。

配信の時代

この時代になると盤をプレスしないのでスタンパーは要りません。

フィジカルをリリースしないのであれば「プレ・マスタリング」と言っていた段階で作業終了です

音質補正までで「マスタリング」と呼んで名実ともに間違いではなくなりました。

そう言えば宇多田ヒカルさんが「Heart Station」をリリースされた際、CDと配信のマスタリング・エンジニアを変えていたことを思い出しました。
CDをテッド・ジェンセン、配信をトム・コイン(どちらも名門スターリング・サウンド所属)が担当しました。フィジカルとデジタルで別のマスタリングが必要と考えるアーティストはいましたが、エンジニアまで変える人は珍しかった覚えがあります。

ここでやっと本題に近づいたのですが・・・

「マスタリングって何?」みたいな時代が長かったもので、一般人が宅録で作品を制作する際にマスタリングしようって頭も長らくなかったと思います。

4chカセット・レコーダーの時代から、デジタルHDDの単体期の頃まで、わざわざイコライザーやコンプレッサーを購入して宅録でマスタリングまでしていた人なんてかいたのかな?

そんな方はアーティストなりエンジニアなりのプロになったんじゃないですかね。

ところが・・・PC主体のDAWの時代になり、デフォルトでマスタリングのアプリケーションが入っているようになりました。

もはや、プロアマ問わず(ノウハウさえあれば)誰でも自宅でPCを使ってマスタリングできちゃうのです。言い換えると、今やプロでなくてもマスタリングくらいしてて当然、ということです。

じゃあ・・・ということで50の手習でマスタリングを初歩から学習しているのです

・・・という話がメインになるはずが、長くなったので

また今度!

山下達郎さんは「サンデー・ソング・ブック」でオンエアする楽曲を毎週リマスターしているそうですが、一度オンエアするだけのために毎週何曲もマスタリングするって大変な作業ですよね。
一方、宮治淳一さんのように自前のモノラル・カートリッジをスタジオに持ち込んで、やはり自前のライブラリーから持参したオリジナルEPをオンエアするのも良いですよね。

多少の針音がしてもEPの音はガッツがあるので気になりません!

今日の一曲:Donald Fagan / Maxine (1982/ Warner)

本来、この話の流れで「今日の一曲」はないのですよね。

なぜならYouTubeにアップした段階、というかHDDを通した段階で音は変わっちゃいますからリマスターの違いをこの場で分かっていただくのはなかなか難しいのです。

ということで、世界中のスタジオでリファレンス・ディスク(新たな機材等を導入した際、そのクオリティを確認するための試聴用作品)に最も使用されているアルバムの一枚、名盤「The Nightfly」(1982/ Warner)の2007年リマスターだというこちらより。

シングルカットされませんでしたが人気曲ですよね。間奏のテナーソロはマイケル・ブレッカーです。

担当:nori

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