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多分中退したであろうゼミの女性の処遇

大学一回生のときに必修科目で擬似的なゼミ形式の授業があった。本チャンのゼミではなく、出席とレポートさえ出せば単位を頂けるゆとりっぽい謎必修である。それ以外講義でフォーメーションが固まりつつあった自分の中で唯一、少人数固定化メンツはアトランダムという、大学のあの自己の意思で自由に単位をこそぎ取っていくゲーム攻略的感覚から掛け離れた授業だったので凄い嫌だった覚えしかない。

「ゼミでの俺は偽りの俺 本気の俺はここ以外さ」のような自意識を拗らせた態度で特にゼミメンバーと打ち解ける事なく、他のメンバーもそういった意識が伝播していたようで、「必修」故に仕方なく集いなんか適当に熟し、散り散りになっていくという会社でいうところの「若手だけで親睦的な意味合いも含めて定期的な会議をしろ」(4回目で空中分解)のようなモチベーションな講義だった。

一応その授業に参加したらとりあえずは話し相手をそれぞれ確保し、それほど深いところに立ち入らない浅い会話で慎ましく進行していく。自分は一応最低限のそういった行動は取れて居たが、(出席落とすギリギリまでちゃんとサボるは勿論実行)明らかにそのゼミメンバーの中で完全に浮いている女の子が気掛かりだった。

一応みな社会マナーとして当たり障りのない態度を取るのが一般的ではあるが、その子はもう明らかに浮いており、全く会話に加わったりしてないようであった。なんか大学スタートダッシュ完全にミスった女という地味にレアケースで、本人の振る舞いには全く害はなく、ちょこんと凪のように真顔で耐え忍んでたような感じがあった。

勿論前述のようにゼミで親睦を図るようなこともなかったので、みんなとりあえず単位を得るためだけに集合し、発展性もないまま解散するという行為が繰り返され、いつしかテスト期間突入し、レポートを書き上げるフェーズとなった。

自分は兎に角最低限思想で提出期限数分前にしっかりとレポートを書き上げ、追い詰められてからの納期完了にひとり酔いしれていた夕刻のキャンパスであった。仲間と協力一切せずなんとなくで初めてレポートというものをクオリティはともかく作り上げたという事実に一回生なのもあって満足して居た。

そんな課題スレイヤーした気分でレポート提出するところから帰宅しようとすると、入れ替わりのようにその同ゼミの地味女がやってきた。彼女もギリギリでレポート出せば単位貰えるから最低限思想で同じようなタイミングでやって来た同士だったのである。

夕刻・同じゼミの男女2人・課題提出の達成感・そしてお互いの謎のパーソナル
ここシチュエーションならやっぱり自分から声を掛けてみて、ある程度は親睦を図るというチョイスが最適解だろう。全く楽しそうじゃない彼女の意外な一面が知れたり、新たな友情が芽生えるかもしれないのだ。

しかし自分はその時やはり変な自意識に囚われていたこともあり、敢えて気付かないフリをして眠そうに帰っていくということをやってしまった。童貞でもあったので普通に恥ずかしかったのである。異性に自発的に目的なしに交流を求めるのは齢18の田舎者には少し勇気が足りなかった。

なんとなくお互いの顔を確認してお互い「同じゼミの人だろうな」ぐらいのテンションで僕と彼女は特に言葉も交わすことなくすれ違っていった。

前期日程が終わり、夏休みを挟んで後期日程がスタートする。基本みなこの夏で色々親睦を深めて本格的なモラトリアムを決定するのである。勉学に励む、サークルで楽しむ、免許取る、バイト詰め込むなどさまざまな体験を経て少し強くなって大学に戻ってくる。俺も運転免許を取ったり、サークルの合宿に冷やかしで参加してみるなど、無益ではない夏は一回生の頃は遅れて居たと思う。そんな自分語りはどうでもいい…

秋学期になるとそのゼミの孤立していた女の子は姿形が一切見えなくなって居た。誰とも話している様子もなかったし、夏休みを経て大学の居心地に見切りをつけて辞めていったのだろう。まあそういう人間も一定数居るのは承知している。しかし、あのレポート提出の自意識ゆえの「何もしない」といい行動が凄くフックになって効いてくるのだ。

もしあの時に下手なりにコミュニケーションを図っていさえすれば、なんとなく知り合いになれて秋学期も彼女に会えたのではないだろうか。別に恋愛感情とかでもなく、「多分この人辞めちゃうだろうな」のところのあと一歩の引き留めさえ出来れば、歴史のifとして後悔がある。

初期段階で見切りをつけて大学を去る人間は一定数いる。しかしそんな彼女に効果は判らないが何かしらのアクションを起こし、交流を育むことが可能だった千載一遇のシチュエーションで完全スカシをやってしまった後悔。大学を去ったとしても知り合いとしてホールドされた関係性は維持できただろうに。

なんというかちょっと認識下にある深い関係性もないはずの人が人知れずフラッと消えていくのは本当になんか悲しい。俺はそういった人間のことをことあるごとに思い出すし、彼彼女たちがいまどんな人生を送っているのかも気になってしまう。しかし名前も知らない以上再開は果たすことはないだろう。これが人生ですななと大都会キャンパスの人間交差点に自分が登場したのだと寂しい気持ちになった。

とにかくちびまる子ちゃんの「野口さん」のようなミステリアスガールで話したら意外にいいカルチャートークできそうな気配もあったが、あの日の俺は無駄に思春期メンタリティ発動してしまい無視して帰ったのだ。そしてそっから野口さんは大学に現れなくなった。どうか平凡な毎日を送って居て欲しい。というかインタビューしたい。

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