u-nextで1.5倍速でここ最近離れていたアニメを瞬足のように流し見する新たな習慣ができた怠惰な休職中である。その中でも異彩を放っていた「16bitセンセーション」
エロゲ黎明期の90年代にタイムスリップしてあの頃のエロゲメーカー事情を作りて側から色々懐古するというアニメにも業界バックインデイズものがやってきたか！と中々興奮を覚えた。

まあアニメに関しては「another layer」と断っているように、後半は所謂あの頃のエロゲ的SF展開みたいのが始まり、「あの頃」の衒学的な超感覚を追体験させてくれるような飛躍感だったが、原作の漫画版は忠実なあの頃のエロゲーメーカー中の人お仕事物語として文化的資料価値が高い。業界裏話ゴシップものとしての成分も強く、なんというかちゃんと血の通った大人たちが表現の幅を活かして自由に創作できるスーパー実験場みたいなフィールドだったんだなと理解できた。そして意外にも女性達がエロゲを支えていたという事実も面白かった。

そうなるとエロゲーというのをしっかりと歴史として捉えたくなるのが常である。バキ童chでクルッポーが唯一令和の壊滅的エロゲ市場で頑張っているエロゲリバイバル的な流れぐらいしか把握しておらず、嘗てはニコニコ動画で名作エロゲーのPVだったり、ストーリーを教えてもらうwikiで凝ったトリックのエロゲーの概要をなんとなく知っていたぐらいのもんである。エアプ全開な青年期を送ってきたのは恥の多いのか少ないのか？

エロゲー文化研究概論はエロゲー始祖期からの丁寧な導入に始まり、そこから群雄割拠のエロゲーをメーカーや作家性のフォーカスを当てながら淡々と消化していくスタイルである。筆者が思い入れのあるゲームだと熱量が高いのがいい。そして時代性でゲーム内容の過激さみたいのを考察していて、エロゲー外の世界からのフィードバックとしての創作物としての語り方など90年代感覚を理解する補助線となる。

そうなると一つの文化としての「サブカルチャー」という文脈に結びつけて考えると栄枯必衰も納得できるのではないかと思う。俺は90年代前半生まれなので、そこら辺の感覚は全く後追いでゼロ年代後半の既に「マジだった方のサブカルは死んだ」世界から色々歴史探究をしているぐらいだ。正直正しいサブカルなんてものの正体や本質など時代性に付随するものなので概要ぐらいしか理解してないが、悪趣味・俗悪・猟奇・世紀末・精神世界・オウムとかそこら辺のものがーアングラなサブカルチャーだと思っている

サブカル畑の人の「サブカルが死んだ」のはいつかはわからないが、なんとなくサブカルが指すものの本質が変容してきたのはゼロ年代入ってからだと勝手に推察し、それ以降はポストサブカルチャーとして半メインストリームカルチャーとして存在し続けていると思う。

そんな中でもエロゲーというのはゼロ年代というのは明らかに黄金期であったろうし人材も資本も市場規模をかなり充実してるように見受けられた。もちろんWindowsPCやネットワーク回線のインフラ強化の賜物だろうが、映画の如く過激さを含む表現の最高峰のステージとしてサブカルチャー成分を内包しながら発展して行ったのではとなんとなく思った。本書はあくまでもエロゲー史観のみでしか語られていないが、作り手達はエロゲのみならずそういった俗悪なサブカルをダイレクトに享受していた方々だと思うし、おそらく表現の場としてはエロゲー業界にそういう類いの猛者が集結していたことは間違いなさそう。

ここまで言っておいて自分は恥ずかしながらエロゲープレイを殆どしたことがない。ずっとMacだったから許してくれ。まあiPhoneの出現などエロゲが活躍できるメディア場自体が減ったというのも衰退の一因としてありそうだし、ここら辺の衰退論は諸説調べるのも一興である。まあビジネスモデルとしてはなかなか難しいというのもあるだろう。

しかし、この本で紹介されていたエロゲー達の衝撃的なセンスというかエログロなんでもありSFから衒学的要素の高いストーリーテラー達は一部は商業ベースでフックアップされていっているものの、こういった露悪的文学カルチャーの担い手というのが明らかに減ってしまっているのは不思議に思う。この手のニッチな需要なんてどの時代も一定数必ず作り手も読み手も居ると思うのに、自分の狭い観測化では明らかにみんな居なくなっている。

もしかするとそこら辺のあの感覚というのは90年代が創り出したある種の一過性のものだったのか？となってしまう。けいおんみたいなアニメがその後流行ったように、時代に要請された一瞬の煌めきの需要と供給のバイオリズムの特異点だったのかもしれない。またどっかで巡り巡ってこういう時代が再来することを期待したい。というか膨大なテキストを読み進めて流れで泣きながらシコるなんて大学の下宿先でしかほぼ不可能だと思うんだ！