キヲク。

小学校3、4年の時にイツメンがいた。毎週水曜の放課後は2時に集合していて、どこで遊ぶかというと決まってJの家だった。

Jの家は1階が事務所になっていて机(ニュアンス的にはデスク、って感じのもの)が6個くらいくっついていて、各デスクの上にはパソコンが一台ずつ置いてあって、コピー機もあった。ちょっとした仕切りの奥にはキッチンがあった。

最初の頃は2階のJの部屋で遊んでたけど、いつからか1階で遊ぶようになった。1階はお父さんの仕事場って聞いてたけど水曜は休みなのか謎だったが、いつも誰もいなかった。電気も消えてる。Jのおばあちゃんはいつも2階でテレビを見ながら編み物をしていたし、お母さんは別居中。

1階にある一番画面の大きなパソコンの電源をJがつける。YouTubeを開く。
「最近ハマっとる曲あるん」

湘南乃風の睡蓮花が爆音で流れる。
音量を小さくする設定が分からなくてあきらめたJは奥からオロナミンCを持ってきてくれた。Jの家の1階で飲むオロナミンCが一番ウマイ。後にも先にも。

Jが揺れ始めた。オロナミンCを片手に、揺れてる。
私も、他の二人も、オロナミンCを片手に、真似するように揺れてみる。たまにクイ、と飲みながら。ここはJのお父さんの会社のオフィスだ。

レゲエ砂浜ビックウェーブ、の意味もわからずにとにかくノってる。
夏だぜ、と湘南乃風の誰かが言う。
私たちが「イェー」と言う。意味もわからずオロナミンCのビンをかかげる。とっくに中身は無くなっている。Jともう一人は歌いながらオフィスを走り回る。曲はまた最初に戻った。そしたら走るのもやめた。盛り上がってくるとまた走り出そうとする。俺、俺、俺俺俺俺で、完全に走り出してる。意味もなく冷蔵庫を開け閉めしてる。トイレのドアも。祭りかよ。これで7回目だった。


ついに、ヘトってきたJが7回目が終わると同時に曲を止めた。
「全然系統違うけどこれもいいんさ」

HYの366日が流れる。
PVの映像が映るパソコンをみんなで覗き込む。

「今、これのドラマやっとるんやけど、やばい。無理かも」
Jが泣き出す。J以外はギョッとしてる。
Jは、でだしの「それでもいい」の時点で泣いてた。

夕方の5時になったらバイバイする。
この生活は約2年続いた。湘南乃風じゃなくて嵐の時もあったし、HYはこれっきりだった。

ある日、Jが誰もいない時に1階の例の一番画面の大きなパソコンでエロ動画を見ていたら、何らかのウイルスにより、待ち受け画面が見ていたエロ動画の挿入シーンのまま元に戻らなくなり、Jはパソコンを使うことを禁じられてしまう。

そうしてあっけなくオフィスでの遊びは終焉を迎え、私たちは健康的に公園の鉄棒で逆上がりをしたり、砂場で穴を掘って大便のキャラクターのキーホルダーを埋めたり、ブランコを立ち漕ぎしているJに誕生日でもないのにハッピーバースデイ!と言いながら、イチョウの落ち葉を大量にかけたりして遊んでいたら、Jの唇が切れて血だらけになり、病院に行ったら「4針縫った」って次の日学校で言ってた。

その後Jは少年院にいる男と付き合っていると言う噂もあったしタトゥーも入れてたと言う噂もあったしトイレでタバコも吸ってたと言う噂もあったがそれはどうであれ、他の2人はそれぞれの友達ができて、結局4人はバイバイしてしまったけど、儚くもきらめいてた、時には痛々しいキヲク。ラブ。



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