クソシの会

 黄色と黒のコーンにへばりつく紙を見た。「公園内の無許可での駐車を禁止します」だった。困った。

 今、家には大学時代の夫の連れ達「クソシの会」のメンバーが集合している。ミカ子はクソシの会が嫌いだった。クソシというのは夫のニックネームであり、中心人物でもないくせにそれがLINEのグループ名となっている。周りからイジられやすいタイプで本名はツヨシなのにモジってクソシと呼ばれている。あと、トイレが毎回長いのでそう呼ばれているのかもしれない。どっちが本当の理由かは知らない。クソシと命名した人は、タケウチさんだ。毎回ガンマンのような恰好をしてやってくる。バリトンサックスを披露もしないのに持ち歩き、クソシの会が集合するときもいつも持ってくる。中学時代に全国大会に出場したことを五十を過ぎた今でも話し、過去の栄光にいつまでもすがっている。今は小さな不動産屋を経営している。


 ミカ子が公園に車を置かなければいけない理由はタケウチさんにあった。タケウチさんは緑のカマロに乗り、それを愛している。車庫には二台入るが、タケウチさんは必ず車庫の奥側に止めることになっている。手前に夫の車がある。他のメンバーは県外から電車で来ている。ミカ子はクソシの会の間は出かけているが毎回20時には公園に車を停め、いつもは家に帰り、二階で行われているクソシの会が終わるのを一階で待っている。今回はそうはいかない。


 ミカ子は仕方なく車に乗りエンジンを掛けた。21の時に6歳年上の夫とアーチエリークラブで出会い、周りのすすめで何回か食事に行き、いつの間にか付き合うことになり三年後に結婚。25の時に娘が生まれる。娘は現在社会人二年目。名古屋のIT企業で働いている。実家がウサギのブリーダーをやっている、料理の得意な男と同棲している。私は、とミカ子は思った。タケウチさんの車を守り、二階を片付けてクソシの会のメンバーをもてなす準備をし、集まったらそそくさと家を出て行き、三十分かけて用もないのにイオンモールへ行く。公園に車を停め、家に徒歩で戻り、メンバーが帰るのを一階で待ち、今日はそれすら許されず、あてもなく車を走らせている。ふと家の前を通ったら車が一台も無かったとして、クソシの会が解散していたとする。そしたらお茶の飲みさしのコップをシンクに集めて机の上のお菓子のごみを片付け、電気は点けずに二階の全ての窓を開け、充満した加齢臭を逃がし、その間にコップや皿を洗う。帰ったところで待っているのはその作業だけだ。ミカ子は家の前に続く曲がり角を曲がらず、団地の外側を何度も迂回し続けた。

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