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10年以上の時を越えて:北朝鮮の新型コルベットの就役が確認された

亜覧澄視、小泉悠(@OKB1917


はじめに

 北朝鮮海軍の水上艦の動向については世間どころか艦船マニアからも一切注目されておらず、一部の熱烈なウォッチャーのみが追い続けているのが現状です。
 今回は著者が10年以上も動向を注目してきた新型の「トゥマン」級コルベットが遂に人民軍の基地に配備されたことが確認されたため、詳細を交えながら紹介いたします。

トゥマン級コルベットとは


トゥマン級コルベット(武装は実際と異なる可能性がある)©Tarao

1 概要

 全長約77メートルであるこの艦は過去に「南浦(ナンポ)」と呼ばれていたものですが、数年前に米国防総省が「豆満(トゥマン)」という別のコードを付与したことが判明しました。

 建造は2012年春ころに黄海側の南浦の造船所と日本海側の羅先で1隻づつ開始されたことが衛星画像で確認されており、遅くとも2013年冬にはどちらも完成したように思われていました。

2012年6月の南浦にて:「トゥマン」級が進水した状況が初めて確認された ©Google Earth
2013年8月の南浦にて:ヘリ甲板の塗装が終了するなど、一見して完成したように見えた ©Google Earth 
一度、トゥマン級はこの状態で完成を迎えた ©Tarao

 当初、この2隻は「ソホ」級以来のヘリ甲板を備えたコルベットとして建造され完成したものの、人民軍に配備されないまま1年程度放置された後にヘリ甲板を潰して同所に準同型艦とも言える「アムノク」級と同じような兵装を搭載した構造物が建てられる改修を施されました。

2018年1月の南浦にて:トゥマン級(下)はヘリ甲板が潰され、アムノク級(上)に準じる構造物が設置された(この時点で完成したように見える) ©Google Earth 
2021年5月の南浦にて:完成したように思えたトゥマン級は整備や僅かな改修を受けた(主砲が完全に密閉された新型の自動式である可能性を示唆している)©Google Earth 

 現在はどちらの艦も改修が終了しているようですが、今回取り上げる南浦の「トゥマン」級については2022年12月3日から2023年2月4日にかけて、琵琶串海軍基地に配備されたことが判明しました(羅先のものについては、最後に確認されたのが2022年9月時点で港内のドライドックで整備されている状態のため、現況については不明です。

2021年6月の南浦にて:前月の改修が終了したようだが、このまま1年半以上放置されることになる(主砲が古い手動式に見える点に注意:このような換装や取り外しは比較的よく見る光景である)©Google Earth 
2022年12月23日の南浦にて:トゥマン級(右)とアムノク級(左)が停泊している状況が確認できる Image ©️ 2023 Maxar Technologies
2023年2月4日の南浦にて:トゥマン級が姿を消している(停泊が想定され得るほかの場所を精査するも発見に至らなかった)Image ©️ 2023 Maxar Technologies
2023年2月23日の琵琶串海軍基地にて:ナジン級フリゲート(左)の隣にトゥマン級(右)が停泊している状況が確認された。Image ©️ 2023 Maxar Technologies
配備されたトゥマン級の拡大図(搭載された主砲が新型か旧式かは不明)Image ©️ 2023 Maxar Technologies
2023年6月の羅先にて:トゥマン級(2隻目)がドライドックで大掛かりな整備を受けている(時期を踏まえるとこちらも遠くないうちに配備されるはずだ)©Google Earth 

 ヘリ運用艦として完成したはずの「トゥマン」級なぜ年月の要する改修を施されたのかは不明ですが、搭載すべきヘリの不足や求められる運用方針の変化を受けたものと思われます。北朝鮮としては極めて少ない「大型艦」を限定された用途ではなく多目的に使用できる方向性を求めた可能性はあるものの、理由は何もわかっていません。  

 この艦はデザイン自体が一見して軍艦らしからぬ奇抜なものであり、改修前の武装は「RBU-1200」対潜ロケット4門のみであった割には北朝鮮では貴重な新型対空・対水上レーダーを装備しているなど、何を目的に建造されたのかは不明な点が残されています。

2 武装(推定)
  ・ 100ミリまたは85ミリ砲(手動)、もしくは76ミリ砲(自動)×1
  ・ AK-230改多銃身機関砲×1または2
  ・ 近距離対空ミサイルシステム(SA-16用6連装発射機)×1
  ・ 金星-3型艦対艦ミサイル×8
  ・ 533ミリ魚雷発射管×2

3 電子兵装(推定)

  ・ 362型対空・対水上レーダー×1
  ・ 日本製と思われる航海レーダー×2
  ・ MR-104FCSレーダー(AK-230用)×2
  ・ 3連装チャフ発射機×4~6

 このうち対空・対水上レーダーについて国連安保理の制裁違反ではないかという疑問が湧きますが、同型が最初に搭載された「ノンオ」級高速ミサイル艇が2004年には登場しているので制裁前に入手した可能性を否定することはできません。

 北朝鮮の新型艦に共通する点として、対艦ミサイル用のFCSレーダーが見当たらない問題がありますが、データリンクによる標的獲得や航海レーダーを改修した可能性はあるでしょう(北朝鮮と友好関係が深いキューバやイランでは地対艦ミサイルシステムで航海・沿岸監視レーダーが使用されている点を考慮する必要もあります)。

衛星画像でわかるトゥマン級(最終型)の武装(魚雷発射管の有無は不明)Image ©️ 2023 Maxar Technologies

今後について

 前回の記事で言及したとおり、北朝鮮における新型水上艦艇は少ない割にその建造速度は極めてスローペースです。今回の「トゥマン」級の配備で南北の戦力バランスに変化は何も生じませんが、装備の老朽化が著しい海軍にとっては朗報と言えるでしょう。
 依然として人民軍に引き渡されていない「大型艦」は南浦の「アムノク」級と羅先の「トゥマン」級が1隻ずつとなりますが、配備済みの艦と同様に今後の動向が注目されます(注:「アムノク」級は羅先でも建造され、早くも2017年夏頃には配備されています)。

参考資料

朝鮮民主主義人民共和国の陸海空軍

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