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第27話 ママが一人に? みんなの話をまとめると…

人間は、言葉というツールを使ってコミュニケーションをとる、地球上の唯一の動物だ。

あ、ボクは例外ね。

ワンワンとしか言えないけど、話はわかるから…。


しょうちゃんとママは二人でたくさんお話をするよ。

ボクにもちゃんと話しかけてくれる。


なのに、た―くんは話をしない。

ママが何を聞いても、うなり声をあげるだけだ。

たまに人間らしく言葉を発したかと思うと、たった一言だけ。

相手と言葉のキャッチボールをすることはないんだ。


ママとしょうちゃん。
それでもた―くんと話ができてるのが本当に不思議でならない。


だけど、たーくんはボクとはよく遊んでくれる。

優しいコなんだと思う。

それに、玄関の靴をきれいにそろえるのには驚いたな。

ママもしょうちゃんも脱いだらそのままなんだよね。


もう一人。
脱いだ靴をそろえる人をボクは知っている。

「ポッキー、お邪魔します。」

イヌのボクにも丁寧にあいさつしてくれる、ママと仲良しのお友達だ。


ボクは靴を履くことはない。

でも、もしボクが人間になれたら、脱いだものはキチンと揃えようと思う。

その方がキレイだから。


テーブルでは、た―くんを囲んで、しょうちゃんの話をしている。

ボクはみんなの話を、いつもの南側のラグの上で聞いている。

全神経を耳に集めて。


しょうちゃんはこれから学校の先生になる。

大学の試験に受かったら、遠いところで一人で暮らすらしい。


ママの旦那さんも遠くで暮らしている。

どうして一緒に暮らさないのかはわからないけど・・・。

ケンカでもしたんだろうね。


た―くんはママのところと、パパのところにひとつづつ、お土産を買ってきたのだ。

パパっていうより「とーちゃん」だったかな。

そう言えば、ママのことを「かーちゃん」と呼んでいた。​

ボクは「ママ」と呼ぶけどね。


さっきママに渡したお菓子と同じものを、とーちゃんにも買ってきたのだということ。



問題はしょうちゃんの話。

秋田に行くって言ってた。

ここから、電車で何時間もかかるところみたい。


人間って、電車に乗ったらいろんなところに行けるんだな。

ボクも電車に乗ってみたいけど、車での移動さえ苦手だからなぁ。


そこに行くには、試験に合格しないとダメなんだ。
だからしょうちゃんは毎晩遅くまで勉強してるんだと思う。


ボクはずっと前のことを思い出した。

繁殖用の検査に落ちてベットショップにまわされたこと。

繁殖犬になれなかったから、今ここにいる。


ボクはこれで良かったと思っている。


なぜなら、繁殖用にされると、かなり過酷な生活が待っていたはずなんだ。

生んだ赤ちゃんと離され、またすぐに次の赤ちゃんを産まなければならない。

繁殖だけの毎日なんだ。

家庭というものを知らずに歳をとる...。

ボクを産んだママもそうなんだと思う。

多分・・・。


しょうちゃんが合格することが、しょうちゃんにとって、いいのか悪いのか。

答えはずっと後にならないとわからない。


しょうちゃんにとって一番良い道。

神さまはそこに導いてくれるといいなと思う。


しょうちゃんがここからいなくなると、ママはひとりになっちゃう・・・。

ママが一人でも寂しくないようにしょうちゃんはイヌを飼うことを提案したんだ。


しょうちゃんのおかげでボクはここにいる。


ボクは、二人の子どもと楽しそうに話してるママを見た。

ママの笑顔がふと消えて時々伏せ目がちになるのをボクは見逃さなかった。


ボクは、みんなの話を邪魔しないようにようにそーっと立ち上がって、テーブル近くへ移動した。

ママの顔が良く見えるところ。

しょうちゃんが座ったまま、自分が食べてるた―くんのお菓子をひと口分けてくれた。

ボクは、それを一口で飲み込んだ。

でもそんなことはどうでも良かった。

飲み込んだお菓子を、のど元に感じながら、ボクはいつかのママの言葉を思い出していた。


「ポッキー、今度生まれてくるときは、ママの子どもで生まれておいで…。」


あの時、ボクはここに来たばかりで、その意味が分からなかった。

でも今、その意味がわかったような気がした。


ボクはママから視線を外さないように、その場で伏せた。

みんなの話の続きを聞く態勢を整えるため、肉球にグッと力を込めた。





今日も最後まで読んで頂きありがとうございます。

感想など頂けると嬉しいです。

それで浜は次のお話でお会いいたしましょう。






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