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第29話 タイムマシンに乗って未来へ た―くん14年後の話

人間なのに話すことをしないた―くん。

彼の未来はどうなっていると思う?


ボクは妖精のたみちゃんにお願いして、タイムマシンに乗せてもらった。

た―くんの未来を見たくなったのだ。

今は大学生だから良いけど、これから社会に出てちゃんとやれるのか、気になるんだよね。



さあ、た―くんの未来の話をするよ。

・・でも、これはとても悲しい話になっちゃうんだけどね。


妖精のたみちゃんが、未来のた―くんに会うなら、ここがいいよと教えてくれた。

た―くん34歳、2021年の秋。

今から14年後だ!


ボクと妖精のたみちゃんはお手々をつないだ。

高橋多美子様_イラスト

しっかりと!

外れてしまうと、ボクは宇宙のかなたで粉々になってしまう。


「ポッキー、目をつぶってね」

妖精たみちゃんの合図に、ボクの心臓の鼓動は聞こえるほど大きく高鳴った。


ぐおっぉぉおおぉおおお~。


タイムマシンは金属音を立てて回り出した。

ボクは爆風で飛ばされそうになりながらも口をグイッと結んで必死にこらえた。


さあ、どのくらい時間がっただろう。

ボクの全身は今までに経験したことのない、大きな衝撃を感じて目を開ける。


次の瞬間、ボクと妖精のたみちゃんは、ゆっくりと下降している。

遠くには穏やかな海が見えている。

秋の空というのだろうか。

雲一つない青空がどこまでも広がって、水平線につながっている。


ボクらは静かに芝生の上に降り立ち、そのまま建物の中に吸い込まれた。

クラクラする頭に酸素を送るため、ボクは何度か深呼吸をした。


さ、ここはどこだろう。


建物の中は広くてきれいに整備されてはいるが、何だか殺風景だ。


あ~、た―くんとママがいる。

他にも3人。

みんなで建物内を移動をしているところ。

若くて小柄な女の人がいる。

これがた―くんのお嫁さんなのだろうか。


妹のしょうちゃんよりも小さくてスリムだ。

それにおとなしそうで、かわいらしい。


ママくらいの年齢の、男の人と女の人もいる。

みんな黒い服を着ているよ。


周りを見ると、いくつかのグループに分かれて人が立っている。

何をするでもなく、ただ静かに話をしているだけだ。

その人たちもみんな同じような黒い服装をしている。

何か厳かな雰囲気がしているのを感じた。


「た―くんのそばにいるのは、た―くんのお嫁さんと、そのご両親だよ。」

妖精のたみちゃんが、そっと教えてくれた。


た―くんのお嫁さん?


ボクはお嫁さんをもう一度しっかり見ようと目を凝らした。

でも、下を向いているからその時は良く見えなかった。


みんなにはボクらの姿は見えないはず。

でもが何か気配を感じるのだろう。

一瞬こちらを見る。

が、何もないので、すぐに向き直って、廊下に面した部屋の中に次々と入って行った。


そこは、窓もない小さな部屋。

壁ぎわには、イスが部屋の中心に向かって6脚ほど置いてある。


部屋の奥、中ほどに四角い小さめなテーブル。

テーブルの上にはカステラ程の大きさの箱がお花に囲まれて置いてある。

5人は箱の中をかわるがわる覗いている。


部屋にはそのほかの装飾は何もなかった。


妖精のたみちゃんは、箱の真上においで、とボクに手招きした。

箱の上から見ると、そこにはお花で飾られた何かが見えている。

ボクは妖精たみちゃんを見上げた。


「た―くんの赤ちゃんだよ」

妖精のたみちゃんがボクに耳打ちした。

ボクはその言葉にびっくりして、改めて箱の中を見下ろした。

「た―くんの赤ちゃん・・。」


箱の中には赤いもの、卵くらいの大きさをした人間の顔が横向きに見えていた。

顔の下は、お洋服を着ているのか、お花で埋まって見ることはできない。

人間の手の平に収まるくらいの大きさなのだろう。


た―くんの赤ちゃんは、た―くんのお嫁さんの「かりのちゃん」のおなかの中で、心臓が止まってしまったのだ。

生まれる前に。

妊娠19週だった。

胎児でも12週を超えると火葬をしなければならない。


た―くんとかりのちゃんの初めての赤ちゃん。

今日はひとりで天国に帰る赤ちゃんを見送る日。

ホンの身近な人たちだけでのお別れをしているのだ。


かりのちゃんが、イスの上のバックから1通のお手紙を取り出した。

そして、赤ちゃんのお胸にそっと置いたんだ。

色白のかりのちゃんのほほには涙が二筋、ぼんやりとしたライトに映し出されていた。


た―くんは係の人に促されて、赤ちゃんが眠っている箱を抱っこする。

かりのちゃんと交互に赤ちゃんとのお別れを惜しむ、静かな時間が過ぎていく・・。

他のみんなはそれをそっと見守った。


た―くんは、かりのちゃんのご両親に、出産時から今までのことをいろいろ説明する。


かりのちゃんのお母さんが、ママに向かって重い口を開く。

「た―くんが、かりの の入院や分娩、ここへの手配など、しっかりやってくれて安心でした・・。」


「ありがとうございます・・、かりのちゃんのご両親のご指導のおかげです・・。」

とママも低い声で答えていた。


やがて、胸の熱くなるお別れが静かに終わった・・。


火葬された赤ちゃんが炉から出てきた。

見るとそこには、刺繍針ほどの細い細い赤ちゃんの骨が数本残されていた。


それは・・

参列者全員の指で、丁寧にツボに収められた。


た―くんは遺骨のツボを。

かりのちゃんは花束を。

それぞれの胸に抱いて斎場を後にする。



妖精のたみちゃんが、ボクを促す。


ボクらも未来のた―くんとのお別れの時刻だ。

でもボクは、た―くんとかりのちゃんの後姿を呆然と見つめたまま動けないでいた。


妖精のたみちゃんが、再びボクを促す。


ボクは、ハッと我に返って、妖精のたみちゃんの手をしっかりと握った。

と同時に目をギュッとつぶっって息を大きく吸った。


胎児のまま、産声をあげることもなかった、たーくんの赤ちゃん。

目や口もはっきりわかる、その赤い横顔を思い出していた。


「た―くんの赤ちゃんが、た―くんをパパにしてくれたんだね・・。」

ボクは妖精のたみちゃんを見上げてそっと言ってみた。

妖精のたみちゃんは優しく微笑んで、大きくうなずいてくれた。


そして手に持ったステッキを大きく空に向かってひと振りする。

同時にボクの意識は薄れていった・・。




今日も最後まで読んで頂きありがとうございます。

た―くんとかりのちゃんの赤ちゃんは、産声を上げることなく天国へ帰っていきました。

二人はその子に「ななちゃん」と名付けています。

ななちゃんは、お腹に宿って19週もの間、一生懸命頑張りました。

たーくん、かりのちゃんに親としての強さや優しさをもたらしてくれました。

20センチほどの小さな小さな、ななちゃんの功績は大きいです。


今度生まれてくる時は、元気な産声を待ってるからね・・。

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                        天国のななちゃんへ。
出生証明欄空白の母子手帳と、ななちゃんが存在した証として足形を。


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