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第31話 ステキな3人組 優しさを取り戻した盗賊の話

フワーッツ。

朝から大あくびが出る。今日はゆっくり過ごしたいね。

何しろ14年後の未来と、半年後の未来から帰ってきたばかりだから。


ボクは、いつものお昼寝の場所に行って寝床を掘ってお昼寝体制を作った。

いつもの南側のポカポカ日のあたる、ボクのお気に入りの場所なんだよ。


それにしても、14年後のた―くんの赤ちゃんのことは本当に悲しかった。

でもた―くんがきちんと人間の言葉を話しているのには驚いた。

ここではうなり声しか出さないコだったからサー。


反対に、半年後のママのセーラー服姿にはびっくりしたな。

しょうちゃんには、もう必要のない高校の制服だからといって、それをママが着ているなんて。

いくら何でもひどすぎない?


ボクは、た―くんの赤ちゃんのことで胸が熱くなったことと、ママのおちゃめなセーラ服姿の両方をかわるがわる思い出していた。



すると、突然チィムが鳴ってボクは、驚いて現実に引き戻された。

誰かが来る!

ボクは一瞬で全身を警戒モードに切り替える。


急いで走って、まだ開けられていない玄関のドアに向かって、必死に吠え続けた。


ママも、急いで来客態勢だ。

「ポッキー!」

ボクに吠えるのを止めなさい、というのだろう、ボクの名前を呼ぶ。

慌ててダイニングテーブルを片付けると、ボクに走り寄り、ボクを抱っこした。


いくらママの命令でもこればかりはやめるわけにはいかない。

ボクだって危険からママを守らなければならないんだ!


ボクの激しい威嚇の声の中、玄関が開いて、何かが入ってきた。


「こんにちは、ポッキ―」

ボクは、一瞬でその人に敵意がない事を察知する。


ママと仲良しで。

ボクにもきちんとあいさつをしてくれて。

脱いだ靴をきれいに揃えて入ってきて。

お土産のお菓子なんかも分けてくれる。


あの人だ。

ママがようちゃんと呼ぶ人だとすぐにわかった。


ママは、ボクが吠え続けるのを申し訳なさそうにしている。

でもこれだけ吠えてしまってる以上、急にやめるわけにはいかない。

ボクの中でイヌの血が騒ぐんだ。


ママは、ボクを抱っこしたまま、先にリビングに行って、ボクをカウンターチエアーに乗せた。


それでボクは、吠えるのを止める。

ここはボクのお気に入りの場所。

高いから窓の外にお外も良く見えるし、ここにいるとテーブルに出てくるお菓子がもらえるからね。


ボクはその場でゆっくり2回、回転した。

今まで興奮していたのに、急に動きを止められたからどうしてよいわからなくなったのだ。


ママが右手のこぶしを目の高さにあげてボクに「お座り」の合図をくれた。

良かった!

ボクのすべきことが分かった。

ママはさらにその手を下に下ろす。


ボクはこの合図でその場に静かに伏せてリラックスモードに切り替えた。


そしてボクは二人の話に耳を傾けた。


二人はあれこれ、お洋服のことだの、季節のことだの、他のお友達のことを次々に話をしている。


たくさん話のネタがあるもんだ、とボクは感心する。


ボクのともだちは、散歩で仲良くなったクルミちゃんと、きなこちゃんくらいだし、お洋服はこのダブルコートの黒い毛皮だけだから。

話すことは、あまりないんだよね。


ボクはだんだん眠くなって目を閉じて二人の話をぼんやりと聞いていた。


少しして、ママが話し始めたことがとても気になって目を開けた。

「イヌ」とか「殺処分」というワードが飛び込んできたからだ。


ボクの耳はふたたびフル活動を開始する。



それはつらい話でもあるし、ステキな話でもあった・・。


ママが話し出す。

あるところに、いらない犬を処分する場所に連れて行く前の少しの間、そのコたちを置いておくところがあるみたい。

飼い主さんが現れるかもしれないからなんだって。


これは、聞きずてならない。

ボクの肉球はグッと縮まり、心臓が激しく動きだしたのがわかる。


処分場にまとめて連れて行かれる、ボクらの仲間たち。

そこに連れられて来られるのは、飼い主さんの都合で捨てられたコたちだ。

さまよっているところを捕獲されたイヌたちばかりなんだ。


そこに送られたらどうしよう、とそんな思いでボクは聞き耳を立てた。


ママは話を続ける。

「そうしたら、その処分待ちの犬たちを、散歩させてる男の人たちがいるのよ。3人組なの。」

その3人は、イヌ置き場の周辺を、そのコたちにリードを付けて散歩をさせているのだそうだ。

処分が決まっている犬たちに散歩?


ボクはママとの散歩を思い出す。


ボクの散歩は楽しい。

お日様の光を浴びるのは気持ちいし、お花や草のニオイを嗅いだり、いろんな音を聞くのも楽しみだ。

気の合う友だちに出会うことだってある。


たくさんのうれしいことが散歩にはあるんだ。


散歩に出てもボクには帰るおうちがある。

だからこそ、お外に出るのが楽しいのかも知れない。


ママは続ける。

絵本に「すてきな3人組」っていう話があるのよ。

夜道で人を襲っては、財宝を奪って行くの。


ところがね。

「こんなにたくさん財宝を集めてどうするの?」

ある日、襲った女の子に言われてハッとするの。その3人組が。


これまで盗賊たちは、そんなことを考えたことなはなかったから。

どうするんだっけ?何がしたいんだっけ?


やがてその盗賊たちは、親のない子たちを集めてみんなで暮らすお家を作ってあげるの。


殺処分寸前のイヌたちに最後の散歩をさせてあげてる3人の男の人たち。

ママは絵本に出てくる3人組の盗賊をイメージして、その男の人たちを「すてきな3人組」と名付けていたのだ。


ボクはママのフィルターを通してだけど、「すてきな3人組」を思った。

黒いずきんに、黒い長コート。

まさかりを持って財宝を巻き上げる悪いヤツ。

でも、女の子の一言で、忘れてた優しい心を取り戻すお話なんだね。


ボクは、「すてきな3人組」に散歩させてもらっている、そのコたちを思った。

最後の散歩。

どんな思いでさせてもらったんだろう。

今だって、飼い主さんが迎えに来てくれることを信じてるんだと思う。

きっと。

人間の都合で生まれ、人間の都合で処分される命があるんだ。



ボクは思わずママを見た。

ママはボクに気が付いて、テーブルのクッキーをひとつつまんで二つに割り、片方をボクに差し出した。

ボクはそれを見てニオイを嗅いだ。


どうした事か、ニオイが良くからない。

申し訳ないけど、ボクは顔をクッキーからそらした。


「あら、いらないの?」

ママは行きどこのなくなったクッキーを自分の口に入れてサクサク音を立てて食べ始めた。


ボクは耳をピンと立てて立ち上がり、お茶を飲むママの横顔をまっすぐに見つめた。

ずうっーとママと一緒だよ。

ボクは肉球に力をグッと込めていた。






















。人組の人組











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