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未来の建設業を考える:建設論評「太陽光パネルの功罪」(2022年6月1日)

太陽光パネルの設置義務付け

 太陽がまぶしい季節になってきた。
 このような時期、東京都が一定の新築建物、住宅に対して、太陽光パネルの設置義務付けを決めた。
 住宅(注文・分譲)やビルなど、都内で1年間に供給する中小規模の新築建物(1棟の延べ床面積が2000平方メートル未満の建物)の延床面積の合計が2万平方メートル以上を提供する事業者・住宅メーカーなど約50社が対象。個人への義務付けとは異なるが、仮に住宅メーカーが太陽光パネル費用を住宅価格へ転嫁すれば、消費者負担につながる。
 太陽光パネルの設置費用は出力4キロワットで100万~120万、維持費用は20年で35万円程度と言われる。
 全体コストの削減につながる工夫がより重要だと思う。
 日本は、すでに国土面積あたりでみた太陽光総発電量は主要国のなかで最大。平地面積だけでみるとドイツの2倍にもなっている。いまでも、狭い日本にどれだけ多くの太陽光パネルがあることがわかる。太陽光総発電量は中国が最大。米国が2位、インドが3位、日本は4位。

FM(ファシリティマネジメント)的発想で太陽光発電を考える

 確かに自然エネルギーを活用した太陽光発電は、発電に理想的な環境であれば有効な再生可能エネルギーとなりえる
 しかし我々が考えなくてはならないのは、設置による効用だけでなく、建物や施設と同じで、設置から維持管理、廃棄撤去、リサイクルまで含めたライフサイクル全体、まさにFM(ファシリティマネジメント)的発想で太陽光発電を考えることだ
 ライフサイクルで考えたときの大きな課題は、太陽光パネルの廃棄問題だ。
 太陽光発電は、2012年に固定価格買取制度(FIT )の導入により加速度的に増えた。太陽光パネルの寿命は、約25年から30年と言われている。法定耐用年数は17年であり、FIT開始後に始まった太陽光発電事業は2030年から2040年ごろに終了し、太陽光パネルの大量廃棄が発生すると予想されている。

産業廃棄物の最終処分量全体の6%

 今後の排出見込量について、環境省の推計では、仮に製品寿命を25年とすると2039年には約78万t、産業廃棄物の最終処分量全体の6%になると見ている。
 太陽光パネルには鉛、カドニウムなどの有害物質が含まれており、これも処分の対象となる。
 最終処分場のひっ迫を緩和し、資源の有効活用を図るためには、太陽光パネルのリユース・リサイクルを促進する必要があるが、現状は廃棄処理を担保するための電気事業法の改正により、廃棄費用の積み立てを制度化するなど、その取り組みがはじまったばかり。
 さらに、耕作放棄地やゴルフ場跡地に大量の太陽光パネルが設置されたが、そのまま放置された場合、部材の腐食や汚染などの環境破壊や景観問題も懸念される。
 太陽光発電のライフサイクルCO2排出量は風力発電やバイオマス発電よりも少ないと言われるが、それでも廃棄まで含めた取組みが早急に求められる。
 またコスト面でも、消費者への負担増につながらないよう、住宅の屋根を太陽光発電事業者へ貸し、設置・運用・撤去までを見据えた政策なども検討する必要があろう。
 いままさに、FM的発想で、経済的にも環境的にもメリットのある太陽光パネル設置の義務付けが求められるところだ。



参考1:

太陽光発電のCO2排出量は、発電中はCO2を発生しないが、「太陽光パネルを製造し、運搬し、設置する」過程では当然一定量のCO2が排出される。
 産業技術総合研究所の調べによれば、太陽光パネルの製造時に排出する二酸化炭素量は、発電量1kw/hに対して、17~48グラム程度とされている。風力発電が25~34グラム、バイオマス発電が26~62グラム、それに対して、火力発電は519~975グラムにもなる。いかに、再生可能エネルギーの二酸化炭素排出量が少ないかがわかる。

参考2:


 いまや太陽光パネルの製造が中国メーカーの独断場だ。世界の太陽光パネルの58%が中国製である。トップ10のうち、ジンコソーラー社を筆頭に、中国企業が7社。日本はランク外のわずか1%だ。つい先日も、韓国のLG電子が太陽光パネル市場からの撤退を決めたほどだ。
 設置義務化を契機に、日本メーカーの再度の奮起に期待したいところ。


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