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人の才能を見抜く力〜”テレビマンとしての自分の強み”とは?〜

大げさなタイトルを掲げて書き出してしまったが、本日2/5(土)よる9時55分〜 演出している「あざとくて何が悪いの?」が放送される。
ゲストは音楽プロデューサーの川谷絵音さんだ。

実は川谷さんは、13年の会社員(テレビマン)人生の中で起きた幾つかのターニングポイントの一つに関わる重要な人物でもある。
そして川谷さんとお会いしたのは、そのターニングポイント以来(約6年ぶり)だったので、勝手ながら一方的に感傷的にというか思うところが色々こみ上げてきたので、せっかくなので書き記しておこうと思ったわけだ。

6年前、僕は「関ジャム完全燃SHOW」という番組でチーフDをやっていた。2015年5月から放送をスタートした「関ジャム」。

今や音楽業界から絶大な信頼を得た唯一無二の音楽番組となっているが、実は自分が携わっていた立ち上げ〜2015年 年内は非常に苦戦していた。

自分を含めて総合演出も音楽番組未経験のバラエティチーム。
自分はかろうじてMステなどの手伝いはあったものの、本格的にアーティストと向き合うの初めて。音楽は好きだったが、好きと仕事は違う。
「音楽をバラエティにどう昇華するか?」これが番組立ち上げ当初の主な課題・議題だった。
つまりこの思想が根底にあるので、今の「音楽をとにかくストイックに追求する」というスタイルとは真逆の演出方針・企画方針が遂行されていく。

例えばあるアーティストには、売れ筋のキッチングッズを紹介したり、あるアーティストがラーメン好きだからとスタジオに屋台を呼んだりもしたことがあった。だが、(今思えば当然)なかなか数字はついてこなかった。

今思えば「そりゃそうだろ」という感じだが、音楽番組未経験のバラエティDだった私と総合演出の脳みそに、「音楽を実直にやってみよう」という思考は、どうヒックリ返っても生まれなかった。なぜなら「俺らが任された意味ってそれじゃないよね」と、すぐに我に帰るから。

と、なかなか出口が見えない中、ゲストとして迎えることになったのが当時飛ぶ鳥を落とす勢いのゲスの極み乙女。だった。

放送でいうと第32回(2016年1月10日)である。

当時の関ジャムでは、まずゲストが決まったらそのアーティストと打ち合わせをして、面白い趣味や習慣や考えや癖、今気になってる人・モノなど、バラエティ的展開に持っていけそうな種を見つける。これがかなり難しい。
なぜならアーティストは、当たり前だが「歌を歌う」「歌の魅力を伝える」ために番組に出演しているわけだ。極論、面白いことがしたいわけじゃない。そんな難度高めの打ち合わせには、基本的に毎回自分が足を運んでインタビューするようにしていた。

そしてその日も打ち合わせへ向かった。下北のライブハウスだった気が。

前後にどんな会話があったかは忘れてしまったが、打ち合わせが「楽曲作り」の話題になった時のことだった。

なんだ、音楽の話もしてるじゃんと思う人がいるかもしれないが、個人的にインディーズアルバムを拝聴したりしていて、「キラーボール」や「ドレスを脱げ」(今聞いてもめちゃくちゃカッコいい‼︎)など、今までのJPOPバンドにいないタイプの新しい音楽の担い手感が凄すぎたので、音楽素人ながらに好奇心からそのテーマに持ち込んでみたわけだ。

以下、芦田の記憶に残っている会話記録。
(あくまでも個人的な記憶なのであしからず…)

芦田「ゲスの楽曲はどうやって作っていくんですか?」
川谷「全部自分が作ってます」
芦田「1曲につきどれくらい時間がかかるものなんですか?」
川谷「早ければ30分くらいで出来ちゃいます」
芦田「え?30分ですか?」
川谷「はい。早ければ。」

え、なにこの人。天才じゃん。
と、稲妻が走ったことを今でも手に取るように覚えている。
あ、こういう人が天才っていうんだ。っていう。
そして同時に「この興奮はテレビを通して多くの人に伝えるべきだし、伝わってほしい」と強く思った。
だから興奮気味に質問を続けた。


芦田「それは例えば曲のテーマやキーワードさえ見えれば、バーっと全体像が?」
川谷「そんな感じですね。見えちゃえば早いです。」
芦田「じゃあ…例えば僕が適当なワードをいくつか川谷さんに伝えたら、うまくいけば30分で楽曲できる可能性あるってことですか?」
川谷「あ〜いけると思いますよ」
芦田「マジですか?(興奮して笑っちゃってたきがする)」
川谷「はい、たぶん。」
芦田「え、じゃあ例えばスタジオで関ジャニや古田さんが適当にワードを5個くらい言って、それを受けて30分で即興曲作りみたいな企画ってありですか?」
川谷「いいですよ」
芦田「(マジ?マジなの?そんなん不可能じゃないの?←心の声)」
  「本当ですか?実現できたら本当に盛り上がると思います!」
川谷「あ、でもバンドメンバーが大変ですけど(少し笑い)」
ほなさん・ちゃんMariさん・休日課長さん苦笑い。
芦田「あ…皆さん勝手なこと提案してしまってすみません…是非やってみて頂きたいんですが可能でしょうか?絶対にゲスというバンドの凄さが多くの人にこれでもかというくらい伝わると思うので」
3人「やってみましょう!」

そしてすぐに「関ジャム」の会議でプレゼンした。
「天才に出会ってしまいました。」
「あの川谷さんの自信は絶対にハッタリじゃない。」
「30分で即興曲作り、絶対にやるべきだ。それ自体を企画にしよう。」
「今旬のバンドのそんな映像、かつて音楽番組で見たことないんだから!」

最初は半信半疑だったプロデューサや総合演出や作家も「芦田がそこまで言うなら信じてやってみる?実現したらすごいことだしね」という空気に。

そして、2016年1月10日の放送で、その企画は実行された。

まさに有言実行で、急きょスタジオで関ジャニと古田さんが言い放った「牛丼屋に1人でいる女」「深夜12時前」「渋谷センター街」というお題をもとに、10分もかからないうちに川谷さんがスマホで打ち込んだ歌詞が完成。
最終的に何と35分ほどで1曲が完成してしまったのだ。
見ていた関ジャニだけでなく、スタッフ一同鳥肌モノだったのを覚えている。

「やっぱり自分の直感は間違えてなかった!このバンドは天才だ!」
「この放送は絶対に話題になる!!」
そんな確かな手応えを手にした収録だった。

実際にこの放送は大きな反響を呼んだ。
そりゃそうだ35分で1曲が完成してしまった様子をほぼノーカットで放送したのだから。そんな映像、テレビ史においても初めてなのでは。

そして、この放送は「関ジャム」にとって、もう一つ大きな影響を与えた。
それは「音楽を貫いて、音楽の力を信じて、こんなに面白いものが出来上がったなら、今後も音楽を貫いて番組を作っていくべきなのでは?」
そんなムードが番組全体に漂い始めたのである。
しかし残念ながら私自信は、それと同時に企画・演出していた「あいつ今何してる?」が2016年4月からゴールデンに昇格することが決定し、業務過多になることを見越して、「関ジャム」の担当を外れてしまった。

ちなみに、この放送から約2ヶ月後の2016年2月28日の放送で、さだまさしさんをゲストに迎え、なんと15分で即興曲作りを行い(題材は最新の新聞や雑誌何冊か)見事に番組初のギャラクシー賞を受賞したのである。
それ以降の「関ジャム」のストイックな音楽番組っぷりは説明するまでもないだろう。

つまりゲスの極み乙女がゲストでやってきたことは、「関ジャム」という番組にとって、一つの大きなターニングポイントになったことは間違いないわけだ。

そしてもう一つ。この記事のタイトルの意味にようやく近づき始めるのだが、この放送は自分のディレクター人生にとっても一つのエポックメイキング的な出来事になったのである。それは何か?

自分をAD時代から知っている上司に、ある時言われた言葉がある。

「芦田の強みは人の才能を見抜く力だね。そしてその才能を人にはない角度で照らしてあげることができる。」

多分言われた時は、こんなカッコいい言葉で言われてないと思うが、私的思い出なので美化しておく。

そしてその上司は続けてこう言った。

「芦田が川谷絵音さんの打ち合わせ終わりの会議で、目を輝かせて「天才に出会った」と言ってたのを今でも覚えてる。あれはお前が打ち合わせに行ったからこそ生まれた企画かもしれないと思った。相手の才能に気がついて、それを面白い、自分なら面白くできると興奮できないと、あの企画をやろうと強気でプレゼンはできないからね。他のDなら彼の才能や面白さに気がついてなかったかもしれない。気がついてても、無謀に見える即興演奏を提案してなかったかもしれない。」

これは、川谷さん、ゲスの極みとのあの企画を通して、自分のディレクターとしての強み、みたいなものを言語化してもらえた瞬間だった。

その強みは数年後、田中みな実氏に対してベクトルが向き、「あざとくて何が悪いの?」の着想につながった。

その「あざとくて」では、アンジュルムの上國料萌衣さん、山下美月さん、松本まりかさんの独占密着など、多くの女性芸能人の才能照らしに精力を注ぐことにやりがいを感じている。

しかしその視点で振り返ってみると、同じくディレクター人生のターニングポイントとなった「関ジャニの仕分け∞ 高卒認定企画ドキュメント」も、その「強み」を磨きに磨き込んで向き合って、成功できた企画だった。

つまりどうやらコレが、”テレビマンとしての自分の強み”っぽいぞ。

そう客観視できたことは、自分のキャリアにとって重要なターニングポイントになった。自分の強みを知って企画を考えたり、番組を作ることは、自然と番組の個性にも繋がるからだ。そんなキッカケをくれた川谷さんと6年ぶりに仕事ができる。そりゃ勝手に感慨深くエモくもなるでしょ。

しかし、そんな暑苦しい一方的な感謝が詰まったオファーなんてことはつゆ知らずスタジオに登場した川谷さん。

我らが田中みな実&弘中綾香にフルボッコにされながらも、飄々と持論を述べ続ける姿は流石の一言で、あの頃の川谷さんが目の前にいた。

そして、せっかく川谷さんが来るのだからいつもの「あざとくて」では意味がないと思い、事前のアンケートに「川谷さんが思うあざとい歌詞」という関ジャムもどきの質問を入れさせて頂き(関ジャムの総合演出に仁義切りましたので悪しからず…)、「さすが」の視点で面白いネタを提供してくれた川谷さん。そのネタでスタジオも大いに盛り上がった。

と、結局最後は「今日の放送みてください!」なんだよな。

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