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【創作SS】王様になれなかった雀の話

(何で僕はちっぽけでツマラナイ、雀なんかに生まれてきたんだろう。鷹や鷲のように、威風堂々と大空を駆けたかった。鴉や猫に怯えながら、一生を終えるなんてみじめすぎる)
 子どもの頃から、そんなことを考えていたものの、ちっぽけな雀は何をどうして良いかわからないので、ただ眠れない夜を重ねるだけでした。

 ある日、麦畑の近くで遊んでいると案山子の声が聞こえてきました。
「みんなは、笑いたいと思わないのか」
「案山子は案山子、ただ、そこに居るだけさ。笑ったり泣いたりする必要はないね」
 雀は『ピッコーン』と、人間の話を思い出し、案山子に話しました。
「西の果てに、どんな夢でも叶うガンダーラという土地があるらしい。君が「笑いたい」という夢を叶えに行くなら、僕も一緒に行こう。僕は鳥の王様になりたいんだ」
(こいつが一緒なら鳥避けになるし、荷物持ちにもなる。獣が出た時のお囮にしてもいい。適当に利用してやろう)

 雀と案山子は、ひたすら西に向かいました。
 雨にも風にも負けず、夢を追いかけます。
 他の鳥や獣に襲われても、逃げたり隠れたりしながら、ガンダーラを目指します。

 ある村を通り抜けようとした時、村が騒然としていました。
「火事だー」
 雀と案山子は火事の場所に駆けつけました。
 ゴウゴウと火の手が上がり、バキバキと崩れる音が混じります。
 案山子は近くの水桶に飛び込むやいなや、燃え盛る家に飛び込みました。
「お前、藁のくせにー」
雀は呆然として、地面に倒れました。
 
 そして
 ガラドラドガドガーン。
 大きな音を立てて家が崩れてしまいました。
 
「おまたせ、子どもは助けたよ、水をたっぷり含んだ藁は、燃えないんだぜ」
雀の背後から声が聞こえてきました。
 雀は安心して、オンオン泣きだしてしまいました。
「無茶しやがって。死んだら、笑えないんだぜ」
絞り出すようにして、案山子に言いました。
「けど、子どもを見捨てたら、ガンダーラに着いても笑うことができない気がしたんだ」
その言葉を聞いた雀は思いました。
(気高い魂を持つ君と旅ができて良かった。君を利用しようなんて、なんて恥ずかしいことをしていたんだろう。僕は鳥の王様にならなくてもいい。君の夢のために旅を続けたい)

 次の日、火と水で腐食してしまった案山子は土に還りました。
 雀と案山子の旅はここで終わりました。
(旅は、もういい。ここで案山子君の眠る大地を見守ることにしよう)

 しばらくして、案山子たちが旅を終えた場所の近くに、小さな小屋が建ち家族が暮らし始めました。
 村を追われて荒地に来た家族でしたが、不思議なことに、家族が来てから荒地は肥沃な大地に変わり、沢山の麦が採れるようになりました。

 荒地の畑を縄張りにする雀は、麦を食べようとしませんでした。
 麦が採れることを知り畑を荒らしにきた他の雀に、美味しい果物や虫の獲り方、獣から身を守る方法を教えて、畑に手を出さないように説得しました。案山子との旅で学んだ知識が役に立ちました。
 狡い鴉や獰猛な鷹、速い猫や賢い狐には、凛として頑として立ち向かいました。痛い思いも怖い思いもしましたが
(案山子君は僕を獣から護ってくれた。案山子君はゴウゴウと燃える家に飛び込んだ)
 案山子のことを思い出しながら、勇気を奮い起こしました。麦畑を、みんなの笑顔を護るために。

 雀は小さな小屋の片隅に、小さな巣を作り奥さんと子どもと暮らすようになりました。
 雀の子どもたちも麦を食べようとせず、畑を護ろうとする暮らしをしました。

 いくつかの季節が流れた夏、収穫を終えた麦畑で雀は、一人で眠ろうとしていました。
(もう、眠ってもいいよね。ちょっと疲れた、とっても眠いんだ。ここはとても暖かいなぁ。案山子君の懐に潜りこんで寝てた時を思い出すよ。
 僕は案山子君の心と生きて、今、案山子君の懐で眠るのかな。独りじゃないって嬉しいなぁ。王様にはなれなかったけど、悪くない雀生だったよね案山子君)
 大地に抱かれるようにして、雀君は眠りにつきました。

 さらにいくつかの年が流れたある日、小さな小屋の前で、顔に火傷痕が残るお母さんが、小さな娘に言いました。
「うちの麦畑は、鳥の王様が守ってくれるから安心だわ」
 お母さんもにっこり、娘もにっこり笑いました。

 笑顔に溢れる人間と、鳥の王様の家族たちは末永く幸せに暮らしました。

(本文ここまで)

 わかる方にはわかっていただける、わからない方にはわからない、いつもの「自己満足」なお話です。
 先週投稿したこちらの話の「雀視点」となります。

 前作で表現しきれなかったのですが、雀君自身は「鳥の王になれなかった」という設定です。雀君の子孫が「鳥の王」になりました。
 受け継がれる「精神」「心」のようなものを表現したかったですが、難しいですね。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

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