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偕楽園 #シロクマ文芸部

 こちらの企画に参加です。

(以下、本文です)

 梅の花が好きなのに、梅を見ると哀しくなる。
 桜の華やかさより、桃の艶やかさより、梅の淑やかな美しさと香が好きなのに、切なくなる。

 30年前に、当時交際していた女性と水戸偕楽園に梅を観に行き、園内の屋台で販売していた苗を2本購入して帰宅した。
 苗を見た母は予想以上に喜んだ。実が成ることを伝えると更に喜んだ。2本とも畑に植えたところ無事に根付いて、実りを迎えた。
 僕は苗を購入した時に傍にいた女性と結婚するために実家を出た。
 
 少しの時が過ぎて、僕は離婚して一人暮らしを始めた。なんやかんやが有り、子どもたちが離れた土地に転居してしまい、会うことがなくなり、僕は女性とのお付き合いを始めた。
 その女性とも偕楽園に梅を観に行ったけど、苗を売る屋台は無く、何も買わずに帰宅した。
 新しい梅を期待していた母は残念がった。
 その女性とは、一緒に暮らすことがないままに、生きる道が離れた。
 その年、子どもたちに会いに行き、太宰府天満宮で、飛び梅を観て、梅ケ枝餅を食べた。
 その後、誰とも交際をしていない。僕の春は終わりを迎えていた。

 大きな地震の影響で、実家を取り壊することになり、別な土地に父母と暮らす家を建てた。
 実家の梅の木は野生に取り込まれて姿を消した。

 更に時が過ぎ、ふと思い立ち、1人で偕楽園に向かったのは去年のこと。

 園の梅の木たちは、変わらぬ美しさを魅せてくれた。

 隣の神社の屋台で、梅の苗を購入して帰宅した。屋台の親爺は
「咲くまで2〜3年かかるけど、楽しみに待ちなよ」
と教えてくれたので、母にそのまま伝えた。
 ところが、その年のうちに花が咲いた。

 母は、予想以上に喜んだ。 

  6月には可愛い実も付けた。母は喜んだが、何にも使えない実は、土に還した。

 同じ月、母は天に還った。

 今年も、また、梅の花が咲く季節を迎えようとしている。
 僕には、母も無く、妻も、子も無い。
 庭の梅の花は、まだ咲いていない。

 花が咲かなくても、実が成らなくても、共に観る者がいなくても、僕は生きていく。
 庭の梅の木を、来年も再来年も、観ることを続けながら生きていく。
 何かを書き続けながら生きていきたい。
 花が咲かなくても、実が成らなくても、書き続けながら生きていきたい。 

 母は喜んで、観てくれているだろうか。
 子どもたちは、いつか作品を読んでくれるだろうか。
 なんてことは片隅でいい。
『好きなことを 好きなときに 好きなように』
死ぬまで、あがき続ける。
(終わり)
#何を書いても最後は宣伝
福島太郎の世界は、こちらからです。


 


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