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【創作】妖精綺譚 平成2年秋の話

 拙著「銀山町 妖精綺譚」の外伝です。本編をお読みいただかないと、『まるで意味がわかんない』
という、不親切な作品になります。 御理解の上、お読みください。本編はこちらです。

(以下 本文です)
 軽くノックをしてから、総務課長の木村は町長室に入室した。係長の宗像を同席させず、自分一人が呼ばれたということは、進捗が遅れている事業の話で、重たい内容と予想できたため、体は緊張で強張っていた。
「木村課長、忙しいところお呼びだてして、申し訳ない。呼ばれた理由は予想していると思うが、一年先送りにした『ふるさと創生事業』のことだ」
木村は深々と頭を下げ、町長に謝罪した。
「は、申し訳ございません。当町に相応しい事業を実施すべく慎重に検討を進めてまいりましたが、事業化に至らず汗顔の至りでございます」
「まぁ、木村課長を責めるつもりはない、ただ、町民の皆さんからも、他町村の首長からも、『銀山町さんは、どのような事業を』と聞かれた際に、説明責任が果たせないというのは、なかなか苦しいものがある。次の町長選にも悪影響を及ぼしている。私の心中は察してくれているよな」
「もちろんでございます、宗像係長にも企画立案を急ぐよう指示いたします」
 町長は黙した。木村の背中を冷たい汗が流れ落ちた。
「宗像係長のことは信頼しているが、私も君たちに『丸投げ』したことを反省している。全てゼロから始めるのでは大変だろう」
「御心配をおかけし、申し訳ありません」
「そこで、まぁ、言うとおりにしろ、という訳ではないが、アイディアというか、話題提供をしたいと思っている。我が銀山町の、水、森、山林等の美しい自然は「妖精」が住むに相応しい場所だと思わないか。そこで、例えばだが「妖精の住むふるさと」というコンセプトでの町おこし、観光をベースとした産業振興ということについて、どう思う。忌憚のない意見を聞かせて欲しい」
「流石、町長でございます。確かに我々にとりましては、身近過ぎて当たり前の景色ですが、我が町の自然は、妖精が住むのに相応しい、素晴らしい財産であると気づかされました」
「いや、何、私も、先日、英国人講師と話をしていて、あらためて気づかされたところだ。やはり、中にいる者と、ヨソモノでは視点が違い、面白い発見があるな」
「全くもって、仰るとおりでございます」
「そこで、もう一つ、話題を提供したい」
木村は恭しく頭を下げた。
「来年度は、職員を採用しないという計画と聞いているが、『ふるさと創生』を担当させるために、正職員を一名採用してはどうだ。町の活性化には『ヨソモノ ワカモノ バカモノ』が必要と言われている」
木村は表情を曇らせた。
「お言葉ですが、今の時期は、ほとんど者が内定を確定させていますので、町職員に応募するものは期待できないかと」
福島県の西端にある、小さな自治体は就職先として非常に人気が無い。募集をかけてもロクな人材が応募してこない。毎年、採用計画に難儀しているところであり、木村としても安易に頷くことはできなかった。
「まぁ、これは、採用しろとかいうことではない、余計な忖度は無用だと言うことを最初に確認しておく。先日、郡山市の田中青果の社長と話をしたところ、息子さんの内定が決まらずにいるらしい。田中社長としては自社で採用するよりも、自治体などで武者修行をさせたい意向だそうだ。
 また、我が町の赤かぼちゃなどの地野菜に非常に興味を示され、取引量の拡大も検討してくださるらしい。まぁ、これは、ただの世間話なので、特に気にする必要はない。
 話を戻すが、『ふるさと創生』の実現に向けて、職員採用を検討してはどうだ」
 木村は恭しく頭を下げながら考えた。
(はいはい、採用試験をやりますよ。宗像係長は嫌な顔をするだろうが、そもそも「ふるさと創生」をうまく捌けない宗像係長の責任でもあるからな、責任払いだな。
 とはいえ、役所の内向きな業務はともかく、「町おこし」のような仕事を宗像係長に担当させるのは無理があったか。新規採用職員を企画課に配置することにして、仕事ごと押しつけるようにすれば、宗像係長も納得するかな。飯田企画課長には「町長指示」ということで、こちらの意向を飲ませることにしよう)
「町長、大変貴重な御助言をいただき感謝いたします。『妖精の住むふるさと事業』、『職員採用』について、すぐに対応させていただきます。なお、御助言いただきました内容を推進するため、事業の所管や人員体制につきまして内部で調整させていただいて、よろしいでしょうか」
木村は晴れ晴れとした表情で応えた。
「細かいことは任せる、よろしく頼む。では、下がってよい」
(はい、『任せる』とのお言葉、いただきました)
 一礼し、下を向いた木村の表情は、時代劇に登場する悪代官そのものだった。
(おしまい)

 本日、郡山駅から東京駅に向かう新幹線の中で、お遊びで、一気に書き上げた外伝です。適当で、いい加減なところはお赦しください。
 間もなく、上野駅に到着です。
(追記)
 東京駅から京都駅に向かうため、東海道新幹線に乗り換えました。緑の窓口がめっちゃ混んでいました。
 本編で「木村総務課長」の名前だけは登場しているのですが、出番が無いのが可哀そうなため、まず、この話を書きました。
 個人的には「渡部」の外伝も書きたいです。本編では「ちょっと嫌な奴」としか描きませんでしたが、「半沢にはペコペコ」で「筋トレマニア」で「高齢者にはとても優しい」、ちょっと面白い男なのです。
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