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問題は1%の富裕層ではない、中産階級(エリート)なのだ

エマニュエル・トッドの『問題は英国ではない、EUなのだ』を読んだのですが、この本の中でのエリート批判が痛烈で興味深かったのでメモ。

BREXITとトランプ大統領誕生を予期していただろうトッド氏の問題意識の中心のひとつが、この本で指摘されているエリートのナルシスト化。注意すべき点は、ここで言う"エリート"とは"1%の富裕層"のような狭い話ではなく、高等教育を受けた中産階級全体、ざっくり言えば社会の所得・教育水準で上位50%くらいをイメージして広く捉えておいた方が正しい。

まず、本書は2016年9月刊行なのでトランプ大統領については直接的に言及していないが、BREXITについては以下のように述べている

英国EU離脱に象徴される大衆の抵抗を「ポピュリズム」という表現で説明しようとする向きもありますが、私はむしろ「エリートの無責任さ」こそが問題を理解するキーワードだと考えています。

その背景として起こっていることとして、「エリートのナルシスト化」と中産階級の無責任を指摘する。

今日、高等教育を受けた層は、社会のごく一部にすぎなかったかつて知識層とは違って、一定の量的規模をもって一つの大きな階層をなしています。その彼らは自らのうちに閉じこもり、自分たちの階層のなかだけで通用する議論をし、ポピュリズム批判という形で、自分と大衆を隔絶しようとしています。いわば「プチ・ブル」化しているのです。小説も、映画も、その傾向を見せています。社会全体への関心を失い、自分の階層の関心ばかりをテーマにしている。高等教育を受けた層の全体がナルシスト化しているのです。
「一%の支配」という超富裕層とそれ以外の格差の問題は、確かに存在します。まったく不公正な格差です。しかし、このことを指摘したからといって、「西洋先進社会は閉塞状況に陥っているのに、なぜみずから方向を変えられないのか?」という問題の説明にはならないのです。この問題を解くには中産階級の分析が不可欠です。つまり、一%の超富裕層の存在を許し、庶民層の生活水準の定価を放置しているのは、中産階級だからです。

これはトランプ大統領誕生時に自分のFacebookを流れた悲鳴(多くは超リベラルなアーティストか海外一流大学卒のスーパーエリート)を眺めていたときの違和感に通じるので、自分にとっても切実な課題だと考えている。

アフリカやら途上国の恵まれない他人に手を差し伸べられるのに、身の回りにいる低学歴で貧しい自国民を"努力しないのが悪い"と突き放してしまう姿勢こそがグローバルエリート達の課題だと思う。

幸い、シリコンバレーの猛者たちは賢く意識も高いので、すでにその問題に気づきはじめていることが最近の"ベーシックインカム"に関する議論につながっているのだろう。

一方で、日本では電通問題を機に残業規制などを通じて労働者/会社員を守ろうという動きがあるが、そういう付け焼き刃な話に終始していることに心底がっかりする。こうしたことの繰り返しが日本の生産性を下げ続けてきたのだが、それを嘆いている自分の姿勢こそがトッドの指摘する無責任であり、自分たちが世を動かして"変えていく"意識を持たねばらならいのだ、と自戒する。



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