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Royal Ascotの思い出(2011年 初日)

 2010年から2011年にかけて私は欧州に滞在していました。滞在中は暇を見つけて欧州各地の競馬場を訪ねまわっていたのですが、やはり今から振り返っても当時の欧州競馬はキラ星のような名馬の時代で、その中でも一番の輝きを放っていたのがフランケル(Frankel)でした。競馬を見続けてきた、私の最大の幸運の一つはフランケルが歴史的名馬に上り詰めていく様を現場で見ることができたことです。

 さて、そのフランケルのレースに一緒に出走した日本馬がいることはご存知ですか? その馬の名前はグランプリボスです。サクラバクシンオーの仔で、朝日杯とNHKマイルカップの両方を初めて勝った日本の3歳マイル王がRoyal Ascotに挑戦してきたのです。初日のメインカード、St. James's Palace Stakesはヨーロッパの3歳マイル王の決定戦。 鞍上はミルコ・デムーロ。この年はヴィクトワールピサでドバイワールドカップを制する一方で、母国イタリアの競馬が賞金が出ないといった騒ぎになり、欧州で何とか進出を図っていた時期だったと思います。パドックでフランキー・デットーリがしきりとイタリア語でデムーロに話しかけていたのを記憶しています。

 イギリスでブックメーカーから馬券を買うときは単勝か、Each Way(単勝+複勝、JRAの「応援馬券」)のどちらかが基本なので、当然、日本人の私はフランケルではなく、グランプリボスのEach Wayを買ったのです。まあ、今から思えばサクラバクシンオーの子供がアスコットのマイルを耐えきるスタミナを持っているというのはなかなか厳しいのですが。レースはご存知の通り、フランケルの勝利。ただ、明らかに早めにスパートするもゴール前100メートルで明らかに失速したフランケルが最後は3/4馬身まで詰め寄られて、トム・クウィリー騎手の騎乗が激しく批判されたのを記憶しています。

 ロイヤルアスコットの初日は、例年、St. James's Palace Stakesだけでなく、ほかにもG1レースが合わせて3つ組まれる豪華版。この日のオープニングレースはQueen Anne Stakes。このレースは古馬のマイル王決定戦だったのですが、前年の覇者にしてBCマイル3連覇を含むGⅠ13勝の女王ゴルディコヴァ(Goldikova)と、前年のSt. James Palace Stakesを含むマイルGⅠ4連勝中のキャンフォードクリフス(Canford Cliffs)の直接対決だったわけです。ゴルディコヴァはシーズン初戦仏GⅠイスパーン賞を勝って、対するキャンフォードクリフスも英GⅠロッキンジSを勝って、お互いに万全の体制でここに来ました。

 レース前半は前年の愛ダービー馬ケープブランコ(Cape Blanco)が逃げるも、ラスト2ハロンでゴルディコヴァとキャンフォードクリフスの2頭が激しく叩きあいとなり、最後はキャンフォードクリフスが制して、GⅠ5連勝を達成するのです。

 そして3歳マイル王フランケルと古馬マイル王キャンフォードクリフスが次に相まみえるのは7月のGlorious Goodwood開催のSussex Stakesになるかということで、一気に盛り上がりを見せることになります。そしてこの対決は実現することになり、Duel on the Downsと呼ばれることになります。

 もちろん、今であればこの結果は当然みんなご存じで、フランケル14戦14勝の通過点ともされるSussex Stakesなのですが、Royal Ascotが終わった時点では無敵のマイル女王から王座を奪還したキャンフォードクリフスに対して、フランケルはずば抜けたスピードを持つことはわかるがそもそも折り合いが不安といった感じで、決してフランケル絶対のムードではなかったんですね。また7月になったらそのDuel on the Downsの思い出も書こうと思います。

 

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