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食としてのビタミンA スキンケアとしてのビタミンA~腸活ラボマガジンVol.11~

はじめに

こんにちは、やまだです。さて、ビタミンAについて食品から摂取し、皮膚や粘膜、視覚の恒常性を維持する分子としての顔と、主にレチノールという名称で認識されている美肌効果をもつ成分としての顔の二面で有名になりつつあります。今回は、主に後者に関して臨床試験なども踏まえつつ解説していきたいと思います。


食としてのビタミンA

ビタミンA(レチノール)は、脂溶性ビタミンの一つです。主に動物性食品に含まれていて、体内では、レチノール、レチナール、レチノイン酸の3種類の形態で存在します。
ビタミンAは、目の正常な機能維持、皮膚や粘膜の機能維持、細胞の成長や分化に寄与しているので、不足すると、夜盲症や皮膚・粘膜の乾燥、成長障害、胎児奇形などが起こりえます。とはいえ、現代日本では、よほどの偏食をしない限り、ビタミンA不足になることはありませんが、発展途上国ではビタミンA不足で多くの子供たちが失明していることも事実です。
また、レチノールとして摂取する以外にビタミンAの前駆体プロビタミンAとして摂取することも可能です。プロビタミンAは小腸でビタミンAに変換されます。代表例としては、緑黄色野菜に含まれるカロテノイドがあります。プロビタミンAカロテノイドが約50種あり、β-カロテンが有名です。β-カロテンも抗酸化作用をもつのでアンチエイジングとしての効果も期待できます。これらも脂溶性のため、炒め料理などが適しています。
ビタミンAは、脂溶性のため、過剰摂取によって体内に蓄積されるので、短期間による症状としては、吐き気、めまい、頭痛、目のかすみなどが起こります。長期間では、中枢神経系への影響、肝臓の異常などが起こります。
一方で、プロビタミンAとして摂取した場合は、必要量だけビタミンAに変換されて、残りは、脂肪組織に蓄えられるか、排泄されるかなので比較的過剰症が起こりづらいです。

ビタミンAを多く含む食材
ビタミンAは、鶏や豚レバー、うなぎ、いか、まぐろ、鶏卵などの動物性食品に多く、プロビタミンAはにんじん、ホウレンソウ、かぼちゃ、小松菜、すいかにら、みかん、のりなど植物性食品に多いです。

レチノールの皮膚への影響

さて、以降では、レチノールの皮膚に対する影響を見ていきたいと思います。その前に、レチノールは、皮膚の抗老化に寄与するわけですが、そもそも皮膚の老化とは何かについてみていきましょう。

皮膚の老化とは?

皮膚は、太陽紫外線(UV)への曝露、物理的および化学的損傷、病原体による感染、水分損失の防止など、さまざまな環境の脅威に対する主要な防御バリアとして重要な役割を果たしています。人間の皮膚は、表皮と呼ばれる外層と、真皮として知られる下層の2つの層で構成されています。表皮は主にケラチノサイトで構成されており、ケラチンを生成し、皮膚の外側の保護層である角質層を形成します。一方で真皮は細胞数が少なく、主に細胞外マトリックス (ECM) を構成するコラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、プロテオグリカンなどのタンパク質で構成されています。皮膚の乾燥重量の約 90% を占めるコラーゲンは、主要なタンパク質です。

コラーゲンが皮膚老化のカギ https://president.jp/articles/-/27177?page=2

他の臓器と同様に皮膚も老化のプロセスをたどりますが、常に太陽光からの紫外線のダメージを受ける、病原菌などにさらされるなど環境のストレスが大きいです。
皮膚の老化は、内因性と外因性の原因によって引き起こされます。内因性の要因としては、DNAのダメージや炎症作用の蓄積、細胞老化などがあります。外因性の要因として紫外線による光老化がありますが、生成された活性酸素種の影響によって最も老化が加速する要因として特定されています。内因性老化と外因性老化はどちらも、根底にあるメカニズムは異なりますが、どちらもコラーゲン生成の減少とコラーゲン分解の増加に関連しています。

表皮の老化

加齢に伴う表皮の薄化が皮膚機能に大きな影響を与えるという考えは、複数の証拠によって強く裏付けられています。この薄化により、環境変化に対する保護バリアとして機能し、水分を保持する皮膚の能力が著しく損なわれ、その結果、水分損失が増加します。
表皮の老化の主な原因は、主に毛包間表皮 (IFE) 幹細胞の枯渇に関連するケラチノサイトの増殖と代謝回転の減少に遡ることができます。しかし、表皮の老化の原因となるメカニズムはまだわかっていないことも多いです。わかっていることの一つとして、COL17A1という遺伝子の発現が低下することが挙げられます。これは、皮膚幹細胞の恒常性維持における役割で着目されていますが、COL17A1の欠損により、ケラチノサイトの再生速度が低下し、皮膚の老化の主要な形態的特徴を構成する表皮層が薄くなります(ref1)。
 

真皮の老化

表皮に加えて、真皮層も老化により薄くなりますが、これは主に皮膚の主要な構造タンパク質として機能するコラーゲンの損失が原因です。これに至るメカニズムとしては、以下の3つが挙げられます。
(1) マトリックスメタロプロテイナーゼ (MMP) の作用によるコラーゲン線維の破壊
(2) TGF-βシグナル伝達障害によるコラーゲン産生の減少
(3) 炎症性微小環境の存在。
(1)についですが、ヒトにはもともと細胞外マトリックス(ECM)を分解するMMPというものがいろいろと存在しています(ref2)。その一つ、コラゲナーゼ 1 としても知られる MMP1 は、主に真皮線維芽細胞によって合成され、コラーゲン原線維の分解を開始する重要な酵素として機能します(ref3)。若い皮膚では、MMP1レベルは最小限です。しかし、老化した皮膚真皮の大幅な増加が見られます。MMP1と同様に他のいくつかの MMP も老化した真皮で発現レベルが上昇します(ref4)。MMP を介したコラーゲンが豊富なECMの断片化は、真皮の構造の不可逆的な破壊を引き起こします。
(2)についてですが、コラーゲンの合成減少は、加齢に伴う皮膚の真皮の薄化をもたらす重要な因子です。サイトカインのひとつトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)は、細胞の増殖や分化など様々な細胞活動を制御し、コラーゲンやエラスチンなどのECM成分を制御します(ref5)。加齢したヒトの皮膚では、真皮線維芽細胞内のTGF-βⅡ型方受容体(TβRⅡ)の発現が減少し、TGF-βシグナルの障害が起きます。このTGF-βシグナリングの障害は、コラーゲン産生を阻害することで、皮膚の老化過程に大きな影響を与える可能性があります。TGF-βシグナルが低下すると、MMPの活性が上昇し、コラーゲンやその他のECMタンパク質が分解されます。つまり、TGF-βシグナリングの障害は、 肌の弾力性、ハリ、弾力性の低下につながります。
(3)についてですが、近年、炎症+老化(inflammation+aging)という意味のインフラマージング(inflammaging)という言葉があります(ref6)。
これは、加齢につれて強まる持続的な低炎症状態を指します。この炎症状態は体内のさまざまな組織や臓器に影響を与え、しばしば全身性の状態として現れます。インフラマージングがある高齢者では、インターロイキン-6(IL-6)、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)、C反応性蛋白(CRP)などの炎症性マーカーの上昇が頻繁に見られます。また、これらの上昇は、皮膚でも見られます。インフラマージングは、炎症を促進し、コラーゲンを分解し、皮膚でのコラーゲンの産生を抑制することで、皮膚の老化を加速します。具体的には、皮膚のバリア機能を低下させるので、水分喪失や外部からのストレスに脆弱になります
 また、補足的に老化に伴い、オートファジー機能の低下も起こります。オートファジーは、損傷した細胞小器官やタンパク質凝集体を除去することによって恒常性を維持したり、リソソームを介して細胞質成分をリサイクルしたりする重要な細胞プロセスで、皮膚恒常性維持にも大切です(ref7)。実際、皮膚幹細胞、メラノサイト、メルケル細胞、汗腺分泌細胞はすべて、恒常性を維持するためにオートファジーに依存しています(ref8)。そのため、オートファジーの減少は、損傷したコラーゲンとエラスチンの蓄積につながり、皮膚のたるみやシワの発生に寄与する可能性があります。
また、オートファジーは、皮膚細胞、特に表皮の最外層に位置する細胞の再生を制御することで、表皮保護バリアの完全性を維持する役割も果たします(ref9)。加齢に伴うオートファジー活性の低下は、皮膚バリアの弱体化につながり、皮膚が環境ストレス要因の影響を受けやすくなり、水分の損失が大きくなる可能性があります。

レチノールの老化防止の分子メカニズム

皮膚のアンチエイジングのために、光老化に対する対策として、日焼け止めの使用やレチノイドと抗酸化物質の組み合わせがよく用いられています。
レチノイドは、レチノール(ビタミンA)の天然および合成誘導体の両方があり、局所塗布製剤の効果は、
(1)表皮の厚さと真皮の血管分布の増加
(2)コラーゲン産生増加によるECM環境改善
(3)色素沈着改善
があります。
(1)についですが、高齢者の皮膚にレチノールを塗布すると、表皮ケラチノサイトの増殖が刺激され、表皮の厚さが大幅に増加することがわかっています(ref10)。さらに、表皮の厚さの改善に加えて、真皮乳頭層の内皮細胞と血管の増殖の顕著な増加も示されています。これは、ケラチノサイトの増殖に重要な転写因子AP-1の複合体のうちc-Jun(もうひとつはc-Fos)の発現が表皮特異的に大幅に増加し、表皮の厚さが大幅に増加したと考えられます。
(2)についですが、レチノールは、ECM 産生の主な調節因子である TGF-β/Smad 経路の活性化を通じてコラーゲン性 ECMを作り出し、皮膚の主要な構造タンパク質である I 型コラーゲンの発現を増加させることがわかっています。また、レチノイン酸は、GF-β/CTGF 経路を阻害し、MMP の誘導を刺激することにより、コラーゲン恒常性の負の制御因子であるCCNの遺伝子発現を減少させることで老化を阻害します(ref11)。
(3)についてですが、レチノイン酸は、メラニン生成とメラニン分布に影響を与えます。具体的には、レチノイン酸は、メラニン合成における重要な酵素であるチロシナーゼの活性を下方制御し、メラニンの生成とケラチノサイトへの移行を減少させ、皮膚細胞の代謝回転を促進することで色素細胞の剥離を促進し、その下の新鮮な色素沈着の少ない皮膚を露出させます(ref12)。また、レチノイン酸には抗炎症性があり、炎症後の色素沈着過剰を予防します。


レチノールの活性と耐性

これまでに様々なレチノールファミリー(レチノイド)が開発されています。第2世代~第4世代は日本では、老化防止向けとして利用されていないので今回は割愛します。

レチノール誘導体の代謝は以下のようになります。
レチニルエステルは加水分解されてレチノールになります。その結果、レチノールは、2 段階の酸化プロセスでデヒドロゲナーゼによりレチンアルデヒドを介して生物学的に活性なレチノイン酸 (トレチノイン) に変換されます。
この中で代表的なものの活性が強い順に並べると、
レチニルエステル << レチノール < レチンアルデヒド < レチノイン酸
となる一方で、耐性の順位は逆転し、
レチニルエステル > レチノール = レチンアルデヒド >> レチノイン酸
となります。

図1 レチノイドの活性と耐性

以下で、第1世代の中から、代表的な化合物の活性と臨床研究を見ていきたいと思います。

レチノイン酸(トレチノイン)

オールトランスレチノイン酸は、老化防止治療に使用される臨床的に効果的な局所レチノイドのゴールドスタンダードと考えられています。トレチノインは、老化防止特性に関して最も強力で最もよく研究されています。
使用濃度は 0.01% ~ 0.1%、最も一般的に使用されるのは 0.025%、0.05%、または 0.1%。
レチノイド皮膚炎反応を回避するには、低濃度の有効成分で治療を開始し、保湿剤を使用して皮膚の潤いを保つことで徐々に許容レベルまで濃度を高めることが推奨されます
日本では、一部の美容クリニックで処方されています。
臨床研究1:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16060712/
合計 204 人の被験者を、0.05%トレチノインまたはプラセボ (ビヒクル皮膚軟化クリーム) を顔全体に 1 日 1 回、最長 2 年間塗布して治療。トレチノインによる治療は、光損傷の臨床徴候(細かいしわ、まだらの色素沈着過剰、黒子、黄ばみ)、全体的な光損傷の重症度、および治験責任医師による臨床反応の全体的評価において、プラセボと比較して有意に大きな改善をもたらしました。
臨床研究2:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9270507/
トレチノイン皮膚軟化クリーム0.05%(n = 149)または0.01%(n = 149)の1日1回の48週間使用。0.05% および 0.01% のどちらの濃度でも、48 週間の治療期間中の光損傷皮膚の治療において安全かつ効果的でした。
臨床研究3:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7544967/
99 人の光老化患者が、0.1% トレチノイン クリーム (n = 32)、0.025% トレチノイン (n = 35)、またはビヒクル (n = 32) を 1 日 1 回二重盲検法で使用する 48 週間の研究。48 週間後、0.1% および 0.025% トレチノインは、ビヒクルと比較して同様の統計的に有意な表皮肥厚 (それぞれ 30% および 28%)をもたらし、ビヒクルと比較して血管分布の増加 (それぞれ 100% および 89%) をもたらしました。

レチノール

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