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エンタメに向けられる「楽して稼ぎやがって」問題

たまーにエンタメ業界の人達がどれくらい儲けているか公開されてると、ほぼ必ず「いいよなぁ楽して稼げて」という意見がタケノコみたいにひょっこり飛び出してくる。

どこか諦観を持ったようなものから、確実に嫉妬や悪意を持った「楽して稼ぐとかけしからん」を繰り出す人まで様々だ。

※ここでいう「エンタメ業界の人達」というのはミュージシャンやイラストレーターなどの表現者というニュアンスで受け取って欲しい。

発信者の意図

羨ましい、ずるい

この「楽して稼げていいなぁ」という思いはどこから来るのか、根っこにあるのは「羨ましい」とそこから派生した「ずるい」だと思っている。

当然のことながら「楽して稼ぐ」事が出来れば皆そうしたい。不労所得があればそれがいい。
でも大抵の場合そうはいかない。
「あぁ宝くじ当たんねぇかなぁ」なんて、宝くじを買ってすらいないのに妄想をする。

そんな日々を送る人がいるなかで、ポンとテレビやネット記事に現れるエンタメ業界の人達。
キラキラしたトーンで、音楽、映像問わず様々な作品を提供してくれる。

世の中に認知され、売り上げが伸びればそれだけ儲けは多くなり。労働時間が同じだったとしてもサラリーマンの数倍は稼ぐ人が出てくる。

たしかに「ずるい」と思うだろう。「俺はこれだけ苦労してやっと稼いでるのになんでお前だけ……」なんて呪詛を吐きながらストロングゼロの500ml缶を飲みたくなる気持ちは分かる。

こればっかりは否定、あるいは根絶できない「そういうもの」であるため、ここではあまり深く考えずに「楽して稼ぎやがってとかいうのは『ずるい』という思いが強いと思うんだ」という個人的見解を述べるだけにしておく。

けしからん

「けしからん」という声もある。娯楽で稼ぐ、つまりは遊びを仕事にしているんだろう?けしからんというようなニュアンスだ。
近年ではeスポーツに対する意見としてよく見かける気がする。ゲームは遊びだろ?と。
お金は汗水流して稼ぐもの、遊びは遊びだ、と。
少し世代が上の諸先輩方に多く見られる感覚だと思う。

日本の最繁栄期を築き上げてきた(あるいはその姿を観測していた)諸先輩方からしたら、まぁどこか忌避感を覚えるのは理解できる。
私は他者の権利を著しく害したり、ルール、道徳に反した方法でなければ基本的に稼ぐ方法はなんでもいいとは思うのだが、彼らからしたらまさにこれこそが「道徳に反する」事だという認識なのだろうか

そもそも不要不急

おそらく大衆の中に秘められていたものがコロナ禍においてより大きい主張となったものがある。
「エンタメ業界は後回しにしろ」という論調だ。

新型コロナの感染拡大にともない、様々なイベントは興行を延期あるいは中止の決断をせざるを得なくなった。
業界の収益は激減、ライブハウスは大小問わずバタバタと潰れていった。他の業態においてもそう。
しかし現場の窮状を訴えるその声にしばしば向けられたのは「エンタメは不要不急である」という声だった。

少し極論じみたものではあるが「エンタメはなくても生きていける」「そんな不安定な業界に身を置いた自業自得ではないか」そういった声がしばしば見られた。
今はそれどころではない、大事なものは他にある、と。

白黒で語ることの出来ない問題であるにもかかわらず、この意見を述べる人達は生命維持に直接必要ないものであれば後回しという非常にシンプルな意見をお持ちのようだった。

「ずるい」とはまた違った感情で向けられるエンタメ業界への視線があった。

余談だが、私が師事するベーシストの師匠に話を聞いたのだが、ミュージシャンの現場は当時悲惨なものだったようで、ここでは書くのが少し憚られる状態だった。
師匠自身も「正直なところ今生きてるのが不思議」と述べるくらいには

やはり当時の業界の扱いはそんなものだったのだ。
まぁ非常事態だったしそもそも国難とも言える状態だったのだから、と言われればそれまでだが。

表現者に向ける「楽して稼ぎやがって」

「ずるい」や「けしからん」や「他に大事なものがあるのに」というドロドロとした黒い感情が渦巻いた結果、うっかりTwitterに吐き出した恨み言はきっと表現者の目にも留まるだろう。

あまりいい気分がしないのはもちろん、傷つくことも当然あるはず。
その発言には結構純度の高い悪意が含まれているから。

もしも自分が売れっ子の表現者となって「楽して稼ぎやがって」なんて言われたら、と考える。
とにかく少しでも引っかかりそうなツイートを漁り、全てに発信者情報開示請求を行って裁判沙汰にするだろう。
示談にするとしても限界まで金額を引き上げるか、できるだけ長期化させてひたすら手間取らせるだろう。
相手から100万円貰うために100万円つぎ込んでもいい。

きっとこれくらいはするか、したくなる。
それくらいにこの言葉はキツい。


ただ、傷つけられてしんどい、なんてそんなことも思うが
「いや褒め言葉にもなり得るのでは??」
と思う節もある。
前置きが長かったが私が一番言いたいのはこれだ。

というのも前提として、一部特異な例を除き一般大衆は自分に刺さる楽しいものを見たがる。
どこか心が安らいだり、逆に奮い立たせるような表現を好むはずだ。

そしてそこにはなるべくノイズが少ない方がいい。どれだけ良い作品でも、気が散る要素があれば純粋に作品を楽しむことはできなくなる。

そのようなこともあってか表現者はとにかく「裏側」を隠しながら表現活動をする事が多い。
例えばミュージシャンが、血反吐を吐きながら努力を重ね、泣きながら製作をし、やっとの思いで発表した作品をニコニコしながらライブで発表をすることがあるとする。
制作に苦労した話はしても、生々しいこの「裏側」の話はきっとしないだろう。ノイズになるからだ。

ノイズになるような、そういった話はよく聞く。
鬱病や双極性障害を抱えながらも表舞台ではそのような素振りを見せないように努めている人。
余暇をなくし、友人を失うほどあり得ない時間を練習に費やす人。
様々いるが、どの人も思いは変わらず、良い作品を届けようという一心だと思う。

想像するまでもないが、先述のようなそんな活動は「楽して」できるものではないし、とても「遊び」として消化できるものでもない。人によってはサラリーマンとして働くよりもずっと辛い日々を送ることがあるだろう。

それでも一部のバカ方々に「楽して稼ぎやがって」という印象を持たせたということは、つまりは隠すことに成功しているということなのではないか。
良い作品を、良い状態で鑑賞してもらうために、その「裏側」をひた隠しにすることに成功しているのだぞ、ということを「楽して稼ぎやがって」という言葉が証明しているように見える。
エンタメは「楽して(遊んで)稼いでる」のではなく「楽して(遊んで)稼いでるように見せてる」という側面が強いのだと感じている。

先述の言葉達はエンタメ業界の人達を傷つけやすい言葉だというのは重々承知している。
ただ、ことエンタメにおいては、正しく良い形でエンタメを提供できている証拠にもなり得ると思うので、心ない言葉を投げたその人に対しては「それ、狙ってやってるんで、あざっす」とでも言えばいいのかな、と考えている。

傷つくことは避けられないけれど、その反面、自分たちの行動が間違っていなかったんだなぁという解釈も出来るはずなので、エンタメ業界の人達はめげずに頑張って欲しい。
そして心ない言葉を向けた下卑た誹謗中傷を繰り返す輩アンチの方々はクシャミのついでにぎっくり腰にでもなればいい。


以上

そんなことを常々考えている。

正直なところ本当に遊びのような感覚でエンタメしてる人もいるし、逆に「裏側」をさらけ出して作品にしてる人もいるため、「褒め言葉じゃない?」は解釈の一つでしかない。
それにちゃんと稼いで飯食ってる人なんてそもそも一握りだし……。
各見出しの内容を含め、このあたりをもっとつらつら書きたい気もするがこれ以上散らかった文章にしないためにもこの辺で終わらせる。

そしてまだ個人的な結論までたどり着けていない話なので、別記事を書いてみたり、追記修正をするかもしれない。
しばらくしたら内容が変わっているかもしれないので、気が向いたらまた覗いてくれたら嬉しい。

そんな感じでこの記事はいったんおしまい。
ありがとうございました。

こんな感じでつらつらと書いていきます。 どれも投げ銭制の記事なのでなるほどと思っていただければ購入したりサポートしていただけると幸いです。 サポートしていただいた分は書籍などのインプット代として使わせていただきます。