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#19 編集島

今、映画の編集はすべて、ロボットが行っている。
青春ものや、アクションもの、家族ものや、ホラーなど、ジャンルわけされたボタンがあり、撮った映像素材を、ロボットの口の中へ放りこみ、ボタンをポンと押すだけで、最適な編集が、自動的にできてしまうのである。映画編集は、だいたい2,3時間あれば、できてしまうのである。この編集ロボットは、当初、人間の編集技師たちの間で、反対運動が起こり、数々のロボットが、編集技師たちの手により、爆破されてきたのだが、ロボットを作る博士も、そこは負けじと、新しいタイプのロボを作り出し、編集だけでなく、ミサイルが発射できるものなどが開発され、もはや編集技師たちの武力行使は、力及ばず、彼らは、逃げるように、孤島に編集技師だけの夢の島を築いた。その島は、編集島といい、たくさんの編集技師たちが、今も編集機器を持ち込み、リモートワークによって、やはり人間の編集が一番と信じて疑わない監督たちの仕事を、法をすり抜け、作業し続けているのである。

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映画「子供はわかってあげない」もまた、編集島に住む、片目のない黒装束の男により、編集された。彼は家族を編集ロボに殺された悲しい過去を背負っており、編集ロボを忌み嫌っていたのである。かかった時間は、およそ2年半。黒装束の男は、そもそも言葉が話せず、ジェスチャーでの作業となったため、それだけの時間が必要だった。途中、日本の秘密警察に作業を見つかりそうになり、怖い思いもしたし、島の洞穴に潜伏するなどして、編集作業は難航した。今は、パソコンがあるから、洞穴でも編集はできるのだ。時には、野生動物たちの襲撃に会い、鹿やトナカイの肉を食べながら、それでも編集は続いた。国からは、「ロボを使え」、とのお達しがあったが、私たちは無視した。映画「子供はわかってあげない」は、そんなに簡単な映画ではないはずだ。私たちは、その理想を捨てず、熱意を持ち、法の外で、ただひたすらその完成を待っていたのである。

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その間、編集島は、独自の文化発展を遂げ、島の中でも、パチンコ屋やキャバレー、風俗街などができはじめ、そして、編集技師たちだけが住むことのできる団地や、編集島で生まれる子供たちもできはじめた。やがて、編集島に学校ができはじめ、子供たちは、幼少の頃より、映画の編集を叩き込まれた。その子供たちは、俗に、「エディットチルドレン」と呼ばれ、天才児たちの編集集団ができていくのである。エディットチルドレンの存在を恐れた国は、マッドサイエンティストが作り出したロボを派遣し、彼らを妖術で炊飯ジャーの中に閉じ込め、島から外へ連れ出した。そして、あろうことか、その体を最新型の編集ロボットに、改造する計画を立てたのである。

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仮面ライダーのように、編集ロボに改造されたエディットチルドレンは、結果、人間としての編集と、ロボとの編集、両方の能力を持つ、「スーパーエディットチルドレン」として、この世界に誕生した。「スーパーエディットチルドレン」は、編集ロボの編集に、さらに、人間のもつ、曖昧さをプラスさせ、ロボが感情を持ち、結果として、およそ1ケ月から2ケ月、監督と一緒に悩みながら、ああでもない、こうでもない、言いながら、編集を繰り返し、そして、完成させていくという、ごくごく一般的な編集にたどり着いたのである。

そうして、映画「子供はわかってあげない」は完成した。そして、編集島は、いよいよ警察の手の及ぶところとなり、衰退の一歩をたどっていく。活気のあったキャバレーや風俗街は、潰れていき、団地の住人はもはや島を出ると、廃墟と化していった。そして、誰もいなくなった。編集島は、いま、世界遺産に認定されている。あるひとつの文化を形成したとして、今も多くの写真家や芸術家などが、訪れている。もしかしたら、あなたの隣にいるその人が、編集島出身かもしれない。あなたの流れる血に、編集技師の血が流れているかもしれない。あなたは、エディットチルドレンかもしれません。どうか、人間の手が、いつまでも、映画を作り続けることを願いつつ。

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