四連休九州の旅EX のぞみ76号の激走

四連休の旅行記事は終わったと言ったな。あれは嘘だ。


いやまあ嘘ではないんですけど、「太古」を下船した後のこともまとめておきたかったんで。


7月24日19時。博多駅にて夕食を終え、お土産も買い、後は家路につくのみとなった自分は、最後のきっぷを買おうとしていました。
岡山からは南風27号で決まり。岡山までをどうするか。選択肢は三つ。高いが早く座席の大きな「みずほ」。岡山での乗り換え時間は短いが乗車時間は長く座席の大きな「さくら」。高いし最速達でもないし座席も普通だが空いている「のぞみ」。
端末を操作しながらああでもないこうでもないと唸った結果、ダントツで空いている「のぞみ」の指定席を取りました。「みずほ」と「さくら」の指定席はほとんどの列が埋まっていたので、避けられるなら混雑は避けたいと思いまして。「自由席ちゃうんやぞ」「指定席料金払ってのぞみかよ」「コスパ悪くね」などという心の声をなだめすかして、13番線で待つ「のぞみ76号」に乗り込みました。

19時25分。隣の14番線から乗車候補だった「みずほ612号」が出発。5分後にはこちらも出発。いよいよ家に帰るのか。長かったけどあっという間だったな。でも楽しかったな。
そう感慨に耽った瞬間。

「この列車、本日遅れております特急列車からお乗り換えのお客様をお待ちしてからの発車となります。」

ん?

「そのため、発車が少々遅れる見込みです。ご迷惑をおかけいたしますが、お座席で発車までお待ちください。」

なんと。ここにきてまたイベントがやってきましたよみなさん。

普通、交通機関の遅れというのはあまり良い顔をされないものだと思います。あるいは、今回のように少々の遅れなら特に意に介さない人も多いでしょう。
しかし、私はこういう少しの遅れだと楽しくなってしまう残念な人種なのです。

多くの方がご存知とは思いますが、列車が遅れると遅れを回復すべく全速力で走り出します。定時運行への復帰を目指して回復運転が始まるわけです。

我ながら悪趣味なのですが、この回復運転が大好きなんですよ。もちろん遅れること自体はあまり歓迎しないのですが、所定のダイヤに戻すべく列車が性能いっぱい使って、出せる限りの速度で飛ばすのがたまらなく痺れるんですよね。
旅の最終章、それも普段はそうそう遅れない新幹線の、さらに遅れにくい始発駅からの爆走を期待できる。一体どんな走りを見せてくれるのか、旅行前日の小学生のような高揚感で発車を待ちます。


19時33分。定刻からおよそ3分遅れて、博多駅を発進。14番線からなので制限はかかりますが、分岐を抜けてからはひたすら加速を続けます。既に日は沈んで空の明るさはなくなりつつありますが、いつもよりも振動も騒音も大きい状態が続くので、かなり頑張って飛ばしているのだけは分かります。

小倉へ向けて減速が始まります。が、そのブレーキもいつもよりやや強い。体が明らかに前に引っ張られます。
ぐいぐいと速度が落ちる中で、小倉駅到着の案内放送が流れ始めました。乗り換え先の案内がされる間も、列車はどんどん速度を落とします。普通なら途中で息継ぎのように惰行するタイミングがあるものですが、駅の直前まで一息で減速しきりました。
結果、博多→小倉の所要時間は手元の時計で15分10秒。所定が16分なので、1分弱巻いたことになります。

小倉を発車し新関門トンネルに突入した「のぞみ76号」はなおも先を急ぎます。何しろあと2分取り返さないといけませんから。
新関門トンネルは本州側で大きく右にカーブしていますが、新幹線乗車中に感じる最も強いクラスの超過遠心力を感じました。いつも以上に飛ばしているのがよく分かる。
新下関をさらに加速しながら通過。300km/hペースで山口県内を東へかっ飛んでいきます。
途中高速道路が並走しましたが、こちらは300km/h。せいぜい100km/hペースの自動車は止まっているようにしか見えず、どんどん後方へ流れていきます。新幹線だからこその楽しみの一つですね。早く地元四国でも味わいたいものです。

この「のぞみ76号」は途中新山口にも停車。細かく時計を見ていなかったのですが、この区間でも若干巻きました。とは言え速度制限のある副本線での停車なので、回復するのはなかなか大変そうです。

新山口を発車すると次は広島です。
途中の徳山では急曲線のため160km/hへの減速を強いられます。ここでは大抵、曲線が終わるまで惰性で走って曲線を抜けてから加速する(自分の体験上はそう)ものです。
が、今日の「のぞみ76号」はひと味違う。徳山駅通過中の時点で力行を開始し、極力速度を落とさないようにしています。曲線でも速度維持するRTA走りとか、四国山地をぶっ飛ばす2000系南風かよ。楽しすぎるぞ。

その後は広島手前までひたすらぶっ飛ばし、1分半と少しの遅れまで回復して広島に到着しました。


自分が乗車するのは、あと一駅です。頑張れば1分遅れ以内で岡山に着いてくれるかもしれませんが、どんなタイムになるか。発車と同時にスマートフォンのストップウォッチをスタートします。
列車はあっという間に市街地を離れ、灯りのまばらな郊外を突進。再び町らしいところが目に入ったと思うと東広島を通過。さらに山間部へと突入していきます。

20時54分。トンネル区間を抜けると気持ち減速しながら三原を通過。ここからは比較的短距離で新尾道、福山と通過駅が並びます。

20時56分10秒頃、新尾道を通過。三原からはおよそ2分10秒です。10.5キロあるはずなんですが、在来線の駅間みたいな所要時間ですね。はっや。

しばらくして再び少し減速。ほどなく進行方向左側にホームと城が見えました。福山です。通過は20時59分40秒過ぎ。

実況していると、三原→新尾道と新尾道→福山の駅間平均速度をFFさんが計算してくれました。

時計の見間違えでなければこういう恐ろしい速度になるらしいです。どんだけ急いでんの。


福山駅とその東側では微妙に(本当に微妙に)速度を落とします。それまでのトンネル区間全力疾走が気持ち落ち着いて、気持ち静かに市街地上空を飛んでいくのもなかなか気持ちいいものです。

福山市街地の曲線区間が終わると、岡山まで「のぞみ76号」を遮るものはありません。モーターを唸らせて再び最高速度まで加速し、新倉敷そして岡山へ向けてひた走ります。
新倉敷を爆速で通過し、高梁川を飛び越えると、ついに岡山駅到着の案内放送が流れてきました。新大阪方面から下りに乗ると大体到着5分前に東岡山駅東方で流れるのですが、西側はそこまで回数乗ってないのでこれがどのぐらい早いのか図りかねます。かえすがえすも残念です。
ようやく在来線並の速度まで落ちると大きく左へカーブ。岡山駅のホームに滑り込むとゆっくり減速し、停車しました。さあタイムは!

ツイは1秒書き間違えてますが、何にせよ圧巻の走りでありました。「のぞみ」も「みずほ」も35~37分が標準の所要時間のところを、34分台というダイヤ通りだと拝めないタイムを叩き出してくれたわけですから。
最後の最後に楽しい思い出が増えました。ありがとう「のぞみ76号」。


新幹線という交通機関は速達性や安定性や利便性が高く評価される一方、旅を楽しむためにアイテムとしてはあまり評価されていない印象があります。しかし、冷静に考えてください。現状日本で、飛行機を除くと最も速い公共交通機関は新幹線ですよ。レーシングカー並の300km/h走行を日本国内で合法的に楽しめるのは、新幹線ぐらい(あるいは滑走中の航空機)のものでしょう。
今回は夜だったので町灯りぐらいしか見えませんでしたが、他の乗り物だとあり得ない速さで後方へ飛び去っていく景色を眺めるのも、新幹線にしかできない旅の楽しみと言えるでしょう。

さすがに、列車が遅れた際の回復運転で気分が高揚したり、所要時間を秒単位で計測したりして喜ぶような趣味者は、鉄道趣味界隈でもそう多くないと思います。というかそんなに沢山いたらびびりますね。
とはいえ、こういうのも遅れというハプニングも楽しむ一つの手段としては使えるかもしれません、と提案はさせていただきましょう。

ちなみにこの悪趣味のせいか、時折劇的な回復運転を目撃することがあります。まとめられれば、改めて紹介したいと思います。

以上です。ありがとうございました。


余談。
この日の「のぞみ76号」は所定で博多→小倉16分、広島→岡山35分のところをそれぞれ15分10秒、34分12秒で走ったわけですが、同じ区間をそれぞれ15分、34分(いずれも時刻表上)で走りきる鬼神のような列車があります。

お気づきの方もいらっしゃるでしょう。

東京行き上り最終列車にして、東京~博多並びに東京~新大阪で歴代最速を誇る韋駄天、「のぞみ64号」です。

一体どんなめちゃくちゃな走り(※褒めてる)をしてるんですかね。いずれ乗って、その雄姿を拝まないといけません。

今度こそおしまい。

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