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四連休九州の旅 ①東京九州フェリー


この四連休はいろいろあって(超省略)九州に行くことになりました。
帰りの日付と交通手段はかなり早い段階で決まったのですが、行きの手段が決まりません。
大人しく連休初日に新幹線で行くのか。前日に休みを取ってオーシャン東京九州フェリーを使うか。はたまた何十年ぶりに松山小倉航路で乗り込むか。
頭を悩ませながら時刻表をめくっていると、ふとあることに気がつきました。

『香川県を夕方に出発しても、東京九州フェリーに乗船できる』

よし。乗ろう。航路開設が発表されてた頃から楽しみにしてたうえに、就航初便からTwitterで散々楽しんでる様子見せつけられてずっと乗りたかったんですよ。
連休前日の便はほぼ埋まっていたものの、その前の日なら余裕がある。休みも取れたので、自分が考えていたより早く乗船できることとなりました。

7月20日夕刻。最寄り駅を発って、一路横須賀へと向かいます。

乗船時刻が近づくにつれて待合所に来る人も増えて、騒がしくないまでも賑わってきました。最終的にざっと50人から60人はいたと思います。多くても20人に満たない乗客がお互い距離を取って乗船を待っている冬の新日本海フェリーとはえらい違いですね。

23時15分。徒歩客の乗船開始です。

乗船したらまず部屋へ。

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船室はツーリストSです。基本運賃の12,000円に加えてルームチャージの6,000円がかかりますが、ちゃんと鍵がかかる個室なので価格としては十分安いと思っています。以前新日本海フェリー「すいせん」でも同クラスの客室を利用しましたが、あちらは部屋の中からしか鍵がかけられず、防犯面でやや難がありました。それから比べても大きな進歩ですね。ステート一人利用のハードルが新日本海フェリーよりだいぶ高くなってしまいましたが、ツーリストSがちゃんと個室になったので十分許容範囲。なおこの部屋は寝間着がないので、必要な方はお忘れなく。

荷物を置いたら早速売店へ。

これまで絶妙にタイミングが合わず入手できなかった御船印をようやく初入手です。なんで地元より先に東京九州フェリーやねんという突っ込みは受け付けます。

23時30分。レストランが営業を始めたので、空いている席に座ってタブレットで注文します。すごい現代的。

夜食と言いたいところですが、道中で食事を摂らなかったためこれが夕食です。昼食から11時間が経っていたこともあって、一気に食べ尽くしました。いやあ美味しかった。ちなみにレジもセルフです。

23時45分。

新門司へ向けて出港しました。
同じく深夜に出港する新日本海フェリーの直行便ではデッキに出る人など自分以外見たことありませんが、こちらはさすがに多い。しかも、岸壁から作業員の方が赤い誘導棒を振ってのお見送りまでしてくれました。これは嬉しい。

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月明かりに照らされた海を眺めていると時間が経つのも忘れそうになりますが、24時10分を過ぎるとこの日最後の放送が流れます。寝台列車で言うところのおやすみ放送ですね。あまり夜更かしすると翌日に響きそうなので、さっさと風呂に入って休みます。この風呂も大浴場と露天風呂の欲張りセットなわけですが、そこの紹介はもっと風呂好きな人に任せましょう。


翌朝。特に睡眠不足も感じず7時台に起床。
気になる乗り心地ですが、少々は揺れます。縦方向はさすが太平洋の大海原といった上下具合でした。乗り物酔いの経験がある人は酔い止めを飲むほうが良さそうです。それから、新日本海の船と比べて幅が狭いせいかはたまた風や波のせいか、進行方向を軸に回転する揺れ(ローリングというやつ)がやや大きいような気はしました。

ついでに言うと、昨夜も本当は最上甲板に出たかったのですが、荒天のため立ち入り禁止となっていました。今朝になっても波が高いために立ち入り禁止のままで、残念ながら太平洋航行中に最上甲板に上がることはかないませんでした。

何はともあれそろそろ朝食なので、着替えて船室を出ます。出たところに窓があるのでちらっと外を見ると

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な ん か お る 

首都圏と九州を結ぶもう一つのフェリー、オーシャン東九フェリーの「フェリーりつりん」です。前夜19時に東京を発ち、途中徳島に寄港し二日後の朝に新門司に到着するのですが、東京九州フェリーの船足が速すぎるので途中で追い抜いてしまうわけです。
それにしてもこの日は早かった。ホームページ等で公開されている情報からすると、西行きの潮岬沖通過時刻はあちらが9時13分でこちらは9時21分。この通りの速度なら9時30分ごろ潮岬の西で追い抜くのではと考えていたのですが、現在時刻は8時前。和歌山県どころかまだ三重県の沖合です。速い。速すぎるぞ「はまゆう」。

29ノットなんて出されたら下手な高速船でも追いつけないんですが。
そして

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「この程度朝飯前よ」と言わんばかりにあっさり追い抜きました。わざわざ私の朝飯前に追い抜かんでも。

そうこうしているうちにレストランが開きました。

メニューは和風セット洋風セットお粥セットうどんそばなどなど。食欲の出ない人でも食べやすそうな料理が増えていて、心配りを感じます。この洋風セットにしても、パン&スープだけではなくごはん&味噌汁を選べるのは嬉しかったですね。

食事の間も「はまゆう」は爆走を続け、「フェリーりつりん」の先を走るRORO船「すおう」も射程に捉えて追い抜きをかけます。

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この「すおう」も決して遅いわけではないんです。それを実感したのがこちら。

「ぶぜん」は「すおう」の同型船ですが、この船が瀬戸内海を走ろうものなら他の全ての船を置き去りにするレベルで速いです。ジャンボフェリー乗船中に見かけて、並走できるかと期待していたらどんどん離された経験があるので余計に速い印象があるわけですよ(現在の「ぶぜん」は坂出が寄港地に増えたのでダイヤが変わり、ジャンボフェリー乗船中に追い抜かれることはないようです)。
しかし朝食を終えてBBQガーデンに出てみると

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もうこの距離かー。
この頃には既に潮岬も視界に入っています。

潮流に乗って32ノットを叩き出した初便の東行きほどではないにしても、いつもより余計に飛ばしております。

さて、続いては進行方向の景色を拝めるフォワードサロンへ。

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素晴らしい。実に素晴らしい。

他にも同様の設備がある船はいますが、オーシャン東京九州フェリーは一層低いために下方視界が悪く、新日本海フェリーは冬になると閉鎖され、阪九フェリーは外洋を走りません。この船からしか見えない景色というのも誇張ではないでしょう。
注意点ですか?何しろ船首にあるので、波が高いとメートル単位で上下することでしょうか。船酔い知らずの三半規管で助かった。

↑波高2.5mでこんな感じ

ところで、上の写真の水平線上に小さな白い点が見えることにお気づきでしょうか。

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やってきました。横須賀へ向かう姉妹船「それいゆ」です。
夜発朝着の一般的な長距離フェリーだと同じ航路のすれ違いは深夜になるので、何らかの無理をしないと目にすることは出来ません。他には新日本海フェリー、オーシャン東九フェリー、太平洋フェリー(名古屋航路)など、ごく限られた航路でのみ楽しめるイベントですね。
すれ違いの瞬間は外で味わいたいので、再びBBQガーデンへ出ます。

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二隻の巨大フェリーが汽笛を交わします。巨大船らしく野太い汽笛が実に心地いいです。汽笛の交換は初めてではないのですが、やはり毎度新鮮でとても気分が高揚しますね。この感覚はぜひ一度味わっていただきたい。

メインイベントが終わって、時刻は10時を回ったところ。ここから昼食までは特にすることもない。

いや、ありました。

久しぶりにやりましたよ。軽い気持ちで取り組むと割と詰まります(自分の教養が足りないだけでは)。それでも簡単すぎも難しすぎもせず、いい難易度の設定だったと感じました。出題範囲が東京九州フェリーに関わるものだったことも面白かったですね。

無事答えにたどり着いて船室に戻り、少し横になります。朝から惰眠をむさぼったり、いつもは寝られない時間に堂々と昼寝したりできるのは、日中ひたすら走り続ける超長距離フェリーでの特権ですね。

いやあ美味い。昼食もお腹いっぱいになりそうな定食から軽めのものまで幅広く用意してありました。

本来ならBBQも選択肢にあったのですが、波が高いため中止となってしまいました。ここまでよく晴れた洋上でBBQできる機会はそうそうないだろうと思われるので、返す返すも残念です。またリベンジせねばなりません。

昼食後、改めてBBQガーデンへ。

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夏の海のお手本ですかね。初回でこれ見てしまうと次からのハードルすごく上がるんだが。

ちなみに、当初の予報では高知県沖で波が高まることが懸念されており、船内放送でも3.5~4mの波と一部船内施設閉鎖の可能性が案内されていたのですが、波はかなり落ち着いていました。午前中のほうがよっぽど揺れていましたね。
この日の「はまゆう」は高知県沖での時化を考慮して速めに走っていたと思われるのですが、結果的に時化には遭わず、足摺岬沖を30分も早く通過しました。

足摺岬の沖からもしばらく西進し、やがて沖の島が見えてきました。陸路で行くと四国の最果てのような土地にあるのですが、東京九州フェリーの航路からは手の届きそうな距離です。このあたりも一度訪れたいですね。

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沖の島が見えたと言うことは、そこは豊後水道。潮岬沖からほぼ一直線に進んできた「はまゆう」は、豊後水道へ歩みを進めるべく舵を切ります。

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うっひょおおおおおおおおおおお

これですよこれこれ。この外洋らしい美しい青白い航跡。めちゃくちゃかっこよくないですか。ねえ。
護衛艦の空撮写真なんかではこういう航跡見ますけど、内海だとなかなかこうはならないんですよね。これを見たかった。かっこよすぎる。感無量です。

ちなみに内海だとどうなるかというと

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こうなる。
見ての通り、撮影したのは同じ「はまゆう」。佐田岬を越えてからなので完全に内海なのは分かるんだけど、ほんまに同じ船か???

豊後水道に入るあたりで船内の地図に違和感を覚えるなどもありましたが、「はまゆう」は変わらず快調に走ります。

宿毛沖を通過して昼寝をしている間に、最上甲板が解放されたようです。遅ればせながら自分も上がります。

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佐田岬です。それと前後して

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国道九四フェリー「速なみ」と出会いました。

この時点で時刻は18時前。

夕食です。時間より少し前に行ったのですが、既に座席は埋まっており少し待ちました。早めに営業を始めていたようです。利用客が多いとみて臨機応変に対応したんですかね。
メニューはこれまた多いですが、個人的なおすすめはこちらのレモンステーキです。レモンの酸味がとても気持ちよく、肉料理でありながら爽やかさが同居しているとても美味しい料理です。どれぐらいおいしいかと言うと、初めて佐世保でこの料理を食べた私が感激して「南予の鯛めしと佐世保のレモンステーキは見かけたら絶対食え」を家訓にしたほどのおいしさです。
その佐世保という町自体も極めて密度が高く濃厚な地方都市で、『タイムラインの旅行オタクが選ぶ帰りたい町ランキング』[独自調査?][要出典]ではトップ10に必ずランクインするような土地です。アクセスはやや悪いかもしれませんが、ぜひ一度訪れることをおすすめします。東京九州フェリーの新門司港到着からでもその日のうちに佐世保まで行くこともできます。佐世保からさらに船で西海方面や上五島へ足を伸ばすのも面白いでしょうね。夢が広がります。

閑話休題。
新日本海フェリーでは夕食を食べると後は入港を待つのみ(自分は冬しか乗ってないので既に日没後)ですが、東京九州フェリーではまだまだメインディッシュが待ち構えています。ここまで本編で、ここからも本編です。

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この時間は新門司港も出発ラッシュ。3社4航路5隻の大型フェリーがそれぞれの目的地に向けて続々と出港していきます。夜の帳が下りてから新門司港に到着する「はまゆう」は、それらとすれ違うことになるのです。少しでも船が好きなら、見逃せるわけがない。

先陣を切ってやってきたのは、名門大洋フェリー上り1便「フェリーふくおかⅡ」。

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豪快な船首波を立てながら東へ急ぎます。急ぎすぎて途中で東予を出たオレンジフェリーを追い抜くのですが、その話もいずれ。

続いては泉大津へ向かう阪九フェリー「いずみ」。

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この船にも以前乗りましたが、非常に綺麗で快適でした。露天風呂もあります。

阪九フェリーというと数年前に瀬戸内海で繰り広げられた大型フェリーレース濃霧の瀬戸内杯が有名ですが、あの時に話題になったのは姉妹船の「ひびき」でしたね。そちらの話も面白すぎるので下のリンクからぜひご一読を。

続いてやってきたのは

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・・・・・・新門司発じゃないな。

大阪と上海を結ぶ「蘇州号」です。瀬戸内の民なので初見ではないのですが、それにしてもこのタイミングで出会うとは。

この後は暗くなり撮影は極めて難しくなりますが、さらに

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阪九フェリー神戸航路の「せっつ」

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オーシャン東九フェリーの「フェリーびさん」が続きます。

これが船の左舷側でのメインイベントでしたが、右舷側でもほぼ前後して旅のクライマックスとも言うべきイベントが起こっていました。

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西の空が見事に染まりました。洋上から眺める美しい夕焼けほど、船に乗って良かったと思える瞬間はないと言っても過言ではないでしょう。最上甲板でも多くの人がこの光景を楽しんでいました。

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やがて夜の帳が下り、21時間に及ぶ船旅も終わりの時が近づいてきました。

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21時。「はまゆう」は定刻に新門司港に着岸しました。

前評判からして非常に素晴らしい船旅になることは期待していましたが、実際に乗ると満足感しかありません。これはまた乗るしかない。

一般的にフェリー(というか乗り物全般)はあくまで移動手段と捉えられがちで、所要時間の短さや安さが重視されます。私や大勢の乗り物趣味者のように、乗り物を何でもかんでもアトラクションとして楽しむ人は、社会全体ではかなり少数派です。関西を発着する多数の夜行フェリーも、安さや時間効率の良さを評価する声をよく目にします。
しかし、この東京九州フェリーは「船旅そのもの」を楽しむことが十二分にできると感じました。船に乗ること自体が旅の目的になり得ます。決まった航路をほぼ毎日走ってくれるクルーズ客船のようなものです。自分は行きませんでしたが、電波の届かない時間には船内シアターでプラネタリウムや映画の上映などもしており、船の上での楽しい時間が増えるように気を配られているのが分かります。外洋なので少しは揺れますが、酔い止めを飲んででもこの航路に乗ってほしいというのが正直なところです。

また、今回乗った西行きも非常に楽しかったのですが、東行きでは今回見られなかった東日本の景色も見られるのでこちらも乗らねばなりません。東行きのほうが揺れが小さいという話もあるので、そこも確認したいですね。

さて、この後下関で投宿しましたが、旅はまだ実質1日目が終わったところです。続きも書けたら投稿する予定です。

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