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市民立小中一貫校 瀬戸ツクルスクール

全国津々浦々を渡り歩いているゼミの仲間は、「ここが一番すごかった。」という。

何回かオンラインで拝見させていただいたことはあり、興味をもっていたが、ようやく念願叶っての訪問である。

これまでの訪問の中でも、濃密で学びの多い1日であった。

市民立小中一貫校瀬戸ツクルスクールとは

愛知県瀬戸市にある教育機会確保法の趣旨に沿った全日制のスクールです。

瀬戸市の教育理念
瀬戸のすべての子どもたちが「瀬戸で学んでよかった」
瀬戸のすべての親たちが「我が子を瀬戸で育ててよかった」
瀬戸のすべての市民が「瀬戸で生きてよかった」

瀬戸市教育理念

という瀬戸市の教育理念に基づいて、教育活動を行っています。
また公立学校の諸費用と同程度の費用負担で子どもたちを通わせることができるのも大きな特徴の一つです。

とにかく濃い1日だったのですが、運営責任者の一尾茂疋さんのビジョンの深さ、緻密なシステム、圧倒的な情熱があってからこそのスクールだと感じました。

スクールミーティング(クラス会議)から1日が始まります。

クラス会議というと一人一人が対等であることを大切にしながら、全体で意思を決定していくというイメージがあります。
一人一人の発言が大切にされて、丁寧に話し合いが進んでいく印象がありますが、ここでのクラス会議は洗練され過ぎていました笑

異学年の子どもたちがイスに座って丸くなり、トーキングスティックを持つところまではよくある光景です。

お題は「土日楽しかったこと、今日食べたいもの」
始まったかな?と思って耳を傾けるのも束の間。
あっという間にトーキングスティックは回っていきます。
正直聞いているんだか、喋ってるんだかわからないです。
喋ってる子もいれば、パスの子もいる。
体感で1分しないくらいのスピードで、ミーティングは終わり、一気にイスは片付けられて、各々散っていきます。

「…へ?」という感じでした。

よくあるクラス会議を知る人は、驚愕かもしれません。

一尾さん曰く、
「スクール開設当初は、インストラクションも丁寧にやったりもしていた。」
「クラス会議の最終形は、井戸端会議。井戸端会議をみんなでオープンにすることもない。」
「アドラーの共同体感覚の最終形は、『よく知らないけど許容すること、受容すること』」

とのこと。

学校の学級経営で求められるような、集団の一体感のようなものはあまりありません。
お互いによく話さない、顔しか知らない人もいるのでしょう。
ただ、そんな相手も認知し、相手を許容すること、受容するという暑苦しくない緩やかな関係性を大切にしているのだと感じました。

午前中はデジタルデトックスタイム。

各々好きな場所で、集まったり、座ったり、寝転んだりしながら活動しています。
フロアによって男女が自然と分かれているようでした。

普通の人が見たら「え?休み時間?」としか思わないかもしれません。

ただ、そんな中でも子どもたちは学んでいるのだと感じます。

なにやら紙にお昼のメニューを書いて、皆に声をかけている少年たちがいました。

お昼は300円を使い切るというルールとのことらしいですが、お金を集めて、材料を揃えて、お昼を作ることをしているそう。

「〇〇〜!肉何個〜?1、2、3、4、5、6、7…」
「あ、えーっと720g!」
なんて言いながら、電卓を叩き、計算して準備をしています。

テキトーにやってしまうと、自分たちが損することを知っています。

こんな会話をしながら、テキパキと準備をしています。

これも立派な学びといえるのではないでしょうか。

もう少し聞いてみると、彼らがやり出したのではなく、別に社長がいるそう笑

その社長は、コタツで横になりながら、会話したり、本を読んだりしています。
さすが社長です。

誰かがアドバイスしたわけでもなく、指導したわけでもなく、自分たちで組織を動かしている。

ちょっと鳥肌が立つレベルの感動でした。

しばらくボーッと集団を見ていると、

男の子たちが、サンドバッグを蹴り出す。
そして我々の方に転がってくる。
「あ、すんません。」

また蹴り出して、だんだんエスカレートしていく。
なにやら掴み合っているようにも見える。
言葉も乱暴になってくる。

普通の学校なら職員が止めに入るような場面だろう。
しかしここではそんな指導はされません。

彼らを目みると、さっき私たちの方へサンドバッグが行ってしまったのを気にして、私たちの方を見て、蹴る方向を調整しています。

掴み合っても、それがエスカレートしすぎることはなく、自然に収束していき、次の行動に移っていきます。

自分と周りとの関係を一人一人が調整していることをものすごく感じました。
多少のトラブルはあるのかもしれませんが、その中で自分のセンサーを調整したり、磨いたりして自己調整力を身につけているのだと感じます。

一尾さん曰く、
「以前、試しにトラブルに自分が介入した。結果、次の日から「一尾さーん。」と自分を頼るようになってしまった。」
それ以来、大人が介入することの罪深さを感じ、完全に任せるようになったとのこと。

因みに一尾さんは、別室で自分の仕事、作業をされていました。

一般的には「大人がなんとかしなくては」と思いがちですが、大人がいないからこそ、自分たちで折り合いをつけながら、集団を調整する力をつけることができているのだと感じます。

「集団は有能である。」をことごとく実感させられました。

一尾さんとの問答から

社会の変化が激しいから、全体が守りに入るようになった。今更「多様性」などというが、昔は学校のなかでも多様性が存在していた。

・実践よりも先に理論。
理論は主にアドラー心理学、7つの習慣、アクティブ・ブレインの三本柱。実践を通じて、それぞれの理論を深掘りしていく。

・大人が改革できないから子どもたちが身を切って改革をしている。不登校の増加が最たるもの。これによって、学びの多様化学校などの改革が進んでいる。

・子どもたちの空気感が活動の方向性。

出口戦略は主に個人事業主。高校生からはプラクティカルカレッジでバイトをしながら活動を振り返り、自身の学びにしていく。これは瀬戸市の特徴に由来する。他の町なら他の町にあったやり方をリサーチする必要がある。

家庭から過度のお金をもらわずにスクールを運営するモデルは、LINEや zoom、Googleなど。これらはプラットフォーム化されている。Googleのメインは検索エンジンだが、ググっても料金は発生しない。その代わり別のところから収入を得るシステムになっている。

まとめ

パッと見た目では、多くの人は「なんじゃこりゃ」と首を傾げる方が大多数かもしれません。
また、この形だけを真似しようと思ってもそうそうにできるものではないと実感しました。

カリキュラムがなく、子どもたちの主体性に応じて活動することを大切にするスクールは他にも数多くありますが、どうしてこの形に辿り着いたのか、その姿や活動をどのように意味付けられるかで、その価値は大きく変わります。

表面的な自由や居場所づくりなどという簡単なものではなく、理論をもとに実践を重ね、磨きあげられた姿が今のツクルスクールなのだと感じました。

一尾さんのビジョンは、ここで留まることを知りません。
「市民立」として、社会活動を進め、社会を明るくしていこうという圧倒的な情熱を感じました。

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