レモンケーキ

薄紙を開くと出てくるレモンの形のレモンケーキ。

この前、偏光さんとのコメントのやり取りに「レモンケーキ」が出てきた。

10年は経ってないと思うけど、いつだったかスーパーでレモンケーキを見かけて、え、レモンケーキってまだあるんだ! ちょっと驚いておもしろくなって、そのあと軽く胸が締めつけられるようななつかしさがあふれて、その中にほろ苦いような悲しいような気分もあった。
それからは見かけると、仄かなやさしさと悲しいような気分が漂って、買ったり、買わなかったり。

父が自分で自分を殺して40年以上の歳月が過ぎた。この父はときたまおみやげにレモンケーキを持って帰ってきた。「××××(菓子店名)はまずい!」そう言って必ずくさすのが母。ついこの前も言ってたな、「××××はまずいでしょ」って。
母はわたしに父がどれほど「人間のくず」かを繰り返し語った。母が話した父の非道の数々は全部本当だろう。わたしも目にしていたから、疑わない。
学齢期には、はっきり父を嫌い死ねばいいと思っていた。
母のことは好きだと思っていた。
でも本当はそんなにわかりやすくない。
両親に愛憎ごちゃごちゃカオス。
わたしの最大の脅威は母で、父を嫌い憎むのは母への忠誠の証だった。
父のくずの面は嫌というほど見させられた。だから嫌って当然だったけど、過剰だった。
母のことは大好きで、父のことは大嫌いと自分に信じこませた。
そうやって生き延びた。

素朴に、お父さん好き、と思いたかった子、その子の存在に、レモンケーキが気づかせてくれた。
素朴に、お父さん好き、お母さん好きと思うことがかなわなかった子どもの思いを、レモンケーキが知らせてくれた。

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