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格子

1997年10月9日(木)
水を吸った砂のような脚と足で歩いていた。もうすぐ家だ。
あ、街灯が点ってない。凄く暗い。歩行困難に加えて急に見ることの不自由も加わった。

隣の狂犬、また表に出されてるのか。飼い主以外には憎々しい顔で吠えまくって、隙あらばガブッ! あの犬は一日三分の散歩以外は構ってもくれない飼い主のおばさんの攻撃性を代理で表現することで自分の発散もしてるんだから、狂ってないのか。

犬の前を通らないことにはうちに帰れない。とっさに、目が見えません、ということにしようと思った。目が見えないわたしを犬は咬もうとは思わないで、それどころか歩くのを手伝ってくれるのだ、と。

体勢を低くして犬の背に触りながら歩いた。てっきり隣の犬だと思ったけど、違ったのかもしれない。

猫が数匹近づいてくるのがわかった。
玄関の前に来た。猫たちがわたしと一緒に家に入ろうと待ち構えているような気がした。
猫は好きだけど、共同生活はしたくない。猫は蚤も連れてくる。

鍵をあけ、うまいこと自分だけ中に入ったが、猫たちを騙したような。
あ、鍵取り忘れた。

猫たちが円くなってわたしを見ていた。透視したのか?

玄関の内側は灯りが点っていて、気がつくとわたしは自分を見ていた。
???
なんで自分を見られるんだろう?

格子があって、格子越しに見ていた。角度によって見えたり見えなかったりした。
柵はわたしから見て時計の三時の形に設えられていた。Lの形。
わたしは四時の位置に立っていた。
柵の向こう側十二時の位置に立ってるわたしは青年ぽくて、上が紺、下は黒の服装。そのそばにもうひとり女の子らしい生成りの服のわたしがいて、屈んで猫をなでてにこにこしていた。
青年ぽいわたしの顔は丁度格子で阻まれて見えなかったけど、猫と遊んでる方を仕方なく待っているような雰囲気だった。

鍵どうしたかな。

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