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ディズニーと"ポリコレ"揶揄に思うこと③━ハーモニーインカラー、ディズニーランドの古さと新しさ

 ディズニーリゾートの40周年イヤーが終わります。5年ごとに変わるデイパレードが更新され、コロナ禍で姿を消したダンサーたちのカムバックが話題になりました。私はこのパレードを、違う意味でリマーカブルで素敵なものだと感じました。

 昨年11月、ディズニーのCEOボブアイガーの発言が話題になりました。前CEO体制への批判やマーベルの扱いなど、経営状況に関していろいろな言及がありましたが、日本のネット上ではかなり特徴的な拡散のされ方をしていました。ねとらぼやまとめサイトなどが取り上げ、「ポリコレに偏りすぎてエンタメ性がなかったという発言をした」というような趣旨のタイトルが付けられていました。なかには【朗報】なんてつけているものも。


 ボブアイガーの実際の発言やディズニーの経営の足を引っ張る要因の追求は一旦おいておいて、まるで鬼の首を取ったかのようにまとめサイトやインフルエンサーが「ディズニーはポリコレでつまらないのを認めた!」と大騒ぎしている点に頭が痛くなりました。現在の私としては正直なところ、「最近のディズニー作品はポリコレを押し出しすぎていてつまらない」と言う日本の人々を「自分が見下している人たちにスポットライトが当たっているのが面白くないだけの人たち」だと思っています。

 私が「ディズニーはポリコレでつまらない」と揶揄されていてもその路線をいくことに賛成なのかというと、世界中の子どもたちに名前を知られている超巨大企業として、これまでディズニーが描いて広げてしまった前時代的なステレオタイプや勘違いや無理解を解きほぐす新しい表現をつくる責任があると考えているからです。

 ディズニーに限らず現在のエンタメ界は多様性や差別へのアンテナを高くすることが求められており「バービー」などが高い評価を得ています。ディズニーも、キャッチした潮流をパークや映画に落とし込んで空回ったり上手くやったりしていますが、私はそれを子供に夢を見せることを主な仕事とした超巨大企業としての責任からじゃないかなと思って見守ることにしています。そして、いち日本人としては、アメリカでは今何が良しとされて何が悪しとされているのがわかりやすく反映されているのがディズニー作品だと思っています。

 さて、多く日本人にとって「ディズニー」の顔である東京ディズニーランド。さらにその顔であるお昼のパレードは、まさにそんな期待に応えてくれたもののように私は感じました。

 そもそもテーマパークは、ディズニーが提供するエンタメの形態の中で最もアップデートが遅れてしまうのが仕方ない形式でしょう。少し前に本国のスプラッシュマウンテンの終了が話題になりましたし、日本でもここ最近アトラクションやテーマランドのオープンが相次いでいますが、新作の映画やミュージカル、そのほか単体のコンテンツを作るのに比べて、既存のパークのどの場所をクローズして世界観を崩さないように何を作るか計画を立てるのはだいぶ骨が折れそうです。そんな事情もあってか、東京ディズニーランドには良くも悪くもオールドファッションなアメリカらしい価値観をそのまま残した風景が多いです。

 ネイティブアメリカンを無視し、「西部開拓こそがアメリカの精神!」と称えてはばからないウエスタンランド。白人が住んでいなかった実在の場所をモデルにして「未開の地、勇気を出して冒険する場所」と名付けたアドベンチャーランド。電灯がともり、自動車が普及して誰もが新しい時代への期待に胸を膨らませていたかのようなワールドバザールでは、ペニーアーケードにアメリカの擬人化と言われるアンクル・サムが佇み、黒人音楽がルーツの「ラグタイム」が流れているけれどバイシクル・ピアノのスティーブさんは白人です。ワールドバザールのモデルはウォルトのふるさと、ミズーリ州のマーセリン。保守的な州のようですから、ワールドバザールのような誰もがこれから始まる物語に期待を膨らませる場所ではなかったのではないかな…とつい想像してしまいます。

 しかし、私はこれらの描写をいますぐ撤去せよとは思いません。これらはディズニーがたしかにこれまでWASPにのみ都合のいい美しい物語を生産して、世界のエンタメのトップを取ってきてしまった揺るがぬ証言者です。「It's a Small World」にならぶ人形のうち、何人に"自分と同じルーツのヒロイン"がいるでしょうか。こういったねじれは批判されるべきですが、淘汰されて忘れ去られるべきではありません。そういう意味で、積極的にアトラクションの題材やテーマランドそのものをごそっと変化させるのではなく、比較的流動的な変更が叶うパレードなどのエンタメで、小さな世界の子供たちのほうを向いていることを示していくのはいいやり方だと感じました。

 ハーモニーインカラーには、パレード初登場のキャラクターがとても多いです。フロートを持っているヒロインはまさかのモアナ、ラプンツェル、ポカホンタスという顔ぶれ。アドベンチャーランドのモデルのひとつ、ポリネシア諸島のヒロインと、ウエスタンランドのフロンティアスピリッツに通じるイギリスの植民地主義と出会ったヒロインが、大人気ヒロインと並んでいます。若い女の子でなくても物語の主人公になれるので、カールじいさんにもフロートがあります。みんな、もう一度映画を見直したくなるようなとっても素敵なフロートに乘って、とってもにぎやかにダンサーさんと一緒に目の前を通り過ぎていきます。

 キャラクターに出会う機会が増えるのと、キャラクターの人気が出るのは、卵が先か鶏が先かという感じだと思います。日本ではズートピアやベイマックスが大人気になり、テーマパークでもグッズやグリーティング、ショーで会いやすくなりました。そういう意味で、WASPやそれに類するこれまで世界を牛耳ってきた属性ではないキャラクターがたくさん姿をあらわしてくれることに非常に意味があると思います。何年か後には、ハーモニーインカラーに登場したキャラクターの常設アトラクションやレストランができているかもしれません。「It's a Small World」にならぶ人形と同じルーツの子ども一人一人が自分のヒロインを持ち、テーマパークで自分の ヒロインと一緒に写真を撮った思い出を持てる日が来るかもしれません。

 ハーモニーインカラーのテーマは虹です。虹は、文化圏によって何色と言われているかが違う、ボーダレスなシンボルです。LGBTQのシンボルとして使われるようになった理由の一説に、映画「オズの魔法使」のOver The Rainbowからだというものがあります。こちらの曲には"Somewhere over the rainbow,~and the dreams that you dare to dream really come true"という歌詞がありますが、ハーモニーインカラーの"like a rainbow, nanairo~"という歌詞を聞いていると、自然とOver The Rainbowが思い浮かびました。ディズニーランドのキャッチコピー、"where dreams come true"と虹が結び付いたのでしょう。白人の男性の世界で、いつか自分も安心して楽しく暮らしたいと願った「It's a Small World」の子供たちの夢がかなう日が近いのかもしれない!と思わせてくれるパレードでした。正直なところ、本国ディズニー社とオリエンタルランドが5年ごとに変わるデイパレードのためにどの程度のコミュニケーションを重ねているか、詳しいことは知らないのですが、ああ、ディズニーは変わろうとしているんだなと思える出来でした。

 しかし、ディズニーは現在、パレスチナの子供に目を向けているとは言い難いです。パレスチナの子供たちは「It's a Small World」の例外では決してありません。 

つづく

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