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【エッセイ】ビジネス枕詞と剣術の流派

ビジネス枕詞たるものがあるらしい。

ビジネスシーンで本題の前に置いて、口調を柔らかくする言葉を「ビジネス枕詞(クッション言葉)」といいます。

ビジネス枕詞とは?

如何が例である。

おかげさまで

たとえば、「(上司や同僚の力添えがあって)おかげさまで、非常にスムーズに事が運びました」といった場合の「おかげさまで」。たとえ自分1人で進めた仕事であっても、この表現を使う事によって、協調性を重んじる姿勢を表現できる。

大変申し上げにくいのですが

取引先に断りを入れる際には、相手の失望を緩和する効果がある。たとえば「御社の提案、不採用です」と言い切ると、カドが立つ。これを緩和するために、「たいへん申し上げにくいのですが、御社のご提案は今回、不採用となりました」と切り出せば、相手にとってショックな話でも、多少のフォローにはなる。


「逆に言うと、あれこれカクカクしかじかすべきかもな。

うちの会社の職人肌のベテラン社員が、オンライン会議で話し出す。

彼の必殺枕詞は「逆に言うと」であった。

「逆に言うと」を発射台として利用し、彼は弁論を饒舌に繰り広げる。

よく考えてみると、彼の言っていることは、
今まで話してきた意見の逆でも何でもなく、全く異なる意見のこともある。

ただ、彼の意見は、いつもお客様ファーストだった。

お客様は喜ぶが、社内には工数が掛かるので、
少し疎まれている部分があったのかも知れない。

発言の度に会議に緊張が走ってくる。

「逆に言うと」は、彼にとっては、言葉の発射台であるが、
他社員にとっては、今までの意見を一刀両断される恐怖の瞬間だった。

これは、ビジネス枕詞なのか? 優しくはないぞ。

「宮◯さん、何故いつも逆に言うと、って言うんですか?」

気になって仕方がなくなって、僕は聞いてしまったことがある。

「違う!こう進めるべきだ!って言ったら角が立つだろう。
 だから、逆に言うと、こうじゃないか?って投げかけるんだよ。
 人の意見を否定はしたくないし。逆に言うと、誰も傷つけないだろう。」

やっぱり、逆ではないよなあとは思いながら、考えたことがある。

刀で人を切ることは簡単だ。しかし、峰打ちには技術がいる。

峰打ちとは、刀身の刃と反対側の背(峰・棟)で相手を打つこと。

僕達が、一刀両断されると思い込んでいた「逆に言うと」は、
優しさから生まれた峰打ちだったのだ。

頂いた峰打ちが重たすぎて、熟考し、暫く動けないのが肝。

ビジネス枕詞を含む、言葉遣いには
性格や人間性が大きく関与するとは思う。

だからこそ、「逆に言うと」から、
お客様の為に尽くす愛情、
大胆に方向修正するプロフェッショナル精神、
けれど皆を傷つけたくない優しさ、など人間性が垣間見えたのだ。

これぞ、剣豪のなせる技。一つの枕詞に、彼の剣術流派を感じた。

彼とは長年一緒のプロジェクトをやってきたが、
完遂と同時にチームは解散した。

また、彼は今年を持って、定年退職をする予定である。剣豪の勇退だ。

「Kさん、なんで逆に言うとって言うんですか?」

突如、後輩に質問されたことがある。

紡いでいくべき剣術流派があるのだ。
逆に言うと、刀自体も磨いていく必要があるのだろう。

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