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【詩】朝霞の中、縊死した郵便配達夫の孤独

乗り捨てられた自転車の横を
仔狐こぎつねが通り過ぎる

少女は
雨のそぼ降る日々
幾日もそのまぶたを
開かずにいた

乾き切ったペン先からは
鮮血せんけつが静かにあふれ出し
うなづく唇の湿りが光を捕える
吐息のようにかすかな言葉は
肯定も否定も
古びたオルゴールの音に
共鳴する

少女の想いは
小箱から取り出され
林の先に向かう

封筒を閉じた指先は
指し示す方向も定らず
薄暗闇うすくらやみの中に
白く浮かび
宛名のない手紙は
過去への贈り物になるのか
未来への怨嗟えんさになるのか

林の中の
あの小道を行った

消印のない封筒が
握りしめられて
朝霞あさがすみに濡れる

仔狐こぎつねの咥えた薬指の
指輪のあと

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