ささき にと

【詩】と称して投稿しています。 また、フィルマークスでは“かっつう“名で映画、ドラマの…

ささき にと

【詩】と称して投稿しています。 また、フィルマークスでは“かっつう“名で映画、ドラマの感想をほんの少し。 お時間があれば。

最近の記事

【詩】別れ

私は恥辱の果実の先端となり 手のひらに包まれ 持ち上げ 握り潰されて 想いの彼方 恣意の働かないところで 「こと」が進んでいる証となる 多くの場合それは身体の中でのことであり 多くの場合それは私からは遠く離れている 波を探しに渚に向かう 受信するだけになってしまった携帯電話を 練り込まれた悲報の理由にするべきだった あなたの涙のように 枯れ果てるまでは言葉の湿度に 頼れたかもしれないけれど 波は訪れるまで逃亡者であり 私の中では臆病者なのだ 傷口を開くことほど 理にかな

    • 【詩】日常

      拒絶するように描かれた 白線の横断歩道を渡って 道の向こうへ渡ろうとしている 信号が変わるのを待っている 底には川が流れているだろ 人の血も どっくんどっくん 電車のドアには確かに書いてある 「引き込まれないよう ご注意ください」 誰だって逃げ出したい 今という待ち時間から 引き込まれないように 注意深く そんなものがないことに すぐに気づく だから ないものをねだることも あり過ぎて嫌なことも 同じ天秤の上での刹那に過ぎない 言葉が日常にならないように しているんだ 流

      • 【詩】アンビバレンス

        一日が滑り去った後 私たちは戻って行く 星のように 風のように 人が直線を作る悲しみを 記憶の化石にするならば 「同時」という不可思議や 施した悪や罪のため 全ての母の羊水の 漏れ出た先の残滓に過ぎない そのことを嘆いても 悲しみは喜ばないだろう 葉の裏側を見せるために 風が吹く 永遠を遠ざけるために 星が瞬く そのことは私たちの希望でもあり 絶望でもあった わたしが わたしの外に出るまでの 粒立った果てしない時間を 語らなかったすべての わたしに返すために 私たちは

        • 【詩】30秒

          冷めたコーヒーを 電子レンジに入れ 30秒ほどあたためる デジタルの数字が 減っていくのを見詰めている 小さな事でいい わたしには 何故?と問うための時間が必要 たとえ その答えがなくとも 自らが問いとなる時間が その時になって やっと 人生が一瞬だったと 確信できる あえて焦点を合わせずに 惚けたように 時を過ごしたまま 風の行先を追う わたしと交換できる時間は そんなに多くなくて良い かつて 愛する人の笑顔があった日 そんな日のように 少し 死に近づいた

        【詩】別れ

          【詩】ドラマ

          例えば 道で人とすれ違う時 相手を見てしまうと そこにドラマが生まれる 心が引きづり出されてしまうような それは とても疲れてしまうので やはり 顔を上げられない 「この黒は白だ」と言ったり 「この白は黒だ」と言ったりして 多くのドラマは始まるわけだが わたしの白は黒ではなく 黒も白ではなかった ずっと ドラマでないドラマの中で 過ごしている ひとりの罪の中 「ありがとう」という拒絶の言葉に こころが痛んでも その度に寂しさに慣れるよう 顔を上げずにきたはずだ ドラマどお

          【詩】ドラマ

          【詩】始まりと終わり

          わたしの投擲した 心臓ほどの大きさの石が 今 水底へ向けて 音もなく沈んでゆく 静寂のなかに 沈黙の逃走を準備して 訳知り顔で振り返ると 死んでしまった言葉の遺体が そこかしこに転がっている わたしは海の名前を呼んだり 空や風の名前を呼んだりして 消えて無くなってしまわない言葉や 初めから存在しない言葉を 使ってみたくなる 白い画面の 滲んだ黒いシミのようなものか 空気を震わす振動なのか 表情や目の動きだったり その輝き 吐き出す吐息だけなのか 言葉を使い終わったら

          【詩】始まりと終わり

          【詩】濃密な花束

          石井裕子 小笠原聡 立花里奈 雨の日は傘が必要でしょうか しかし そうとも限らない 松田皐月 石渡修 あと ひとり だけ 少年少女 そのことの脅威 誰でもない共犯者として ボカロが歌うわらべ唄 どこでもないここ そして リゾームのようなもの スマホの中の見えない空間 あとひとりだけ そんなふうに消えてゆく 匿名の彼らは濃密な花束のように 群れあい 離れあう それぞれに違う秘密を持ち 同じ秘密でくすぐり合う

          【詩】濃密な花束

          【詩】気配(けはい)

          しわだらけの欲が歩いている 凍える寒さに吐き出された息の中を 噂話で満ちた外耳道の淵を ときどき よろけたりもして グレーの濃い部分があり 光のかげんによっては白く見えるところもある 時に見失うこともあるのだが 小さな眼を光らせて 十年前の古びたドライフラワーのようで いじましくも見え それは妄想と似ているため 10の下に赤い9が来て そこで初めて10が黒と知る 空に浮かぶ下弦の月のもと 攻撃的にならざるを得ない 「人たち」の匂い 欲望は折り紙のように薄く 軽いからこそ知って

          【詩】気配(けはい)

          【詩】犬たちのとまどい

          犬たちがとまどっている 同じような音声を発する 動物を見るが その姿形はまるで違う それぞれが異なる図体 異なる体毛の色 異なる足の長さや尾の長さで 各々が鳴いてみて 通じるのか その声には反応する こんなに違っているのに 同じ「犬」と呼ばれ こんなに違った人生なのに 散歩の途中なのだ どんな風に嗅ぎ合えば 知り合えるのか 訝しげに振る舞う術も しかし真実とは程遠い 容赦ない姿だ 姿形がどれほど違っても 呼び合ってしまえば 閉ざされたひとつの円環のように 生臭い息を嗅ぎ合

          【詩】犬たちのとまどい

          【詩】人生礼賛

          乳白色の薄膜に 光を当て、 砂時計の中のつむじ風と 波頭の爪弾きのリズムで集う時 幾千日の眼底の鼓動音さえ これを懲らしめるための頬のふくらみ 血のような 潮のような 生臭さの育たない地平の午後 落涙のため費やした時間を 何度も生え替わる剛毛や 卵の殻の無数の見えない気孔の その数だけを数える日々 瞼の裏で濡れるのは 植物園の夕暮れ いや 黎明であろうか しっかりとしたジャンプのための 出来損ないの時間のようで さみしい父よ いつしか貴方の知らない間に 類例のない魚卵の青空

          【詩】人生礼賛

          【詩】鏡の向こうの部屋

          恋愛論も感情論も 当たり障りのない脳の洪水 首を絞めてみて 手でよりも その紐で 上手くいったら 声高にあやとりしてる 紐の行方を追いかけて はずした時間 私が 指先で押したあなたの頬は 思っていたよりも柔らかかった 窪みの中に 人間探しを準備して 彷徨って 嘘のように 思えて仕方がないくせに 信じ続けているのは 一人ではなく 二人、あるいはそれ以上に 多く見えてる、ここにいるから 自らの存在を緑の仮想現実に 依存すれば、心よき風が 自身の罪のために 硬化した崩れてゆく

          【詩】鏡の向こうの部屋

          【詩】清澄白河から歩いた

          清澄白河から歩いた 高い天井の建物から出て 街のラーメン屋でも探そうかと 晴天の休日 妻と 東京にも 興味深い地名が多くある 「清澄白河」、 「箱崎」や 日本橋でも「蛎殻町」「小網町」「小舟町」… 「虎ノ門」や「神谷町」… ここは もう、地じゃないから 地名はないと 妻は言うかもしれない いつしか隅田川に出て 河岸を下った 特別なことがあったわけでもないのに 記憶に残る時間 青空と風と ほどなくして 妻は 晴天の向こうに去った 記憶のありかが名を持てば どんなも

          【詩】清澄白河から歩いた

          【詩】自鳴琴

          風が吹くことも 風が吹いていることも あたりまえのことだった 長さの異なる金属片が 規則性に沿って並べられた 突起により弾かれる 祈りの声は届くのか 祈っていなくとも 声を聞くものはいるのか 想いは金属ではなく 光と闇の破片であろう 近づく力と遠ざかる力が同時に だから聞こえる 耐え難い日常と耐え続ける日常 魔法という小箱には 魔法はなく 響くさきに答えを追い 曖昧な根拠を問う 奏でられるのは美しいメロディ 目を背けられても 自分たちだけの理由で生きていく 双子のわたし

          【詩】自鳴琴

          【詩】ヘイトスピーチ

          ある種のハチドリの中には その体長にくらべ 極端に長い嘴を持つものもいる 長い舌を隠し持ち それで食物を摂取するわけだが いかにも効率の悪いその生き方が 羨ましく思えたり ネパールにはグルン族という民族がいて 彼女はそこからやってきて 今、ファミマでバイトしている 「おはようございます。元気ですか」と 日本語の勉強をする だけの挨拶で一日幸福と思える お前のそういうところが嫌いだ 職場のある渋谷はルソーの熱帯樹林 街頭ビジョンやスマホ電波が同じ 波長の腐敗を忍ばせて 羽田か

          【詩】ヘイトスピーチ

          【詩】無題

          眼の見えない聴衆がいる 耳の聞こえない見物人がいる 遥か近くの彼方を見るために 何かになろうとする 何一つ備わっていない私は つまらない人間となる 生まれて生きていることが 存在の傷であるように 言葉が去ってゆく 何故、常識的に過ごそうとしてしまうのか そうじゃないほうが楽しいに決まってるのに 今に近い時間から始めて 死に近づきやすいように 言葉はいつも 死と共にあって 私から去ってゆくばかり だから捉えようとする 生きること それはあなたであったり 君であったり

          【詩】 さざなみ

          窓にカーテンはかかっていなかった 窓は閉まっていて 部屋の中が見えた 隣家が建て替えのため 壊され、露わになった窓だ 私は詩人として立っていた ある日、路上に 液体がぶちまけられ アスファルトが黒く光った 曲がり角のカーブミラーは60度ほどに傾いているが 道路管理人の姿は見えない 壊された隣家の土地は 更地になり黒く湿っている 窓が見下ろしている 私は物理的な何かをぶちまけるという行動を したことがないが そう思っているだけなのだろうか 姿が見えない隣家の家族や

          【詩】 さざなみ