始動5話
始動5話
リースが来る二時間ほど前――
「何もないって、何だよ!」
「ホルス~、それシャレなの?」
苛つきながら叫ぶ男に、ワザとらしくツッコミを入れるのはSD隊員のノヴァ・ヂュアリ。
「お前はウルサい! ー…でもおかしくないか? 市民通報があって現地到着までの間、ほんの数十分だぜ?」
「確かに。クリーチャーの痕跡がないのは腑に落ちないわね…」
ノヴァにホルスと呼ばれた男の意見に賛同したのはセイラ・アルディーン。
「…その市民のカゼネタとかは?」
「そーゆーのはないんじゃないか?」
「じゃあ、どうしていないのさ」
ノヴァは自分の意見に異をとなえたホルス・リターナを見て膨れた。
「そんなの俺が知るかよっ。分かんねえから困ってるんだろ!」
「僕に怒らないでよ!」
ノヴァは再び頬を膨らませる。次第に始まる二人の口論。
「…あ、あの。二人とも落ち着いて……」
セイラが呆れる中、遠慮がちに止めに入るのはサリア・ティルミットだった。
「そうね。ここで言い争いをしていても仕方ないわね…」
サリアに同意するかのように、セイラは溜め息混じりに言う。
「けどさぁ~…、ホントの事分からないまま帰れないじゃん」
ノヴァは、ウンザリした面持ちになる。
「ー…確かにな。それはお前と同意見だ。ただ、『クリーチャーが出た』という市民通報で俺らは出動要請を受けただろ? それなのに、クリーチャーの痕跡がないってことは……」
「ー…って事は?」
ホルスに続きを求めるノヴァ。
「罠…かも知れないって事だ」
「ー…ご名答」
ホルスの言葉に、乾いた拍手音とともに突如響く低い声。
「ー…っ! 誰だっ?!」
言いながら、ホルスは顔を険しくする。
「まさか……?!」
「…本当に…ッ?」
サリアとセイラは口々に言い、ホルスやノヴァ同様に五感を研ぎ澄まし、視線だけで辺りを見やる。
「…やはり、その制服ーーSDか……」
納得したように呟きながら、前方の木陰から男が姿を見せる。それを合図に、周りからは数十名程の男達が現れる。皆、真っ赤な兵服を着込んでおり辺りは異様な景色に見えた。
最初に姿を見せた男も赤い兵服を着ているが、左胸の位置に小さな勲章があるのを見れば、兵長らしき位であることは一目瞭然だ。
SDの四人は、その真っ赤な兵服(軍服)で彼等が何者かを瞬時に理解した。
「…ハルツカ北天騎士…」
ギリッと唇を噛むサリア。
「ダルイレム国、ハイツベッカー領土の…北天騎士軍ね……」
静かな口調で、彼等の素性を明かすセイラ。
「…何で、こんな所に……?」
ノヴァの呟きに、兵長らしき男のアンドリアン・インディは小馬鹿したように答える。
「ふん…。SD再結成の噂は本当だったんだな。わざわざ奴等からクリーチャーを借りただけの成果はあったな」
(ここでSDを始末出来れば、将軍の座も夢ではないな)
インディ兵長は答えながらも内心はそう思っていた。
「……」
ホルスは戦闘態勢を崩さず、先ほどのインディの言葉に考えを巡らす。
(…何か、おかしくねぇか? 『奴等からクリーチャーを借りる』? もしかして、こいつ等の目的って……)
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