医療施設のための医療機器の除染と再生処理

はじめに
世界保健機関(WHO)は2016年に「Decontamination and reprocessing of medical devices for health-care facilities」と題して、医療機器の再処理となる洗浄・消毒・滅菌対するガイドラインを発表しています。このガイドラインは英文のため日本医療機器学会が翻訳したものをWHOのサイトからダウンロードが可能です。日本医療機器学会が発出している「医療現場における滅菌保証のガイドライン2021」よりもマニアック過ぎず、より現場に即した内容であり、日本の医療現場でも有効に活用すべきです。
このガイドラインの懸念事項としては、発出年が2016年とやや古いことでしたが、2022年4月にWHOは2016年のガイドラインを要約・更新した冊子を発表しました。今回はこの新しい冊子をもとに重要と評価した部分を翻訳します。

 単回使用医療機器(SUD)
SUDはメーカーが推奨する方法でのみ使用し、再使用しないでください。SUDは再加工や再利用が安全であることを保証するための広範な試験、バリデーション、文書化が実施されていません。
 
除染・再処理環境
使用済み医療機器を再処理するための汚染除去エリアは、他のすべての作業エリアから物理的に分離され、汚染エリアから清潔エリアへ一方通行であるべきです。また、施設内の人通りが少ない場所にあるべきです。
 
スタッフ教育
リスクアセスメント、PPEの使用、化学物質の安全な取り扱い方法などのトレーニングがスタッフに実施されており、文書化されるべきです。
 
品質保証
医療機器の無菌性を保証するために、方針と標準的な業務手順を定める必要があります。
 
搬入・搬送

  • 再処理エリアに輸送するために、医療機器に付着した大まかな汚れと、鋭利物は除去します。

  • 使用済みの医療機器は、分かりやすくラベル付けされ、完全に密閉された、漏れや穴の開かない容器で輸送します。

  • 湿性生体物質が付着した医療機器は、酵素スプレーや水で濡らせたタオルで湿らせておきます。

  • 医療機器の破損を防ぐため、生理食塩水や次亜塩素酸ナトリウム溶液には浸さないようにします。

 洗浄

  • 洗浄できない医療機器は、消毒・滅菌もできません。

  • 医療機器用洗浄機(超音波洗浄機、自動洗浄機、洗浄消毒機など)を使用する場合は、事前に目に見える汚れを除去するために用手洗浄が必要です。

  • 清潔で糸くずの出ない布、柔らかい毛のブラシ、スプレーガン、フラッシング装置を使用してください。

  • 長くて丈夫な手袋(またはニトリル手袋)、防水エプロンやガウン、粘膜保護のための顔の防護具(バイザー付きマスク、ゴーグル付きフェイスマスクまたはフルバイザーなど)、つま先の閉じた靴またはブーツなど適切なPPEを使用します。

  • 医療機器の全表面の清掃を容易にするために、装置は分解します。

  • 洗浄には、医療機器に適合した洗浄液を使用すると、洗浄が容易になります。

  • メーカーの説明書に従って、洗浄剤を用意します。

  • 表面やルーメンの洗浄時に飛沫やスプレーを抑えるため、ブラッシング時には医療機器を洗浄液の水位以下に浸してください。

  • 洗浄中に医療機器を点検し、汚れがすべて除去されていることを確認します。

  • 医療機器を水道水ですすぎ、乾燥させます。医療機器の設計によっては、機械的、空気または糸くずの出ない布を使って用手で乾燥させることもあります。

  • 可能であれば、機械的な手段で医療機器を洗浄します。機械的な洗浄は以下の利点があります。

  • 手の届きにくい箇所をきれいにすることができます。

  • 洗浄されるべき箇所を適正に洗浄します。

  • スタッフへの潜在的な感染リスクを低減します。

洗浄工程

  • 洗浄には機械的な作用が不可欠です。医療機器の表面を傷つけない柔らかいナイロンブラシを使用するのが最も効果的です。拭き取り、水洗い、ブラッシング、スプレーなどの動作を行います。

  • 水だけでは効果的な洗浄ができないため、有機物を除去できる洗浄剤の使用が必要です。洗浄剤は必ず医療機器への使用を推奨されたものを使用してください。

  • 洗浄剤がさまざまな医療機器の表面と相互作用するために推奨される接触時間を守る必要があります。急ぐ必要はありません。

  • 温水は洗浄剤の性能を向上させますが、45℃を超える温度はNGです。温度が高すぎると、タンパク質を含む汚れが凝固してしまうので、注意が必要です。
     

検査・組立・梱包

  • 検査・組立・梱包エリアに入る前に、洗浄エリアで作業時に着用していたPPEを交換します。

  • 洗浄後の医療機器を取り扱う前に、手指衛生を行います。

  • 医療機器の洗浄状況、損傷、機能などを検査します。

  • メーカーの説明書で推奨されている場合は、梱包前に機器を組み立ててください。

  • 滅菌剤を浸透させ、器具の無菌性を維持し、無菌的手法による器具の取り扱いを容易にするために器具を梱包します。

  • 化学的インジケータをパッケージ内部に設置し、開封時に検査できるようにします。

  • 洗浄された医療機器と滅菌された医療機器を区別するために、化学的インジケータを外表面に貼付します。

  • パッケージには内容物、有効期限および/または滅菌日、滅菌ナンバーのラベルを貼付してください。

 高水準消毒

  • 高水準消毒薬を取り扱う際には、リスクアセスメントを実施します。

  • リスクアセスメントとメーカーの指示に従い、PPEを着用します。

  • 推奨される接触時間に従って、すべての表面を消毒剤に浸し、消毒されていたことを記録します。

  • 毎日、消毒剤の濃度をテストし、その結果を記録してください。

  • 注 -消毒する容器の高水準消毒・滅菌は必要ありません。

滅菌

  • 耐熱性の医療機器には蒸気滅菌を使用するのが好ましい。

  • 医療機器の材質やデザインにより蒸気滅菌が使えない場合は、低温(酸化エチレン、ガスプラズマ、過酸化水素)および電子滅菌を使用する。

  • 滅菌蒸気との接触を促進するために、滅菌器/オートクレーブに過度の負荷をかけてはいけません。

  • 滅菌器から取り出す際、パッケージの化学的インジケータの変化、損傷、湿気がないかを点検してください。

  • 滅菌済みの医療機器を好循環の空気に当てて、冷却を促進させます。

  • プロセスインジケータのモニタリングと文書化により、滅菌の妥当性を確認します。

  • 滅菌サイクルの物理パラメータ(時間、温度、圧力)を記録します。

  • 滅菌物の内部および外部の化学的インジケータを監視します。

  • 生物学的インジケータを実施し、その結果を毎日、異なる滅菌サイクルごとに文書化します。

 保管

  • 医療機器は乾燥した清潔でほこりのない環境で、水道の蛇口や排水口がない場所で保管してください。

  • 滅菌物は床から離して収納し、壁や天井に触れないようにします。

  • 室温は15~25℃、湿度は40~50%が理想的です。

  • 定期的に使用期限を確認します。

 感想
今回ご紹介したガイドラインの要約は、WHOが作成しているため、発展途上国でも活用できるように、端的にまとめられたチェックリストのような冊子です。もちろん先進国でも使用できる内容のため、感染対策向上加算の連携施設訪問の際などにも活用できると推察されます。
滅菌や消毒よりも洗浄に対して細かいリストを提示しているのは、いかに洗浄が重要であるかの証左ともいえるでしょう。

Decontamination and reprocessing of medical devices for health-care facilities
(https://apps.who.int/iris/rest/bitstreams/1479607/retrieve)


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