大石貴幸

感染対策の専門家です。主な資格等は、医学博士、Infection control do…

大石貴幸

感染対策の専門家です。主な資格等は、医学博士、Infection control doctor (ICD)、感染制御認定臨床微生物検査技師、第1種滅菌技師、認定抗酸菌エキスパート、抗菌薬臨床試験認定者、文部科学省認定統計士、フィットテストインストラクター。

マガジン

最近の記事

熱傷・形成病棟における病院カーテンの汚染率:縦断研究

はじめに 患者のプライバシー保護のため、多くの病院にはベッド毎にカーテン(プライバシーカーテン)が設置されています。このプライバシーカーテンは、患者や医療従事者による手などの接触により、細菌に汚染されてしまい、感染源となる可能性が指摘されています。また、プライバシーカーテンは、高頻度に触れられるにもかかわらず、こまめに洗濯されていないことも、病原体の伝達に関与する一因と推察されています。 今回ご紹介する文献は、カナダの熱傷・形成病棟でクリーニングされた10枚のプライバシーカー

    • 消化器内視鏡検査に使用された軟性内視鏡の再処理後の微生物サーベイランス:全イタリア調査

      はじめに 十二指腸内視鏡に関連したアウトブレイクが世界的に報告されています。内視鏡の再処理の不備によって発生する医療関連感染は、内視鏡の微生物サーベイランスによって抑制可能と報告されています。 今回ご紹介する論文は、十二指腸内視鏡の再処理手順の有効性を評価することを目的とした全イタリア的な横断研究です。 方法 2019年12月から2020年4月にかけて、イタリアの15の内視鏡センターにおける再処理後の微生物サーベイランスから得られたデータを収集しています。内視鏡からの検体

      • 内視鏡的逆行性胆道膵管造影に使用した十二指腸内視鏡の細菌汚染の代替指標としてのアデノシン三リン酸測定法に関するシステマティックレビュー

        はじめに 米国では、内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)に使用する十二指腸内視鏡(十二指腸鏡)の洗浄・消毒不足による多剤耐性グラム陰性桿菌のアウトブレイクが問題となっています。私(大石)は2017年に、米国の軟性内視鏡に関する洗浄・消毒のオピニオン・リーダーの方々とディスカッションする機会がありました。話題の中心は十二指腸鏡で、日本ではなぜ十二指腸鏡を介してのアウトブレイクがないのか?などという質問を受けるに至り、彼らの国(米国)での十二指腸鏡の再生処理についての関心の高さ

        • 低環境負荷な床洗浄剤としての電解次亜塩素酸水溶液

          はじめに 近年、環境をターゲットとした清拭/消毒(以下、消毒)が一般化しつつあり、新型コロナウイルスのパンデミック初期には無差別に環境を消毒した国もありました。環境消毒に使われる薬剤は次亜塩素酸ナトリウムや第4級アンモニウム塩に集中しています。しかし、これらの薬剤を長期間使用すると、人や環境に悪影響を及ぼす可能性があります。よって、人体や環境に優しく、安全で取り扱いや保管が容易な、低負荷で効果的な環境消毒薬の使用が理想です。 今回ご紹介する論文は、次亜塩素酸水溶液を用いた環境

        熱傷・形成病棟における病院カーテンの汚染率:縦断研究

        • 消化器内視鏡検査に使用された軟性内視鏡の再処理後の微生物サーベイランス:全イタリア調査

        • 内視鏡的逆行性胆道膵管造影に使用した十二指腸内視鏡の細菌汚染の代替指標としてのアデノシン三リン酸測定法に関するシステマティックレビュー

        • 低環境負荷な床洗浄剤としての電解次亜塩素酸水溶液

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        • 環境備品
          1本
        • 洗浄評価
          2本
        • 軟性内視鏡
          2本
        • ATP測定
          1本
        • 洗浄消毒滅菌
          2本
        • 環境清拭/消毒
          3本

        記事

          医療施設のための医療機器の除染と再生処理

          はじめに 世界保健機関(WHO)は2016年に「Decontamination and reprocessing of medical devices for health-care facilities」と題して、医療機器の再処理となる洗浄・消毒・滅菌対するガイドラインを発表しています。このガイドラインは英文のため日本医療機器学会が翻訳したものをWHOのサイトからダウンロードが可能です。日本医療機器学会が発出している「医療現場における滅菌保証のガイドライン2021」よりもマ

          医療施設のための医療機器の除染と再生処理

          パルスキセノン紫外線による環境消毒が手術部位感染に及ぼす影響

          はじめに 手術部位感染(SSI)は、主に患者や術者が保菌する細菌によっておこります。また、手術室内の環境には様々な細菌が常在しており、環境からの感染もありうるとの意見があります。現に、整形外科手術前に手術室内を紫外線(UV)照射した場合では、SSIの発生率が低下したとの報告がありました。今回紹介する論文は、診療科別ではなく、手術創のクラス別で手術室内の事前UV照射がSSIを減らすかを検討したものです。手術創はクラスIが清潔創(整形や心臓血管手術など)、クラスIIは準清潔創(消

          パルスキセノン紫外線による環境消毒が手術部位感染に及ぼす影響

          中心静脈ライン関連血流感染予防のための消毒バリアキャップ: システマティックレビューとメタアナリシス

          はじめに 血流に侵入した細菌が心臓弁や椎体に付着すると重篤な感染症に進展する可能性があり、血流感染予防は重要です。特にカテーテルからの細菌の侵入は、効果的に予防できる様々な方法があるため、医療現場で活用されています。 今回ご紹介する論文は、中心静脈ライン関連血流感染(CLABSI)の予防を目的とした消毒バリアキャップ(参照: https://multimedia.3m.com/mws/media/1386094O/curos-disinfecting-port-protect

          中心静脈ライン関連血流感染予防のための消毒バリアキャップ: システマティックレビューとメタアナリシス

          漂白消毒剤ワイプへの着色剤添加による医療センターでの清拭・消毒効果向上

          はじめに 入院患者からクロストリジウム・ディフィシル(CD)やノロウイルスが検出あるいはアウトブレイクした際には、次亜塩素酸ナトリウムによる患者周辺環境の清拭・消毒が推奨されています。環境の清拭・消毒は実施者による均一性・確実性が問題になることがあり、清拭・消毒の効果が担保されにくい課題があります。 今回ご紹介する論文は、次亜塩素酸ナトリウム製剤(原文では漂白消毒剤と記載)に青色を着色することによって(青色は経時的に消失)、対象表面の清拭・消毒残しをなくし、視覚的なフィードバ

          漂白消毒剤ワイプへの着色剤添加による医療センターでの清拭・消毒効果向上

          β-ラクタマーゼ産生腸内細菌科細菌の予防における接触予防策の有用性を否定するエビデンスの増加

          はじめに Extended-spectrum β-lactamases-producing Enterobacteriaceae(ESBL-E)は、抗菌薬耐性菌として最も注意を払う必要がある重要な病原体です。本研究は、ESBL-Eが汚染した環境や感染した患者に対する接触予防策の予防効果に関する現在のエビデンスを明らかにすることを目的としました。 方法 2010年初頭から2022年10月18日までに関連キーワードでMEDLINEを検索し、論文を抽出しました。 結果 抽出

          β-ラクタマーゼ産生腸内細菌科細菌の予防における接触予防策の有用性を否定するエビデンスの増加

          院内発生BSIとCLABSIとの比較評価

          はじめに 中心ライン関連血流感染(CLABSI)は医療関連感染サーベイランスで使用され、医療施設における感染対策のベンチマークとしても活用されています。CLABSIは効果的な介入により、近年その発生率は大幅な減少傾向を示しています。しかし、血流感染(BSI)は依然として病院における感染や死亡の主要な原因となっています。中心ライン(CVカテーテルや血液透析カテーテルなど)と末梢静脈ライン(輸液や血管内への薬剤投与のための注入ルート)サーベイランスを含む院内発生(HO)BSIは、

          院内発生BSIとCLABSIとの比較評価

          ポータブル医療機器の清拭/消毒における持続活性消毒剤の評価

          はじめに 環境の清拭/消毒は、除染された表面がすぐに汚染されてしまう限界があります。近年、このイタチごっこを脱却する手段として、継続的な除染を実現する技術が注目されています。その有望な技術のひとつが、持続性のある第四級アンモニウム系消毒剤で、ポリマーコーティングが含有されており、環境表面にポリマーコーティングが結合して持続的な抗菌活性を発揮します。 今回ご紹介する論文は、持続活性第四級アンモニウム系消毒剤の有効性をリアルワールドで検証した米国からの報告です。 方法 本研究

          ポータブル医療機器の清拭/消毒における持続活性消毒剤の評価

          手袋装着手指へのアルコール手指消毒剤による汚染除去効果

          はじめに 米国疾病対策予防センター(CDC)と世界保健機関(WHO)は手袋を着用すべきケア時の手指衛生ゴールドスタンダードを、「手袋を外した後に手指衛生し、その後、新しい手袋を着用する」としています。しかし、この流れは、現場スタッフの負担となり、手袋の大量消費にも繋がります。 今回ご紹介する論文は、アルコールベース手指消毒剤を使用中の手袋に直接塗布することが、効果的で効率的であるかを検討した、米国からの報告です。 方法 米国の4つの病院の成人および小児病棟において、医療従

          手袋装着手指へのアルコール手指消毒剤による汚染除去効果

          汚染された排水溝に関連するカルバペネマーゼ産生菌の長期ICUアウトブレイク

          はじめに 病院の排水溝やシンクなど水回り環境に生息する緑膿菌や腸内細菌科細菌は、時として院内のアウトブレイクの原因となる場合があります。それら細菌が抗菌薬に感受性であれば、感染者の予後に大きな影響は与えませんが、耐性菌の場合は深刻な状況となることも想定できます。 今回ご紹介する論文は、ベルギーの総合病院で発生したカルバペネム耐性菌による水回り環境からのICUでのアウトブレイクを報告したものです。 経緯と方法 2018年から2022年にかけて、ベルギーのある総合病院の成人集

          汚染された排水溝に関連するカルバペネマーゼ産生菌の長期ICUアウトブレイク

          マスクって本当に効果あるの? ①

          マスクの起源と医療への活用 マスクの起源は、紀元前1世紀のローマのガイウス・プリニウス・セクンドゥス(長老プリニウス)が、鉱山で働く労働者を粉塵から守るために、ヤギの膀胱を利用させたのが始まりといわれています(1)。また、ペストが流行していた中世のヨーロッパでは、ペスト患者を診療する医師がカラスのくちばしのような形をしたいわゆる「ペストマスク」を着用し自身への感染を防御していた(当時は微生物という概念がなく“障気”の防御を目的としていた)と伝えられていますが、明確な証拠はな

          有料
          0〜
          割引あり

          マスクって本当に効果あるの? ①

          自己紹介と書く記事

          神奈川県内の病院に勤務する感染対策の専門家です。新型コロナウイルスの初期から5類感染症になるまでは、神奈川県の病院や福祉施設などで感染対策についてのアドバイスもしていました。厚生労働省の感染対策の仕事にも関わっています。専門は多岐に及びますが、感染症や感染対策、病原微生物、抗菌薬などに明るいです。 noteでは、一般的に実践されている感染対策の問題や最新の論文などを紹介していく予定です。1–2週間に1回程度の更新頻度を目指します。

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