がん遺伝子パネル検査②|実施のタイミング**

はじめに
今回は「がん遺伝子パネル検査」を“実施するタイミング”についてです。

軽く前回の復習です。
・がん遺伝子パネル検査を受けられるのは「がんゲノム医療中核拠点・拠点・連携病院」、つまり「がんゲノム医療●●病院」です。
・「(中核)拠点病院」と「連携病院」の違いは、専門家会議(エキスパートパネル)の有無であり、その有無から生じる差にも言及しました。

詳しくは、こちらでどうぞ。



◆費用

認知度自体は比較的高いPET検査
がん(悪性腫瘍)であっても「他の検査、画像診断により病期診断、転移・再発の診断が確定できない患者に使用する。」保険適用の条件が決まっています。そのため、健康のために受ける人間ドックなどでは、残念ながら保険適用とはなりません。参考までに、費用は以下のとおりです。

保険診療(3割負担の場合)
・PET検査:10万円前後(3万円前後)
・がん遺伝子パネル検査:56万円(16.8万円)

・PET検査に俄然興味が湧いてしまった場合には、『FDG PET、PET/CT 診療ガイドライン2020』がオススメです
・ガイドラインでは保険適用の「要件」と表記していますが、法律然として堅苦しいため「条件」と表記しています


◆保険適用の条件

対照的に、いつまで経っても低い認知度を維持し続けているがん遺伝子パネル検査ですが、やはり保険適用の条件があります。内容が細かくて分かりにくいですが、「であって」以前の部分については、前回もご紹介しました。

標準治療がない固形がん患者又は局所進行若しくは転移が認められ標準治療が終了となった固形がん患者終了が見込まれる者を含む。)であって、関連学会の化学療法に関するガイドライン等に基づき、全身状態及び臓器機能等から、本検査施行後に化学療法の適応となる可能性が高いと主治医が判断した者に対して実施する場合に限り算定できる。

保医発0531第1号 令和元年5月31日」より
※太字は加筆

また、上記「終了が見込まれる者」について。

医学的判断に基づき、主治医が標準治療の終了が見込まれると判断した者

疑義解釈資料 令和元年8月26日」(医学3頁)より
※太字は加筆

以上から、がん遺伝子パネル検査が保険適用になるかどうか、とりわけ「終了が見込まれる者」かどうかは、主治医が判断します!となります。

※補足です。
本検査施行後化学療法の適応となる可能性が高い」(上記、保医発0531第1号の引用箇所)
「本検査施行後」とは、がん遺伝子パネル検査の結果を患者さんに説明した後という意味です。
「化学療法」とは、いわゆる抗がん剤以外の薬剤(分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬など)による治療もすべて含まれます。

当たり前ですが…


◆実施のタイミング

さて「いつ実施しますか、先生!」となります。

諸条件を満たす必要はありますが、理想的な実施のタイミングとしては「標準治療の終了見込み」の段階です。なぜなら、標準治療の終了後だと、がん遺伝子パネル検査の結果が出るまでは少なくとも無治療になってしまうからです。

医師向けの「診療ガイドライン」でも、次のように言及しています。

遺伝子パネル検査を行うタイミングとしては、検体提出後、解析結果の返却までのターンアラウンドタイムが組織を用いた検査で6~8週、リキッドバイオプシーで2~4週であることを考慮すると、標準治療中、かつその終了が見込まれた時点で実施することが望ましい。

『乳癌診療ガイドライン2022年版』FRQ20より
※太字は加筆

「ターンアラウンドタイム」とカタカナ表記にはなっていますが、前回ご紹介しました「結果が出るまでの時間」(turn-around-time)」です。

補足です。
手術などで切除した組織があれば、優先的に「組織を用いた検体」での検査になります。リキッドバイオプシーとは「体液を用いた検体」での検査ですが、現在のがん遺伝子パネル検査は「血液」になります。

「turn-around-time」の観点からすると「血液検査(リキッドバイオプシー)」の方が有利であり、また検体採取も簡易的でかつ侵襲性も低いことから、検査件数増加傾向にあります。

※大まかな目安です(前回の記事とのリンク)
〈多くの患者さん〉
①組織検体…「FoundationOne® CDx」
②血液検体…「FoundationOne® CDx Liquid CDx」
〈若い患者さんや遺伝性が疑われる方〉
③組織+血液…「OncoGuide™ NCCオンコパネル」

・確実にがん組織が含まれている組織検体の方が精度が高いということで、組織検体を優先する運用になっています

なお、検体の差し替えなどがない限り「〜連携病院」でも8週間はかからないというのが、現状のようです。

まとめ

なんだか小難しい内容になってしまったような気がしています。一応、私が患者だったら知りたい内容なのですが、どこまでいっても基準が私というジレンマからは逃れられません。

大前提として、がん遺伝子パネル検査を受ける意思が患者さんにないのでしたら、主治医も無理に勧めることはありません。でも、受けるかどうか判断するための知識はある程度必要になります。

なお、今回の「実施のタイミング」については、費用負担の観点でも大変重要になってきます。

「3割負担でも16.8万円…高っ」となりますが、全額負担することはありませんし、ケースによっては実質0円というCM状態になることも。ということで、次回から「費用負担」をテーマにします。

<動画で学ぶ>

前回の参照先一覧以外で、かつ動画縛りですと、以下の2本がお勧めです(なお、通院先またはお近くの「がんゲノム医療●●病院」のサイトも覗いてみると良いのかなあと思います)。

◎がんとともに生きる 第2弾

テレビ朝日で放送された番組で、「がんゲノム医療中核拠点病院」の国立がん研究センター東病院が舞台となっています。

「がん遺伝子パネル検査」の説明はもちろんですが、遺伝子変異とそれに合わせた分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬について、一部のがん種を引き合いに出しつつ、具体的に説明しています。

“50分程度”ですが、どなたがご覧になっても分かりやすいと思います。「がんと生きる」で具体的なアドバイスを提案し続けているあの坂本さんも後半に登場されます。

上記動画のロングバージョン?は、テレビ朝日LIVEシンポジウムのサイトから。なんと“4時間”とあるため、さすがに観ておりません…。

◎ゲノム検査

最新のがん情報サイト「オンコロ」内のセミナーです。がん遺伝子パネル検査について「がんゲノム医療連携病院」北里大学病院のデータも紹介しています。

“1時間程度”の講演ですが、理解できるとかなり優秀な患者さん・ご家族です!

現在のがん遺伝子パネル検査の実際の運用を理解するためには、こちらの動画となります。患者さん・ご家族向けとしては、現時点での最高到達点かなあと感じます。

視聴のポイント!
・肺がんや乳がん、胃がんなど一部のがん種で、治療開始前に実施されている「コンパニオン検査(診断薬)」
“特定の”薬剤による高い効果が期待できる患者さんとのマッチングを図る検査です。
“網羅的に”遺伝子異常を調べる「がん遺伝子パネル検査」と似ていますが、区別してください。

語弊を恐れず簡略化すると…
・コンパニオン検査:薬剤→患者さん
・遺伝子パネル検査:患者さん→薬剤

混乱するかもしれませんが…両者は包含関係です。網羅的に遺伝子異常を調べることで、コンパニオン検査の役割も担えるのが遺伝子パネル検査です。もっとも、本記事のとおり適用条件に縛りがあります。その都度検査するくらいなら、最初から網羅的に調べたらいいのですが、費用とのバランスが出てきます。もっとも、費用の点でも治療効果の点でも遺伝子パネル検査を前倒した方がメリットは大きいよねーという研究発表もあり、あとは厚労省次第です。

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