「逃げる権利」「食べない権利」を!三田茂先生の講演から思うこと

「わいわい通信」2021年4月号に公開した原稿です。

 3月25日、コロナの流行がどうなるか予断を許さない中で「実施することに意義がある」とばかりに、オリンピック聖火リレーが強行された。何度も指摘しているように、「原発事故は終わった」「放射能被害は存在しない」プロパガンダのためのものである。事故炉の廃炉作業はデブリの取り出しもままならず、あと何十年かかるか分からない。汚染土や汚染水は溜まり続ける一方で、公共事業での使用や海への排出など、やってはいけない放射性物質の拡散が目論まれている。そして何より、4万人にものぼる人たちがいまだに故郷を追われ、避難を強いられているというのにだ!
 だが一方で、かつて避難を強いられた地域に不十分な基準の下ではあるものの、避難をやめて戻っている人もいる。放射性物質が撒き散らされた地区においても、農業・漁業他の生業を行う人が暮らしを立てている。そういった人たちが、今現在において健康被害を受けているわけではない…「放射能の被害」を言い立てるのは、こういった人たちの生活を妨害する「風評被害」であるという意見も根強い。

 3月11日に、「Go West Come West」が主催する「かけがえのないものを守るために」集会に参加してきた。原発事故後、東京から岡山に避難された医師、三田茂さんがリモートでお話しされたことが集会の主題である。三田さんは福島原発事故により放射能被ばくさせられた人のことを、ヒロシマ・ナガサキ、ビキニ、チェルノブィリ、湾岸戦争から引き続く21世紀の「新ヒバクシャ」と呼んでいる。その「新ヒバクシャ」に「能力減退症」が見られているのだそうだ。例えば
・記憶力の低下。ものおぼえの悪さ、約束の時間を間違える、メモを取らないと仕事にならない。
・疲れやすさ。仲間についていけない、長く働けない、頑張りがきかない、だるい、疲れると3~4日働けない、昔できていたことができない、怒りっぽく機嫌が悪い、寝不足が続くと発熱する。
・集中力、判断力、理解力の低下。話の飲み込みが悪く嚙み合わない、ミスが多い、面倒くさい、新聞や本が読めない、段取りが悪い、不注意、やる気が出ない、学力低下、頭の回転が落ちた、宿題が終わらない。・コントロールできない眠気。倒れるように寝てしまう、学校から帰り玄関で寝てしまう、昼寝をして気付くと夜になっている、居眠り運転、仕事中に寝てしまうので仕事をやめた。
 また臨床医として診ていると、疾病が典型的な経過を取らないので診断が困難な症例、身体所見や血液検査のデータ変化が乏しく判断を見誤りやすい症例、治療に対する反応が悪い症例が見られる。病原菌に対する防御力の低下、傷害組織の治癒力の低下、小さなキズの治りが悪い、皮膚炎が治りにくい…これらを含めた多面的「能力」の「減退」―「能力減退症」が事故後3~4年を経て急速に増えていることを感じ、危惧している。おそらく脳下垂体や間脳の機能が低下しているのであろう、ステロイド(副腎皮質ホルモン)を投与する、ちょっとしたきっかけの治療で良くなることがある。ある種のホルモンが減少しているようだとの診たてである。「能力減退症」と名付けたのは、被害者の方から、患者さんのほうから言ってきて欲しい、自分の症状を「こうだ!」と決めつけないで、放射能の影響だと認識して欲しいからと述べられた。
 一方で福島事故後、子どもの甲状腺がん検査が行われているが、問題なのは「小児甲状腺がん」ではない。チェルノブイリ後、ベラルーシでは小児、乳幼児の甲状腺がんが増えたが、福島事故後に増えた甲状腺がんは、どちらかと言えば15歳から18歳の、青年期にかかる層で増えている。ヒロシマで甲状腺がんは30~40代の病気であった。日本人のヨウ素摂取量は欧米とはケタ違いに大量!であり、この甲状腺がんは放射性ヨウ素の影響ではなく、長い期間原発を運転して、トリチウムや他の放射性物質にさらされてきた影響である。子どもよりも親のほうに甲状腺がんが見つかるのだ。だから「がん」は被爆問題のメインではない!甲状腺がんに拘ることは、ICRP₋IAEA体制の議論の土俵に乗っかるということだ。白血球の減少、白血球像の変化、諸々の自覚症状、感染症のプロフィールの変更、疾病の進行の様子の変化、診断がつきにくく治療の反応が悪くなってきていることなどを分析、議論すべきである。東京首都圏居住者の健康被害は明らかで、福島県の汚染の少ない地域や北関東の住民のそれよりも深刻である。公的データから見ても2021年1月、セシウム137の月間降下量は福島市で23MBq/㎞2・月、東京では0.63MBq/㎞2・月ある。福島を100とすると、東京は3ある計算だ。(西日本など非汚染地域は不検出)、2020年6月の上水道水では福島市で100とすると、東京では450もある!(これも非汚染地域は不検出)東京の汚染は深刻なことが分かるのだ。
 こういった「Go West 」関連の集会や、その他自ら調べたりしたことの結論としては、原発事故後に残るのは除染しきれない残留放射性物質による内部被ばくであること、その許容量ははっきりいって不明…おそらく取り込めば、確率は非常に低いがなんらかの害が出ること、そしてそれは空間線量による「安全基準」とは違うということである。ついでに言っておくと、西日本は空間線量が高いとか、飛行機に乗るとある程度放射線を浴びる、東京とかにいるだけなら、飛行機に乗るよりも被ばくしないとか、まことしやかに言われるのであるが、もともと自然状態で出てくる放射線よりも、バラ撒かれそこらへんに”落ちている”放射性物質があって、それを体に取り込むリスクが問題であるわけだ。それを避けようとすることは、人が生き延びようとするにあたっての当然の権利である。
具体的に「能力減退症」のようなことが起こっていても、医者にかからない、あるいは医者がそれを問題にしなければ、それらは「観測されず」問題とはならないだろう。また放射性物質取り込みによる内部被ばくによる健康被害は、その人の体質や取り込んで付着した臓器とかによりけりとなるので、現れる統計の取り方によっては「有意に」現れないくらい確率が大変低くなる。それが帰還したり、避難しなかった人に「今現在において健康被害」が出ていないように見える理由だと考えられる。もちろんそこに住んでの生業があり、生活があり、仕事がある人たちに対して「危険だから何が何でも逃げろ!」とは言うつもりはない。
 だがリスクを避けたい人、逃げたい人は逃げられるようにするべきだ。避難解除は「安全だから帰れる」というものではなく、リスクはあるので、帰りたい人は帰って良いし、逃げておきたい人はそのまま避難してもかまわないということだ。そして避難の権利は、そうした放射性物質がばら撒かれ、未だ残留している地域…東京都等でも…認められるべきである。私について言えば、福島の鉄道も、常磐線が全通しているので、また乗りたいし、福島交通飯坂電車にもまた乗って、飯坂温泉に浸かってみるのもエエかもしれない。浅草から東武鉄道―野岩鉄道―会津鉄道経由で会津まで行くのもまたやってみたい。まして第三セクターの阿武隈急行は未乗のままである。だが、いくら放射線レベルが低くなったとはいえど、たかだか10年前に放射性物質が飛び散り、残留している所に、仕事や遊びで短期間いるだけならともかく、ずっとそこに住めと言われれば拒否するだろう。
そして食品についても、農作物については、現在ほぼセシウムが「未検出」となるらしいが、避けたい人は避けるべきだ。私は「食の安全」とかにはけっこう無頓着で「遺伝子組み換え」食品だとか、食品添加物、残留農薬とかは普段からほとんど気にしないで食事をしている。よって「福島産」の食材、果物野菜その他も、売っていれば値段と相談して買うだろう(実際問題として、西日本に住んでいるとスーパーに東日本の野菜が並ぶことは少ない、りんご等の果物は並ぶが、りんごは高いのであまり買わない)お米はどこの地方で採れたのか分からないブレンド商品を買って食っている。しかし「風評被害」だからアカン!なんでも食え!と同調圧力で強制することは絶対に認めてはならない。「食べて応援」したくない人はしなくて良いのだ。

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