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ドラマ『しずかちゃんとパパ』をめぐるソーダのひとりごと

このドラマ、最初は見るつもりなかったのです。どうせ感動とか涙とか家族愛とか、みんなで障害を乗り越えてハッピーみたいな、お決まりのストーリーだろうと思っていたので。ひねくれ者なんです、私。

ところが予告編が公開されると、ストーリーより手話と当事者による表象 (=ろう者の役はろう者の俳優を起用すべきという考え) ばかりが話題になり、それはもちろん大切な問題だけど、うーむ、主役はコーダなのに、やっぱりろう者と手話ばかり注目されちゃうんだよね、と微妙な気持ちになってきました。そこで「ここは同じ聴者家族たるソーダとして、見てやろうじゃないか!」というヘンテコリンな正義感で見ることにしました。判官びいきなんです、私。

正直なところ、コーダばっかり…という気持ちもあります。映画『コーダ あいのうた』がアカデミー賞を取って「ちぇっ、聞こえない家族と育った聞こえる子どもという意味では同じなのに、ソーダはほとんど知られてなくて、コーダはやっぱり注目の的じゃん、いいなぁ」って。でも「コーダ考証」と「ろう考証」もついている日本のドラマなんて初めてだから、見ておこうと思いました。新しもの好きなんです、私。

ん?ソーダ?コーダじゃなくて?と思った方もおられるかもしれません。私には聞こえない妹・義弟がいます。聞こえない兄弟姉妹と育った聞こえるきょうだい――このドラマで言えば、戸田恵子さんが演じた幸江叔母さん――の立場の人を「ソーダ」SODA: Siblings of Deaf Adults(/Children) と呼ぶことがあります。これを機に覚えてくださるとうれしいです。

さてさて感想を一言で述べるなら…
たくさん笑ったし
何度もうなずいて
しまい込んでいた記憶を掘り起こされ
気持ちを揺り動かされ
泣かされて…
つまり、いいドラマでした。

親子であるコーダときょうだいであるソーダの温度差、ろう者やろう社会との距離感の違いを感じながらも、しずかちゃんのセリフや気持ちにも深く共感している自分がいました。
(以降ネタバレあり)

※第3回感想ツイート

私が何より嬉しかったのは、ソーダである幸江叔母さんの描かれ方。聴覚障害に関わるストーリーでは、聞こえるきょうだい、特に手話のできないきょうだいはなんとなく意地悪な役柄にされがちなのです。幸江さんを明るくて自然体で憎めない人物として描き、それを素晴らしいコメディエンヌである戸田恵子さんが演じてくださったことは、罪悪感と責任感を背負って生きてきた私にとって本当に救いでした。

※第1回感想ツイート

特に手話について。手話を使わないのか?という質問に「うん。いっぱいいるよー。聞こえない人の家族で手話使わない人。家族っていうか 本人も」と、あっけらかーんと答える幸江さんに、涙ぐんでしまいました。私はずっとずっと手話ができない劣等感をこじらせ続けてきたから。

ドラマの中の幸江さんは、しずかちゃんの知らないパパの過去を伝える役回りでもあります。時には当時の偏見や差別をそのまま伝える場面もあったし、幸江さんの言葉がしずかちゃんの重荷になったりもしていましたね。でも立場は違っても、どこかでわかり合える部分があるように思えてなりません。私にはコーダの甥姪はいないので勝手な妄想ですけれど。

※第5回感想ツイート

そして遺伝の問題にまで触れたのはびっくりでした。ソーダの私にとっても決して他人事ではなく、ドラマの展開はまるで夢のよう。いつかこの話をする日が来ることを覚悟していたパパが猛スピードで書き連ねる手の勢いに、問題の根深さが表れていたと思います。だからこそ、それを優しく止めた圭一ママの手に感動しましたし、誰も傷つけずに表現されていたのが見事でした。

※第7回感想ツイート

最終回で、幸江さんが「ありがとう」という言葉でしずかちゃんを縛ってきたことを謝るシーンがありましたが、その根底には、妹である幸江さん自身も幼い頃から縛られてきたもの――兄 (パパ) を心配したり助けたり面倒見なければという使命感――が透けて見えました。おそらく多くのソーダが親から言われ続けてきたことでしょうし、幸江さんにとっては、すでに生き方の一部になっているのだろうと推察します。私もまったく同じ。これは決して過去の話ではなくて、ソーダ・きょうだい児 (=障害児者のきょうだい) にとっては、今も昔も現在進行形の「あるある」なのです。

※第2回感想ツイート

コーダもソーダも、実際には色々な背景や人間関係があって、ろう社会や手話と関わりのない人もたくさんいます。大人になったソーダは、ろう者や手話の世界に近づかなければ、普通の人として自分が「主役」の人生を生きられるし、きょうだいって親子関係の影響を受けつつ一生変化を続ける微妙な関係だから、ソーダとして発信している人も少ないです。そんな中で、幸江さんというキャラクターをめぐって、あれこれ感想をツイートできたことが、とても楽しかったです。

※第4回感想ツイート

正直に言えば、聴者がパパ役を演じたことや手話の見せ方・扱われ方に不満がないわけではないし、手話がもう少しどうにかなっていたら…と残念に思うことも多かったです。ドラマの中での音や声に関わる演出が、やはり聴者目線だなぁと感じたりもしました。ちょっと悪口言ってしまって「米野菜」。

※第6回感想ツイート

コーダの「あるある」は進行するドラマの中のしずかちゃんに、ソーダの「あるある」は幸江さんの語りとセピア色の思い出の中に、たくさん散りばめられていました。たぶん私は、一般的な視聴者とは違う場面・違う理由で泣いたと思いますが、色々なモヤモヤや違和感に気づかされたことも含め、とてもいいドラマでした。世界を優しくしてくれてありがとう。

コーダ考証とろう考証、手話指導を担当された皆さん、「種まき」本当にお疲れさまでした。

※第8回 (最終回) 感想ツイート


【参考情報】
聞こえないきょうだいをもつSODAソーダの会

聞こえないきょうだいと育つということ ~聞こえるきょうだい=SODAソーダが考える「親あるうちに」~


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